【回胴狂時代④】男と女のラブゲーム

1991年ごろの話。

この日、自分は近所のＴ店へ『スーパーバニーガール』のモーニングを取りに行った。

それほど競争率は高くなく、客は10人ほど。
開店と同時に客が一斉にカニ歩きを開始し、朝イチ台が無くなると、波が引くように客が散っていく。当時のよくある光景だ。


開店から３分。すっかり静かになったシマで、自分は惰性でスーバニを回していた。モーニングこそ取れなかったが、少し様子を見るつもりだったと思う。



「やっぱりココかあああああああッ!!!!」



うお、ビックリした～。
今さっき横の入り口から入って来た小柄なバアさん（歳は70前後）が、鬼の形相で絶叫していた。
一体、誰に叫んでいるんだ？　その視線の先には、自分の斜め後方で『アラジンII』のモーニングBIGを消化する、恰幅の良いジイさん（同じく70前後）の姿が。このジイさんに言っているのか？　しかし、彼は振り向くこともなく、正面を見据えて淡々とBIGを消化している。



バア「ごるああああッ！　ヤメろよチクショウ！」



バアさん、アラIIを打つジイさんの背中に飛び乗ると、なんと後頭部をボカボカ殴り始めた。
（説明しよう。当時、この店は背もたれの無い丸椅子だったので、後ろから飛び乗ることが可能なのだ）
あぁ、やっぱりこのジイさんに言ってたのか。
おそらく２人は夫婦なのだろう。大方、禁スロを命じられているジイさんが、バアさんの目を盗んで打ちに来た、といった所か。それにしても、開店からたったの３分で、居場所がバレて店に踏み込まれてるジイさんって・・・。なかなかダセぇな（笑）。



ジイ「うるっせえんだよッ、糞ババア！」



ジイさんはBIGの消化を続けながら、バアさんを跳ねのける。後ろに吹っ飛ばされたバアさんが、もう一度ジイさんの背中に飛び乗る。凄い光景だ。こんな状況でもBIGの消化をヤメないジイさんは、筋金入りのジャンキーなのだろう。てかジイさんよ、アラIIの小役ゲームは１枚掛けすると早く終わるよ？



ジイ「クソが！　いま大当り中だろうがッ！」

バア「知るかチクショウ！　糞ジジイッ！」

ジイ｢んだとおおおおッ！｣



ジイさん、ついにブチ切れて椅子から降り、バアさんに馬乗りになって殴りかかる。それに対してバアさんは、ぐるぐるパンチと膝蹴りで応戦。ジイさんを跳ね飛ばし、今度はバアさんがマウントを取った。見たところ腕力こそジイさんの方が上だが、スピードとスタミナはバアさんに分があるようだ。そして気づけば野次馬が周囲に集まり、ホールの一角はさながらコロシアムと化していた。しかし・・・


「♪ピッ ポッ パッ ポッ」


エンドレスで流れるアラIIのチープなサウンドが、その緊張感を完全に打ち消していた。つーか、せめてJACゲーム中だったら、もう少し高ぶる雰囲気が出るのに。



店員「いい加減にしろやコラッ！」



ここでようやく店員が登場し、二人を引き離す。パンチパーマで見た目がヤクザな店員（ビーバップハイスクールに出てくる、菊リンそっくり）は、やはりパワーが違う。あっという間に２人の喧嘩を鎮め、野次馬も散っていった。


店員「お前ら、迷惑だから帰れや」

バア「ほら、さっさと帰るよッ！」

ジイ「いや、まだ当たってるから・・・」


ジイさん、この期に及んでBIGの消化を再開。そして、ようやく長かったBIGが終わり、ジイさんがコインを流そうとすると・・・


店員「あー、ダメダメ。11時まで流せないから」


そうだった。モーニング実施店の大半は、即ヤメ対策として開店から１時間はコインが流せない。ジイさん、どうするんだろ？

そんな時、自分の打つ台にリーチ目が出現。ようやく訪れた初BIGを消化し、再びジイさんの方を見てみると・・・


ジイさんバアさん、２人並んで黙々とアラIIを打っていた。


おそらくジイさんが出したコインを、２人で使っているのだろう。さっきまで壮絶なバトルを繰り広げていた２人が、並んでアラIIを打つその光景は、なんとも「ほっこり」するものだった。この２人、仲が良いかどうかはさておき、きっと死ぬまで一緒だろうなぁ。




この日、自分は生まれて初めて「男と女の、ガチの殴り合い」を見た。それと同時に、この２人からは「夫婦の絆」も教えてもらった気がする。まあ、そんなイイ話じゃないけども。



ちなみに、ジイさんバアさんのコインはスコンと飲まれ、おとなしく退散しておりました。



おしまい。





【追記】
この数か月後、同じホールでちょっとした恐怖イベントがあり、それは以前コラムに書いてます。
よろしければ、こちらもどうぞ。
https://pachiseven.jp/columns/column_detail/6535#contents

ではでは。

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