父の話

10年以上昔のこと。

父が近所のホールから帰ってくるなり、
「あのカエルの4つボタンあるヤツ。
　何で4つも押さないといけないんだろうな」
と言い出した。

当時は5号機ニューパルの4リールと3リールが並行稼働していた時期、
父は好んでニューパルを打っていたし、
一般的なリーチ目も理解していたので
「何を今さら…」
と思わずぼやいてしまった。

その頃の父はすでに年金暮らし。
母は亡くなっており、
私も個人的な都合により無職。
家賃こそ貯金を切り崩して私が払っていたが、
それぞれの生活費はパチンコ代含めて自己責任。

「5号機規定に乗っ取った形で
　4号機時代のリーチ目を再現しようとして…」
と言おうとして、声にするのをやめた。
どうせそんなこと言ったって伝わらないしな。

父は近所のホールでニューパルばかり打っていた。
ホールの設置台数と実情から
「ジャグラーの方が勝てるよ」
と助言したことがあるが、
聞けば、生涯で何回かあった
『当たっているカエルを拾う』
という成功体験が忘れられないらしい。

その考え方自体は悪くはないが、
設定の入らないニューパルに毎日座った挙げ句、
「流れが悪かった」
「俺が辞めたあとに若いのが打ったら当たった、
　インチキだ」
などと、いかにもな文句を言う父が嫌いだった。

当時の自分は無職だったこともあり、
打つからには勝たねばいけないプレッシャーもあったせいか、
なおさらそういうことを言い出す父を毛嫌いしていたように思う。

間もなく父はくも膜下出血で倒れ、
あっけなくこの世を去るのだが
年金で気ままにホールに通い、
小さな世界の中で一喜一憂する父を
今となっては羨ましく思えるようになった。

私はというと
父が愛したり文句を垂れてたそのホールで、
たまにニューパルを擦り、
紆余曲折あって、そこで知り合った地元の社長さんのところで厄介になっている。

「ニューパルで就活」

そう思いながら、今日もニューパルSPⅡで右リールに赤7を狙っている。

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