パチ7落語会

夏ももうすぐ終わりに近づきまして、冷えたビールを流し込む季節ももう終わりだなぁと寂しくなります。

けれどもすぐに秋がやって来て食欲の秋。脂の乗ったさんまで一杯。

そうして冬がやってきて鍋なんか囲みながら一杯。

冬が終われば春が来て花見で…って私ずっと呑んでますね。

さて世の中には食通、と言われるお方がおりまして、食へのこだわりと知識はとても素晴らしい物であります。
そんな食通でも困ってしまうような事もございます。

「おい新さん、せっかく酒があるのにつまみがねぇって言うのはどういう事だい？」

「つまみは台所の奥に古漬けがあるだろう」

「やめとくれよ。臭くって酒なんぞ呑めやしない」

「そういえば、戸棚に豆腐が置いてあったわ」

「それを早く言いなさいよ。つまみには持ってこいじゃないか」

「いや…それが…」

「それがどうしたってんだい」

「昨日の朝から出しっぱなしなんだよ」

「なんだいそりゃ。こんなに暑い日が続いてんのに、昨日から出しっぱなし？ 腐ってるに決まってらぁ」

「いやわからんぞ、とりあえず持ってくる」

「ブフホォォォ」

「ほれ見たことか。酸っぱい臭いがそこら中に漂ってんじゃねぇか。……おや、あれは呉服屋の若旦那じゃないか。あいつは食通ぶっててなんだか生け簀かねえ。よし、この酸っぱい豆腐を食わせてみようぜ」

「若旦那！若旦那！」

「ああこれは八っつぁんに新さん、お二人揃って」

「仕事も休みだから酒でも呑もうと誘いましてね、ちょうど旅行から帰って来たばかりの新さんが、南蛮渡来のつまみを買ってきたってんで、これから食うところでさぁ。
そうだ。若旦那も上がって一口どうです」

「いや、私は家に妻を待たせてますから…」

「いやいや一口くらい酒に付き合ったってバチは当たらんでしょう？ それに私らの酒は呑めないとでも言うんですかい？」

「じゃあ一口だけ頂いていこうかな」

「さすが若旦那、べっぴんのお嫁さんをもらうだけあって器量が大きい。新さん、あの南蛮渡来の一品、持ってきておくれよ」

「ほほぅ、これがブフホォォォ！ ブフホォォォ！ 南蛮渡来ブフホォォォ！」

「どうしました？若旦那」

「これは珍しい、酢豆腐ですか」

「酢豆腐？」

「そう、この酢につけた豆腐が南蛮では重宝されましてね、臭いはきついけど非常に美味なんですよ」

「…そうですか？私らはただの腐った豆腐なんでとても食べられない代物ですが」

「これだから素人は困ります。この独特の風味がたまらないんですよブフホォォォ！」

「むせながらも全部食べちまったよ、夏だから頭おかしくなったのかい」

しかしこれでは面白くないと、新さんと八っつぁんは無理難題を押しつけます。

「ところで若旦那、若旦那はなんでもご存じのようで」

「ああそうだね、食に関しては誰にも負けない自信があるよ」

「そうですかい。じゃあこいつは食べられるんですかね？」

そう言って一台のパチスロ台を持ってくる。

少し困った表情をした若旦那。しかしすぐにこう答える。

「あぁ、このパチスロ台はきちんと火を通さないと食べられませんよ」

「一体どういう事ですかい？」





「レバーは生じゃ食べられない」



お後がよろしいようで。

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