SENZIN伝：第4話「目押し不要の婦人SENZIN 」

タイルまん SENZIN伝

最近はめっきり寒くなった。気温だけではなく、懐も寒くなっているユーザー様も多いだろう。懐が寒くなるとどうしても心が荒んでいくものだ。

そんな皆様に今回はただただホッコリとしていただく回だ。執筆している自分でさえ (これは世に出してもいいのか？) と、自問自答をしてしまう程のものだ。なんせ今回の先人…キャラ薄めだからだ！

しかし…俺はどうしても書きたかった。どこにでもいる先人だが皆様に紹介したい先人なのだ。

その日は空は快晴だったが台風並に風が強く吹いていた。給料日前という事と、車の操作が風に取られる位の強さだったので近場の低貸し専門店に来た。 10スロコーナーを見渡すとバジ絆にまどマギと人気台は埋まっていた。埋まっていたのだが…。気になる…。

2台あるまどマギの1台が1箱出ている。それを打っている人物。席の脇に杖を立て掛けている婦人。推定年齢は70代中盤くらいだろうか。こんな事を思うのは失礼だが…まどマギが似合わない。気品のある婦人がまどマギ…何故か笑えてくる。 ART中に気味の悪い場所を一生懸命走っているまどかは運動会で走っているこの婦人の孫に見えてくる。

打つものが無い俺はまどマギの後ろにあった凱旋を打つことにした。

しかし…今日は風が強いな。外をボーッと見ながら凱旋の通常を消化していると

「ねぇ」

左隣から声をかけられた。声の方を見てみると先程までまどマギを打っていた婦人だった。

婦人「ねぇ。ここは交換率等価なの？」

タイル「え？等価では無いっす。」

婦「そうなの？この店だけ？」

小綺麗な服装をされた気品のある先人だった。この県では全店が等価では無い事を伝えると婦人は驚いた表情をされた。

タ「お母さんはこの辺の人じゃないの？」

俺は婦人に尋ねた。この辺の人なら交換率を知っている筈である。

婦「そうなのよ。私ね、相模原から来たの。」

神奈川から？

婦「娘がね、こっちに嫁いだのよ。だから孫に会いにたまに来ているのよ。」

タ「へぇ！そうなんだ！お孫さんはまだ小さいの？」

婦「小学1年生。だから昼間は学校だし娘も仕事だからやる事無くて打ちに来てるの。」

そう言い終えると婦人は口を抑えながら笑った。暇なら打ちにくる…なるほど…あんた生粋のギャンブラーだね？

タ「パチンコは相模原でもよく打つの？」

婦「打つわよー！趣味だもの！相模原には駅前に大きな店があるの。そこでこの間、海で2万発出したのよ！」

タ「2万発！？凄いね！壊れてたんじゃない？(笑)」

婦「多分ね！(笑)」

バシバシと俺の肩を叩きながら笑う婦人。楽しそうに勝ち自慢してくる辺り本当パチンコ好きなんだろう。

タ「さっき後ろの台打ってたけど、止めちゃったの？」

まどマギを指差して聞いた。

婦「あー！よく分からないからね♪」

よく分からないもの打つなよ！

婦「目押し出来ないしね」

目押し出来ないけど打ったの！？なかなかのチャレンジャー！そしてまどマギからの凱旋移動。

タ「なんで次の台はこれなの？」

婦「目押しいらないじゃない」

シンプルだな！

タ「そうだねぇ。ジャグラーは？」

婦「ジャグラーなんかよりこっちの方が簡単よ！」

えええぇ！？

婦「ジャグラーは7を目押しする様じゃない？こっちいらないもの！当てればいいだけ」

結局目押しの話かい！

婦「パチスロは目押しするから嫌いだったけど今目押しいらないもの多くなってくれて助かるわ♪」

笑いながら婦人はそう言った。バジやGOD、それにガルパンにルパン…言われれば目押し不要機は多いな。先人はよく分からないから分かりやすいジャグラーを好むって思ってたけど…。ジャグラーは目押しが必要だから打ちたくないって理由もあるのか。そういえばカイジに座る先人も多いな。そういう理由なのかな？うん…。それなら何故まどマギ打ってたんだよ！！

タ「いや、さっき打ってた台も目押し必要でしょ！」

婦「そうなのよねぇ！」

笑って誤魔化してるよ…。

婦「ところで…」？婦人は首を傾げながら

婦「これはどうすれば当たるの？黄色い数字揃ったけど当たり？」

えぇー！？そこから！？

タ「これ赤い数字揃わないと当たりじゃないのよ。雷が頻繁に来たりするとチャンスだよ」

婦「初めて触ったけど結構面倒くさいのね」

一言でバッサリ切り捨てた…。というか初打ちかよ！目押し云々の前の話だよ！！

タ「お母さんさ、パチスロ打ってて楽しい？」

婦「楽しいよ？何が起きてるか分からないけど賑やかだから楽しいの！」

何が起きてるか分からない(笑)

婦「それに知ってる？パチンコってボケ防止にもなるのよ！」

確かにボケ防止にパチンコは向いている。目や耳からの刺激、そして手作業。非日常的な外部からの刺激により脳が活性化される…らしい。少なくとも家に引きこもっているより数百倍ボケ防止にはなる。

婦「お兄ちゃんみたいに私みたいなババアでも話してくれる人もいるしより楽しいの。若いパワー貰えるから！」

上品な笑い方をして婦人は俺の肩をペシペシと叩いた。そう言って貰えると俺も嬉しいな。こんなクズと話して楽しいなんて言って貰えるなんて…風強かったけど来て良かったな。そんな事を思いながら打っていると婦人の台から押し順ペナ音が何度も鳴り響いた。

なにやってんだ？まさかわざとか！？婦人は隣の島のバジ絆を見ながらよそ見打ちをしていた。ペナ音が鳴る度にするリアクションがいちいち上品だ。ビクッとして口元付近に手を当てて肩をすくませる。そんな驚くならちゃんと見て打てよ！左から押さないといけない事を伝えようとすると婦人は俺の方を向いて

婦「あの機種打ってみたいの」

絆打ちたいの？？？

タ「え？なんで？」

婦「あの台もこれ(凱旋)と一緒でしょ？」

多分目押しいらずって事だろうな。

婦「それにどこの店でもいっぱい出てるのよ。楽しそうなんだけどいっつも席が空いてないから打ててないの。」

タ「お母さん…なんでも打ちたい人なんだね！」

婦「そりゃそうよ！老い先短いババアなんだから楽しい事を少しでもやんなきゃ！」

まさかのブラックジョーク！でも楽しそうって思えるって実は若い証拠だと思う。要するに『興味』という奴だ。きっといつかは消えてなくなる感情である。それがまだある時点でこの人は若い。

タ「今日も埋まってるから打てないね」

婦「そうね…でもどうせ負けるだろうけどね！」

タ「そんなの分からないじゃん？勝ってお孫さんに玩具買ってあげなよ」

婦「玩具は娘に怒られるから買ってあげれないの。でもその代わりにお菓子とか内緒で買ってあげる(笑)」

タ「バレない？」

婦「お母さんに内緒ね？って(笑)」溺愛してるなー！！

タ「いつかお孫さんと一緒にパチンコ出来たら楽しいだろうねぇ」

婦「その前に私があの世に行っちゃうわよ！(笑)」

タ「頑張らなきゃ！大丈夫だって！」

婦「ダメダメ！もう体ボロボロだもの！」

体ボロボロの人間はパチンコ屋に来れねーよ！！

タ「でも少しは孫と打ちたいって思ってるでしょ？」

婦「少しはね？」

婦人はくしゃっと顔にシワを寄せて笑った。そんな事を喋っていると婦人の台は青7が揃った瞬間、右から左へと風が吹いた。えっ！

タ「お母さん！当たった！」

婦「え？」

タ「それ当たり！当たったよ！」

婦「何も起きないわよ？」

タ「絶対当たったから！止めないで打ちなよ！」

婦人はよく分かっていないが、この見ず知らずの好青年がそう言うんだから間違いないのだろう…という顔で黙って首を縦に振り真剣な眼差しで台と向き合った。程なくブラックホール演出がきた。

タ「これで当たりだよ！」

婦「…」

タ「おめでとう！」

婦「…」

あれ？聞こえてないのか？ブラックホール演出は3G目に突入。

タ「きた！」

婦人は右手の掌を俺の方に出して待てのポーズをした。分かってる。分かってるから少し黙ってろよ！今良いところなんだから！そう言いたかったのだろう。婦人に軽く拒絶された。少しショックを受けた俺の心とは裏腹にけたたましい音と共に揃ったのは3の数字。

タ「おめでとう！やったね！」

ふぅーっとため息をついて婦人は

婦「本当に当たったねぇ！お兄ちゃん凄いね！」

笑顔でポケットから何かを出して渡そうとしてくれた。

婦「これ！」

俺の左手を取り握らせた。

130円だった。

婦「お礼！少ないけどね、好きなもの飲んで！」

別にお礼なんてされる必要はない。喋ってただけだし、知ってる知識で少しアドバイスしただけだ。 130円が少ない？多過ぎるだろ…。

タ「なんもしてないよ？」

婦「ババアの面倒見てくれたお駄賃だから貰ってちょうだい」

婦人はまた俺の肩をペシペシ叩いて口元抑えながら上品に笑った。孫が小学1年生って少し遅めの孫だったんだろうな。早けりゃもう一緖に打てる年齢位にはなってたろう。娘さんが打つかどうかは聞かなかったけど…孫と一緖に打てたらどんなに嬉しいだろうか。今日は俺なんかで申し訳ないけど孫と打つ予行練習って事でその駄賃と思おう。俺は一礼をしてコーヒーを買った。席に戻ってくると

婦「お兄ちゃん！なにこれ？」

婦人は黄7を5連させストックしていた。 …婦人には良い風が吹いてますなぁ。俺は軍資金が底をついた。帰る事を婦人に伝えるとまた会ったらお喋りしてね婦人からニコリと一言。負けたけど金じゃ買えない温かいものを俺は手に入れた気がした。

外に出るとまだ風が強く吹いていた。ノーマルタイプは確かに分かりやすい。でも…目押しが大抵は必要だ。今ノーマルタイプが増えてきて目押しが必要な台も増えてきている。けど…初心者や先人がとっつきやすい目押し不要機も増えていいのかも。 GODやバジ…若者だけが楽しめる台って事でもないんだな。

沖トロも勝手にボーナス揃っちゃうから楽しみ半減なんて思ってたけど、目押しができない人達からすれば目押しミスってコインロスしなくて済むありがたいシステムなのかもしれない。

…あの婦人が10数年後にヨボヨボになりながらも、孫に手を引っ張られてパチンコ屋で笑って打っている未来が来ればいいなぁ。風に吹かれながら希望に満ちた未来を願った。

キャラが薄い先人かもしれない。ただどんな小さなものでも夢がある人は歳なんか関係なく輝いている。その夢ってのは他の人から見たら小さなものかもしれないけど、そいつが叶った所を俺は見たいな。

そんなキャラ薄キラキラ先人をギラギラしてる編集長から何を言われてもいいので、どうしても紹介したかった。

目押し不要の婦人SENZINから頂いた暖かいもの。東北の厳しい冬。タマにはこんな話もいいでしょうよ。

なぁ編集長。