SENZIN伝：第3話「短時間で波を掴むSENZIN in 熊本」

タイルまん SENZIN伝

先日、仕事がキッカケで熊本に行った。

今日はその時に知り合った先人の話をしよう。

※九州弁がおかしい所があるかもしれませんが、ご了承ください。

復興支援という形でお邪魔した施設で俺は夜勤をメインに働いていた。

その日、出勤すると1人の肌が黒光りして筋肉質な男性が俺より先に仕事していた。

声を掛けると今日一緒に夜勤をする社員さんだった。

(親父と同じ歳位かな？)

そう思っていると

「坂本や！よろしくどうぞ！」

おぉ…話し方に勢いを感じる…。

坂本さんと一緒にワッセワッセと働き、仕事にひと段落ついた。

小さな木造のテーブルを真ん中に対面で座り休憩をとることにした。

坂本「兄ちゃん幾つ？」

俺は自分の年齢を伝えて坂本さんに年齢を聞くと、

坂「兄ちゃんには俺は幾つに見えると？」

合コンに来た女かよ！

女「えぇー？幾つに見える？」

どーでもいいわ！お前の年齢はどーでもいいわ！

話の切り口として聞いたんだよ！

少し若めに言ってほしいんだろ！？

タイル「んー…23かな？」

女「えー？そんな若くないよぉ！」

知ってるよ！！

28位だろ！！

相当サバ読んだんだよ！！

はい。これと同じパターン。

そう悟られないよう坂本さんの目を見て、

タ「そうですねぇ…まだ還暦前でしょう？57歳ですか？」

本当は俺の中では62歳程。 5歳位サバ読んでおけば大抵はどうにかなる。

坂本さんは少し口元が緩み、

坂「ほう…そう見えるか。70歳たい。」

タ「は？70歳！？」

素直にリアクションしてしまった。

まさか70歳でそんな艶のある肌と体格をしているとは想像していなかった。

タ「見た目若いですね！秘訣はなんですか？」

坂「知らん。ただ昔は自衛隊いたとね。10年働いた後に従兄弟から誘われてJTに就職したと。定年退職した後は劇場の管理人やっとった。そして今や。どの時代でも共通してやっている事は…」

坂「酒とパチンコばい！」

酒とパチンコ…。この人が言うと何故か絵になる(笑)

タ「パチンコですか？奥さん良い顔しないんじゃないですか？」

坂「家内なんぞ知らん。俺が飯食わせとるけん、ばってん稼いだ金は好きに使ってもええやろ。大体家内と一緒におると、あない暇なもんは無かね！この間も…」

おい止まんねーよ！

奥さんに対しての不満が波状攻撃の様に止まんねーよ！

タ「坂本さん！パチンコは今でもやるんですか？」

これ以上夫婦の不満ぶち撒けられても困るから無理やりカットインした。

坂「今回の地震でまだやってない店もあるけん、やっとるパチンコ屋に行って打ってるとね」

その時期の熊本は連日雨が続いていた。

テレビでは ○○地区が土砂災害発生 ○○地区に大雨洪水警報 ○○地区に避難指示など常に危険な状況だった。

営業再開できる店も地区によっては限られていたのかもしれない。

タ「何を打たれるんですか？」

坂「海ね」

先人達の中でのロングセラーで1番熱い機種の海物語シリーズは全国共通らしい。

タ「何がいいんです？」

坂「単純やろ？それに勝てるけん」

タ「へぇ。他の機種は打たないんですか？」

坂「他のはリーチアクションが長くて好かん。パッと当たってガツンと出てくる方が楽しいやろ。リーチアクションが長い奴で外れた時くらい腹立つ事ないけん、長けりゃいいってもんじゃ…」

また波状攻撃かい！！

不満を口にする時間が長いよ！ボタンが勃起するメーカーのリーチアクション並みに坂本さんも不満時間が長いよ！！

タ「坂本さん！立ち回りどうしてます？」

とりあえず本日2度目のカットインをした。

坂「開店から閉店まで同じ台打つ」

…ザ・九州男児ですな。

タ「それ勝ててます？」

坂「負けるわな」

ハッキリと（笑）

坂「昔は朝から晩まで同じ台をやった。しかしパチンコってのはこれがあるやろ？」

そう言って坂本さんは腕をウェーブさせた。

タ「台の波って奴ですね？」

坂「そう。だから良い時もあれば悪い時もあると。ただ、この歳になるとずっと座り続けてるのは腰にキツか。ばってん今はそんな事せん。」

自分の腰付近を右手でバンッと叩き、しかめっ面で首を横に振りながらそう言った。

タ「今は？」

坂「短時間勝負たい。昼過ぎに行って外が暗くなったら止めて飲み行くんよ。」

タ「台はどうやって決めてるんですか？」

坂本さんは70歳とは思えない逞しい腕を前に組んでギラギラした目で、

坂「朝イチに早く当たった台は駄目。不思議とハマるけん。若いもんが言う確率の収束っていう奴やろ？」

タ「そうですね…」

それ何十万回転させないとそうならねぇんだけどな。

坂「あと画面に偶数が並んで止まってる台は打たん。」

ん？偶数…？

坂「例えば2・4・6みたいに止まってる台よ。こりゃ経験上どうやっても出んばい。」

タ「なるほどぉ」

聞いた事ねーよ！

坂「やけんそれ以外の台打つ。」

タ「そうすると…？」

腕組みをしながら坂本さんは胸を張り自信満々な表情で一言。

坂「出る！」

タ「素晴らしい！」

まっ、大半の台偶数で並んで止まってないと思うんだけどね！

逆に偶数並んで止まってる台を探す方が大変だよ！

坂本さんはすっかり暗くなってボンヤリと遠くで光っている窓の外の街灯を見ながら、

坂「パチンコってのは…波を掴む勝負たい。」

エ○レカの話をしてるのかな？

坂「ダラダラやっても勝てん。」

タ「一気に出ちゃったら即止めします？」

フゥッと坂本さんは一呼吸置くと

坂「兄ちゃん…そこは自分の直感よ。様子見で一箱使って来んかったら止めるのが無難。」

タ「次座った人がすぐ当たって自分以上に出したら？悔しくないですか？」

俺の質問を鼻で笑ってコーヒーを啜った後に坂本さんは、

坂「そげなもん仕方なかとよ。その人がガッチリ波に乗れたんやろ。乗れなかった自分が悪いたい。」

波に乗るだの乗れないだのサーフィンの話をしてる様に思えてくるが…パチンコの話である。

坂本さんが稲村ジェーンに見えてきそうだ…。いや…この人は稲村ジェーンなんじゃないか？

しかし俺は稲村ジェーンをよく知らないから、やはり稲村ジェーンには見えない。

坂「短時間勝負にしてから勝つ事が多くなったとね。」

タ「そうですかぁ…いやぁ俺は負けっぱなしで…。」

坂「兄ちゃん！負けってのは本当にスッカラカンになった時と！」

口調が荒々しくなり、坂本さんの目がギッと吊り上がった。

坂「本当に打つ金が無くなった時が負けた時！それまでは負けてないんよ！簡単に負けたとか言っちゃイカン！打つ金がある限り、負けは無いとよ！それにさっきの次の人が出したらってのも悔しがったらイカン！自分は自分で他人は他人！キッパリと割り切らなケツの穴の小ちゃな男になるたい！」

坂本さんはきっと自衛隊で本当の負けというものの惨めさを知ったのかもしれない。

そしてJTでは単身赴任を繰り返していたと言っていた。

部下が300人いたとも言っていた。

そこまでのし上がるには人を学んで自分を確立しなければならなかったのだろう。

簡単に『負け』という言葉を口に出すな！

悔しがらずに懐の深い人間になれ！

そう言いたかったのかな。

熊本に来て俺は少し大人になれた気がした。

坂「でも出んかったら負けたい」

どっちだよ！！

坂「あと自分より出してたら腹立つばい。なんで自分の時に出んくてそいつに出すのか！幾ら金入れてると思ってるんだ！この間も…」

やめろやめろ！最後の最後にケツの穴の小ちゃい波状攻撃をしてくるな！

さっきと言ってる事違うじゃねーか！

俺の感動を返せ！！