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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2024.03.12
アツい局面での心構え~5号機トータル・イクリプス②~
前回のあらすじ
誌面に掲載する実戦データを採るため、後輩編集のNくんとともに5号機「パチスロ トータル・イクリプス」を打ちにきたラッシー。しかし、台の調子は2人揃って悪く、店を選んだラッシーは自責の念にさいなまれる。が、開店から2時間すら経っていない午前11時前、Nくんの口から思いもよらない言葉が飛び出す。「ロンフリしました!」。その確率、約11万分の1―――!!
前回(①)はこちら
――「こんなチャンス、もう今日は無いからね!」
編集N「緊張してきました」
引くことを願いつつも、引いたら引いたで緊張するのがロングフリーズというもの。その確率が重ければ重いほど「もしも不発に終わったら…?」という恐怖も大きくなる。
――「(ロンフリの)前兆はあったの?」
編集N「ありましたね。なんの煽りだろうって思ってました」
――「ほ〜、それは貴重なサンプルだわ」
そう。トータル・イクリプスのロンフリは、一般的な機種のそれと発生メカニズムが大きく違う。
ロンフリの前兆。
一般的なAT機・ART機のロンフリは、概ね何か重めのフラグを引くと即座に発生する。もしくは中段チェリーの何分の1といった風に、特定のフラグの一部で発生するパターンも多い。
トータル・イクリプスのロンフリも後者のタイプに属すが、その抽選契機が驚くべきことに〝ベルこぼし目〟。
当然ART機ゆえ、通常時は頻繁にベルを取りこぼす。その〝こぼし目〟の極々一部でロンフリが当選し、最大32Gの前兆を経て発動するわけである。
この〝ロンフリに前兆がある〟という点がニクい! たまたまレア役成立の前後にカブればCZの前兆と誤認しやすい。「お、CZ当たったか」と油断したらロンフリが発生するという、嬉しいサプライズが起こりうる。
逆にレア役成立の前後にカブってないならなおさらアツい。何も引いていないのに急に前兆が始まるり、Nくんのように「なんの煽りだろう?」と思っていると、その果てにロンフリが発生するというわけだ。
「SANKYOの機種だから、謎の煽りがあっても1ミリも期待しない」などとタカを括っていると、ロンフリ発生で腰を抜かすことになる。
――「しっかしなぁ………」
続く言葉をグッと飲み込んだ。俺も大人になったのかもしれない。
寝取られ気分。
俺がNくんを遠いホールまで連れてきたのだ。心の底から勝って帰ってほしいと思っている。その気持ちに偽りはない。
しかし、どうしても嫉妬してしまうのだ!「なぜ俺じゃナイのか?」と!
Nくんもトータル・イクリプスの担当編集だ。一般のプレーヤーに比べれば当該機種の打ち込み度は高いだろう。
しかし俺は、その彼をも遥かに超える稼働量のハズ!
近頃は収録でもよくトータル・イクリプスを打っている。マイナー機ゆえディレクターに嫌がられるが、俺はこの稀代の暴れ馬の魅力を少しでも世に広めたい。
もちろんこの機種がヒットしようがしまいが俺に損得はほとんどないのだが、やっぱり好きな機種は多く・長く置かれてほしい。
そんな気持ちで熱心に布教活動を続けてきたのに、なんで俺じゃねえんだよ! 長年連れ添った彼女を、ぽっと出のギャル男に奪われたような気分だった。
彼のロンフリ。
編集N「じゃあはじめますよ?」
――「ブチかましたれー!」
まずはRC(擬似ボーナス)の消化からスタート。ロンフリならRCストックは5個以上と言われているが…
編集N「なんか…なんの抵抗もできずストック消費していきますね」
――「まあ、ここはしゃーないよ」
普段のRC中は、主にランクアップ(※)を目指して消化する。しかしロンフリ経由ならすでにランクがMAXの5まで上がりきっているため、ただただいたずらにストックを消費しているように感じてしまう。
レベルとランク
ART(ST)には3つのレベルと5つのランクが存在し、その15通りの組み合わせにより実質的な継続期待度が変化する。最低のレベル1×ランク1なら46.8%、最高のレベル3×ランク5なら94.3%。ランクはART継続時(RC消化中)にアップする可能性があり、レベルはART中のリアルボーナス当選時にアップする可能性がある。
――「ダイジョブ、帝都とガチボ(※)狙ってけ」
編集N「そんな簡単に引けませんて!」
帝都とガチボ
帝都とは、上乗せ特化ゾーン「帝都燃ゆ」のこと。消化中は押し順ベル・レア役・黄BAR揃いのたびにRC(擬似ボーナス)を1個以上ストックする。突入時の平均ストック数は15個。そしてガチボとはガチのボーナス、つまりリアルボーナスのこと。
RCは1セット20G。それを連続で5セット消化すると、レベル3×ランク5のARTがスタートした。
編集N「ぐわ〜、RCで何もできなかったー」
――「いやいや、むしろここからが本番だから!」
レベル3×ランク5の実質継続期待度は94.3%だ。易々と終わるわけがない。ここからは彼の戦い。あまり見られていると余計に緊張させてしまうから、あとはそっとしておこう。
俺も負けてはいられない。さすがに確率11万分の1のロンフリは真似できないにしろ、レベル3×ランク5くらいはブチ込みたい! そう思いながら打っていると…
約10分後―――
横目でチラリとNくんの様子を見ると、手を動かしながらもしきりに首を傾げている。STの残りゲーム数をチェックすると……
あと5Gしかないではないか!!
編集N「もう終わりそうスね、へへへ」
――「なっ!? なにヘラヘラしてんだよ!」
笑っている場合ではナイ! ここは一つ、彼に教えねばなるまい。高継続率を掴んだ際の覚悟・打ち方を。
高継続率の打ち方。
――「笑ってる場合じゃねえんだ!」
編集N「え?」
――「レベル3×ランク5突入なんて、相当調子良いときで1日2回くらいだ」
編集N「そうすね」
――「普通なら1日1回あるかどうかだぞ! ここを目指して打ってんだから」
編集N「たしかに」
――「気合いでRC引っ張ってこい!」
編集N「いや、でも気合いなんて入れても抽選変わんないスよ」
――「たしかに抽選は変わらない。そうじゃなくて後悔しないために気合いでレバー叩くんだ」
編集N「後悔しないため?」
――「あれ終わらせたのもったいなかったな〜とか、あとで後悔しても遅いんだよ!」
編集N「まあ…そうスけど」
――「だから〝あの時の俺はベストを尽くした! あれ以上のレバーONは無かったから仕方ねえ〟と納得できるようなプレイをすんだよ!」
編集N「なるほど。自分で納得できるように…ですね?」
――「そう!」
哲学と呼べるほど立派なものではないが、この〝後悔しない打ち方をする〟という考え方は、敬愛するA先輩の影響がデカい。俺は実際、A先輩から何度も見せつけられてきた。ここぞの局面で生み出されるドラマを。
――「ここから5Gは誰からも侵されないキミだけの時間」
編集N「はぁ…」
――「もしも今『お母さんが危篤です! スグに病院まで来てください』って電話掛かってきても、ガチャ切りするくらいの覚悟と集中力でいけ!」
編集N「………分かりました」
スッと真剣な面持ちになるNくん。力強く頷く俺。ここから先は口出ししまい。気にはなるが自分の台に向き直り、しばらくすると…
編集N「くぅ〜〜〜、ダメでした〜。レベル2に降格です」
――「まだ本当の終わりじゃねえ。返り咲き(※)もあるから」
返り咲きとは?
レベル3でのST継続に失敗すると、レベル2に降格してSTが再スタートする。レベル2で失敗した際も然りで、レベル1で再スタート。1度落ちたレベルがガチボ成立によって再度アップすることもあり、それを返り咲きと呼んでいる。
Nくんは力無く頷いた。
彼もこれまでの経験から知っているのだ。返り咲きの難しさを。1度レベル3から落ちてしまうと、坂道を転げ落ちるかようにレベルが落ちていく。
ほどなくして、NくんのSTは終わった。ガチボが絡まなかったこともあり、出玉は1,000枚にも届かなかった。
先輩の背中。
編集N「ラッシーさん、もう無理しなくていいスからね?」
――「こんなとこでヤメられるか。キミのほうこそ無理すんなよ」
午後4時過ぎ。俺の総投資は6万円を超えていた。対するNくんも出玉をとっくに使い果たし、現金投資が続いている。
――「まだ5,000Gにも達してねえ。こんなデータ載せるわけにはいかねえよ」
〝誌面掲載の実戦データは5,000G以上〟。それが俺が編集部員だった頃の鉄の掟だった。時代が変わりそんな掟も無くなったが、やはり誌面を預かる身として半端はできない。
――「っしゃ! 久々のBIG!」
そのBIGでバトルに勝利しARTへ。さらに…
編集N「ART入れた直後にボーナス連打!上手すぎますって!」
俺のARTはあっという間にレベル3まで駆け上がり、そこから大事に大事に育ててランク5へ。遂に94.3%継続のSTが完成した!
――「見とけよ少年。高継続率の打ち方ってヤツを」
編集N「はい」
――「絶対に閉店まで終わらせねえ! これが俺の94%継続だっーーー!!!」
約6時間半後――
店員さん「閉店になりまーす! 遊技をヤメてくださーい」
肩を叩かれ我に返った。俺のすぐ後ろには、とっくに実戦を終え折り畳み椅子に座っているNくんがいた。
編集N「いや~、マジで閉店まで続きましたね!」
――「ったりめーよ! こうすんだよ、高継続率を掴んだら」
編集N「ハハハ、勉強になります」
作り笑いを浮かべるNくんを尻目に、メダルをドル箱に移して帰宅の準備を急いだ。
アツい局面での心構え。
店員さん「メダル、もう運んでいきますね?」
――「あ、はい! すみません」
店員さん「しかし良い機種っスよね~コレ」
――「え!? トータル・イクリプスがですか?」
店員さん「はい。だって見てくださいよコレ」
店員さんが指さしたデータ表示器の『ARTセット数』は、100回を超えて点滅している。
店員さん「AT機やART機はたくさんあるけど、ここまで簡単に100回超えるのはこの機種くらいですよ。データに華がありますよね!」
――「たしかに。グラフも振りきれますし」
店員さん「お店としても助かります」
――「……ハハハ」
『お店としても助かります』から本音が垣間見えた。この幹部社員らしき店員さんに自覚があるかは分からないが、『設定を使わなくても勝手にアピールになる』というニュアンスを含んでいるように感じた。
つまり、この台も設定は無かったと思っていい。
それにしてもトータル・イクリプスというマイナーな機種が、ホールから良い機種と評価されていることに驚いた。これならシマの維持は難しくとも、バラエティーコーナーに1台くらいは長く残ってくれるかもしれない。
店内に残っている客は、俺とNくんだけだった。静まり返った店内に、メダルを流す音だけが響く。
店員さん「7,482枚ですね。ありがとうございました!」
――「遅くまでスミマセン。どうも~」
延長遊技のため交換は後日。Nくんの終電が迫っているため、足早にホールをあとにした。
編集N「ガチでブン回せば9,000枚くらいイケたんじゃないスか!?」
――「かもね」
あの時間からでは万枚は難しい。それもあって無理にブン回さず、STがピンチを迎えるたび時間をかけて大事に大事にプレイした。もちろん大事に打とうが雑に打とうが抽選の確率も結果も変わらないが…
――「でも後悔はしてないよ。ブン回してたら途中で終わってたと思う」
編集N「フフ、かもしれませんね」
――「それに今日の目的はデータ採りだから」
編集N「そうですね」
データ採りなら私欲よりもデータが大切。職業柄プライベート稼働でもデータは採るが、もしも今日がプライベート稼働なら、途中からデータ記入をヤメていたかもしれない。そうすれば700Gほど多く回せたはずだ。
――「でも勉強になったでしょ? アツいの局面での心構え」
編集N「ハハ、めっちゃ言うじゃないスか」
――「たしかに論理的じゃねーし、厳密に言えば意味なんか無いよ」
編集N「ですね」
――「でもアツいところをクールに打ったらもったいないっしょ」
編集N「それはたしかにありますね」
――「パチスロも、やっぱ遊びですから」
『悪魔に魂を売り飛ばしても、このAT・ARTだけは終わらせねえ!』。みなさんも、そんな心構えでアツい局面を楽しんでみてはいかがでしょうか。
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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