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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2024.02.27
店をツブす気でいけ!~5号機トータル・イクリプス①~
編集N「いや~、楽しみっスね~」
後輩編集のNくんは、これから遠足へ向かう少年のように無垢な笑みを浮かべている。俺もつられて笑ったが、彼ほどキレイには笑えていないはずだ。
編集N「ラッシーさんが選んだ店なら間違いないでしょ」
――「………お、おう」
この日は誌面企画の実戦日だった。実戦機種は、あの5号機「パチスロ トータル・イクリプス」である。それが頭痛の種だった。
▲5号機「パチスロ トータル・イクリプス」(SANKYO)
残念ながら、トータル・イクリプスに高設定を投入する店など存在しない。もちろん皆無というわけではないだろうが、特定日であっても投入率は低いと予想される。理由は単純だ。
まず設定推測が難しい。ボーナス確率には一切設定差がないため、頼りになるのはCZ出現率くらいだ。出玉はボーナスを引くタイミング次第で大きく変わるため、設定推測にはほとんど役立たない。
一応、ボーナス終了時の設定示唆画面も存在はするが、ATも含めた総獲得枚数によって出現率が変化するという不確かさ。相当打ち倒している俺でも、決定的な示唆画面は見た記憶がナイ。
高設定を使っても、なかなか気付いてもらえないわけだ。
また、俺のようなトータル・イクリプス信者は設定をあまり気にしない。もちろん「1つでも上の設定を!!」という意識はあるものの、諦めているというのが正直なところ。「設定より大事なものがある!」という、ある種の猛者が集う機種なのだ。
そんなわけで選んだホールは交換ギャップがない某店。通常営業でもAT・ART機に〝それらしい台〟が散見されるため、ベタピンではナイと予想している。ここなら設定⑤・⑥はなくても、中間くらいなら可能性はゼロじゃない…ハズ。
編集N「しかし、並び順入場なのに誰も来ませんね」
――「ま、まあね。穴場だから」
編集N「あ、開店しますよ」
――「よっしゃ、俺の後ろについてきて!」
こうして俺が先頭、編集のNくんが2番で入場。そもそも朝イチからトータル・イクリプスに特攻する者など、ほかに1人とていないのだが。
先制チャンス。
――「本命台はNくんに譲るよ」
編集N「マジすか? ありがとうございます!」
右隣にNくんを座らせ実戦スタート。一応、過去数日間のデータから真剣に選んだ本命・抑えの2台だが、高設定期待度は正直どちらも変わらない。そして、150Gほど消化すると…
――「キター、移行リプB!」
編集N「おお、超高確っスね!」
通常時の状態
通常時の状態は低確・高確・超高確の3種類。これらは主にレア役成立時のCZ当選率に影響するほか、ボーナス成立時のART当選率にも影響する。
トータル・イクリプスの状態移行は極めてシンプル。通常時は主に低確に滞在し、移行リプレイAが揃えば高確へ、移行リプレイBが揃えば超高確へ移行する。高確・超高確中はハズレを引くと約40%で1段階ダウンする。
要するに〝状態の動きを概ね目で追うことが可能〟というわけだ。稀に低確中のハズレから超高確へ移行するケースもあるが、高確・超高確の滞在は短いため気付かないうちに終わるケースがほとんどだと思われる。
ハズレによるレアケースはさておき、とにかく移行リプレイさえ見ておけば状態移行を楽しめるというわけだ。
――「さあ、レア役頼むっ!」
Nくんに見守られながらレバーを叩くと、レア役成立を示唆する強めの演出が発生!
――「アチイ! ボーナスでもいいんだよ!?」
編集N「超高確でボーナスならART確定スよ!」
この高確・超高確滞在中のレア役が堪らない。滞在ゲーム数は短いが、状態を概ね目で追えるからこそレバーにチカラが入る。
――「す、スイカだーーー!」
編集N「25%! 1/4でボーナス+ARTスよ!!」
しかしボーナスは非当選で、ボーナスフラグの判別中に超高確も高確も終わってしまったと思われる。
編集N「いや~、アツかったっスね~」
――「くぅ~、まあそう上手くはいかんか」
編集N「でも、超高確でスイカですよ!」
――「だね! ココがこの台のカワイイところ」
編集N「カワイイ???」
そう、トータル・イクリプスのCZ抽選システムは〝カワイイ〟のである。
〝カワイイ〟システム。
一般的なART機と同様、レア役成立時の状態が高いほどCZ当選に期待できる。しかし、トータル・イクリプスはその抽選システムが少し変わっている。たとえばスイカなら…
スイカでのCZ当選率 | |
---|---|
設定1 | 1.2% |
設定2 | 1.6% |
設定3 | 2.4% |
設定4 | 3.1% |
設定5 | 3.9% |
設定6 | 5.1% |
低確中にスイカを引くと、上記の値でCZ抽選が行われる。これはなんら普通の機種と一緒なのだが、驚くのはここからだ。
スイカを高確中に引いた場合は上記抽選を2回行い、超高確中に引いた場合は3回行うのである!
理解できるだろうか?
つまり「高確中にスイカ引いたから2回抽選しちゃう!」、「おっ、これは超高確中のスイカだから3回抽選しちゃいますよ~!!」というわけである。
高確・超高確に独自の抽選値が振り分けられているわけでなく、CZ抽選回数が高確なら2回、超高確なら3回へと増えるのだ!
なんだこの「ボクが考えたパチスロ」みたいなシンプルさ! 分かりやすいことこのうえナシ!! しかも、それだけではない。
チャンスリプレイ(以下、チャンリプ)成立時のCZ抽選は、〝角チェリーとスイカを同時に引いた扱い〟となるのである。要するに低確でチャンリプを引くと、角チェリーでのCZ抽選とスイカでのCZ抽選の計2回が行われる。
ということは……そう!
チャンリプ成立が高確中なら角チェリーでのCZ抽選2回+スイカでのCZ抽選2回の計4回、超高確中なら角チェリーでのCZ抽選3回+スイカでのCZ抽選3回の計6回が行われるというわけである!!
なんだこの機種!
抽選のクセが強すぎる!!
「もう高確・超高確の抽選値振るのメンドいから、2回・3回引いた扱いにしちゃお☆」みたいな適当ささえ感じられる。言葉は悪いが、まるでピュアな少年が作ったシステムのようだ。
コレがカワイイ!!!
パチスロのシステム解析を見て〝カワイイ〟と感じたのは、後にも先にもトータル・イクリプスただ1つ。なんというか、言葉では言い表せない〝愛おしさ〟さえ湧いてくる。
というか、もうすべてのパチスロがこのシステムで良い気もする。状態ごとに変化する当選率に辟易していたところだ。パチスロなんて、このくらい分かりやすいほうが良いと思うのだが…。
かのスイカ出現から固唾を呑んで液晶を見守っていると、前兆ステージ中に「ピリリリリ…」と派手な効果音が鳴り、上位前兆ステージの「スーパーリラックスステージ」に発展!
編集N「それは(CZ)行きましたね!」
――「そりゃスイカ3回分だからな~」
が、発展した連続演出ではチャンスアップもなくあっさりと敗北。
――「当たらんのかい!!!」
編集N「あるあるですね」
――「くぅ~~~、精神削ってくる~!」
この一旦盛り上げてから突き落とすところも、またトータル・イクリプスの面白いところ。まあ、冷静に考えればスイカ3回程度でCZが当たるほど甘い機種ではナイのだが…。
伝説のはじまり。
約1時間後―――
――「なんか…ゴメンね」
編集N「いえ、全然! 覚悟して来てますから」
――「普段の営業から察するに、ベタピンではないと思うんだけど」
編集N「まあ、僕ら以外打ってないですからね」
――「そらそうよな」
2人ともCZすら入らず苦しい展開が続いている。たまに当たってくれるボーナスだけが、俺らの心をギリギリ支えていた。
編集N「今日は叩きドコロをたくさん味わいたいですね」
――「そうだね。出目+演出のアツい瞬間とか」
編集N「そういうのたくさん採れたら、まあ収支はヨシとしましょう」
――「……そうだね。ゴメンね」
Nくんの自宅からこの店までは、2時間弱ほどかかったはずだ。それなのに、開店から2時間ほどで勝利を諦めさせてしまった。
彼だって俺と同じフリーランスの立場だ。もちろん自腹実戦だし、今回作成する2ページ分のギャラも高いとは言えない。このペースなら…というか、すでに2人とも〝ギャラ割れ〟している状況だ。
なんと頼りにならない先輩か。
彼の横顔を見ていると胸が痛い。
憧れの「レベル3×ランク5」に入れて取り返せなんて無茶は言わない。せめて入れたARTがそこそこ継続し、投資分くらいは取り返してほしい。俺はもう負けても構わない。せめてNくんだけは軽傷で済んでほしい。
そんなことを考えていると……
編集N「あ、フリーズしました」
――「ふーん、フリーズね~」
編集N「ラッシーさん、ロンフリしました!」
――「はいはい、ロンフリロンフ……」
――「はああああ!?!????」
編集N「見てください! ロンフリですよ!!」
――「う、ウソだ……ロンフリってキミ……」
擬似ボ「レールガンチャンス(RC)」5個
+
ARTのレベル3×ランク5(約94%継続)確定!!
期待獲得枚数 約3,000枚
――「引けるわけねえ、引けるわけねえ……」
ロングフリーズ確率 約1/110,000
――「じゅ、11万分の1だぞ!!!」
編集N「だってほら、引いてるんスもん」
――「ほ、ほんとだー! 初めて見たーーー!!!」
トータル・イクリプスのシマに、通算で何百時間いたかは分からない。さすがに200時間には届いていないだろうが、それでも誇れるほどの稼働量ではあるハズだ。その俺が他人の台ですら見たことがないロンフリ。
それを引いたというのか!!???
午前11時前に!!!
編集N「えへへ、逆転できますかね?」
――「は? なにヘラヘラしてやがる!!」
編集N「え?」
――「営業時間まだ12時間くらいあんだぞ! 94%継続が閉店まで途切れなかったら、もう…そりゃもう…エラいことなんで!!!」
編集N「た、たしかに!」
――「もう誌面がどうとか考えんじゃねえ! この店ツブす気でいけ!!」
編集N「は、はい!」
俺は今、伝説を目撃しようとしている!!
そんな興奮に息苦しさすら覚えていた。
つづく
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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