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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2023.11.21
パチスロ攻略の美学~5号機ゲッターマウス②~
K「なんか久しぶりっスね? ここ」
――「そうだね」
K「いや~、楽しみだな~」
Kは遠慮なく笑ったあと、すぼめた口で慎重にコーヒーを啜った。たしかに彼が言う通り、このカフェで向かい合うのは何ヵ月ぶりだろう。いや、1年以上経っているかもしれない。
Kは、俺と同じ攻略誌「H」に所属する後輩の誌上プロだ。彼が近くに住んでいた頃は、こうしてよく連れスロに出掛けていた。
「あの遠隔疑惑の某店がリニューアルオープンを迎える」。Kにそう伝えたのは10日ほど前のこと。誘うつもりもなくポロリと言っただけだが、それなら久々に行ってみたいとKがついてきたわけである。
開店時間は14時。営業時間はいつもより5時間も短い。まだ遠隔の疑いは晴れていないが、時差開店の短縮営業なら正々堂々とド派手にやるハズ。Kもそう期待してやってきたのだろう。
K「さて、何狙います? ガルパンか、北斗強敵(とも)あたりスかね?」
――「いや、俺はもう決めてんだ」
K「ズルっ! 何か掴んでんスね?」
――「いやいや、そういうんじゃねーわ」
K「じゃあ何スか?」
――「今日が導入日なんだよ、ゲッタマの」
K「あ~、ラッシーさん担当ライターか」
――「まあね」
リニューアルオープンという小さな祭。それを純粋に楽しもうとしているKが羨ましかった。俺は緊張していた。この導入から数日の内に、ゲッタマの〝納得できる遊び方〟を確立しなければならない。
パチスロライターにとっては自身の勝ち負けより、ずっと大事なことである。
難しい時期。
▲5号機「ゲッターマウス」(アクロス)
K「しっかし、機種ものライターも大変スね?」
――「そう?」
K「だって、せっかくのリニューアルで担当機種なんて」
――「いや、むしろチャンスとすら思ってるよ」
K「設定入る可能性高いから?」
――「それもあるけど、最近のAT・ART機は短時間だとキツくない?」
型式試験の変更により高ベースAT機が台頭しはじめたのは、この日から1年ほど前のこと。出玉速度は以前のAT機とさほど変わらないが、通常時のベースが上がったぶん、初当り確率は総じて重くなった。
ざっくり言えば「軌道に乗せるまでに時間がかかる機種が増えた」といった感じである。その後も出玉に対する自主規制は強化され、ほどなく、より射幸性を抑えた5.5号機が登場。AT・ART機にとっては、まさに激動の時代だった。
――「営業時間は8.5時間くらいかな?」
K「そうすね、だいたい9時間弱スかね」
――「デカいハマリを一発喰らった、それだけでもキツいじゃん」
K「カバーするの大変っスもんね」
――「そう。となると旧基準の絆かモンハン月下に殺到するだろうけど」
K「そこも投資嵩んだら敗色濃厚ですもんね」
――「だね、直ヅモできればいいけど」
K「人も多いから移動できないだろうし」
――「そこでノーマルタイプなわけよ!」
K「夢ナイな~」
――「夢なんぞいるか! リニューアルでボコられるよりマシだわ」
K「まあ、そうですけど」
――「ツモれば堅いし、スカっても軽傷で済む」
K「大勝ちはできないでしょうけど」
――「どうかな。⑥の直ヅモならあるいは…」
ゲッタマの設定6のボーナス合算確率は1/117.5と極めて高い。加えてBR比率はキレイに1:1。少しBIGに偏れば、あっという間に出玉が増えていくハズである。
導入初日がリニューアルオープンの短縮営業。店長か設定師かは分からないが、少なからず意識はしているハズだ。全⑥とはいわずとも、甘めの設定状況にしてくる可能性は十分ある…気がする。
K「う~ん、ボクどうしようかな~」
――「まあ悩みなさいな。俺はデータ採りながら勝たせてもらうわ」
こうして時間をつぶし、ついに開店時間を迎えた。
ライバル出現!
事前にシマ図で確認していたゲッタマのシマに向かうと、先客はいなかった。予想通り前にいた大勢の客は、もれなくバジ絆やモンハン月下に向かったようだ。
ゲッタマの設置は4台のみ。導入初日ゆえ前日データはアテにできないので、居心地のいい角台を選んだ。すると、ほどなく2人組がゲッタマのシマに入ってきて、迷うことなく内角からの2台を並びで確保した。
どうやら俺以外にも同じことを考えた人がいたらしい。よくこの店で見る顔だろうか? 顔を上げてみると…
――「え!? Mさんじゃないスか!」
Mさん「おお、ラッシーくん! 久しぶり!」
Mさんはライバル誌の機種ものライターで、俺からすれば大先輩にあたる。住んでいる地域も割と近いため、飲みの席で一緒になることも多い。メーカーの新機種発表会などで顔を合わせれば、そのまま飲みに行くこともある。
――「お久しぶりです! データ採りですか?」
Mさん「そうそう。あ、彼はウチの編集部員です」
Mさんの後ろに立つ青年とぎこちなく会釈を交わした。
――「あ、Hのラッシーです。Mさんにはお世話になってます」
しかし、これはマズいことになった。完全プライベートなら一緒に楽しく打てるが、互いに打ち方を探ったりデータを採取する導入初日だ。
どこの雑誌がいち早く勝ち方や楽しみ方を報じるかの戦い。Mさんも、どんな打ち方を探っているか見られたくはないだろう。幸い、あいだにひと席空いているが…。そんな緊張が場を支配する中、その空き台の下皿にスマホが投げ入れられた。
K「いや~、打ちたいAT機なんも取れんかったっス~」
――「おお、来たかw」
Kが空き台に座り、ライバル誌同士でゲッタマを埋める展開に!
――「Mさん。この子、ウチの誌上プロのKです」
Mさん「おお、よくCSで見てるよ」
――「ほら、〇誌のMさん」
K「 Kです、はじめまして」
Mさん「よろしく」
――「じゃあ、ぼちぼちはじめますか?」
かくして偶然にも2誌によるデータ採りがスタートした。
美学との矛盾。
――「そもそも打ち方、知ってんの?」
K「もちろん! 中押しでしょ?」
――「はぁ~~~」
K「なんスか? そのクソデカ溜め息は」
――「……なんでもないよ」
さすがは誌上プロだ。あまり好んで打たなそうな機種でも、しっかり予習はしているらしい。稼働中に良い台がぽっかり空いても、適切な打ち方が分からないようでは損をしてしまう。それを防ぐため、ひと通り機種の知識は押さえているのだろう。
しかし、その中押しが気に入らない。
中押し小役狙い手順は、すでに導入段階で十分すぎるほど浸透していた。言うまでもなく複数のパチスロ攻略誌が〝最適手順〟として掲載したためである。
例に漏れず我が「H」も掲載はしたが、俺はなるべく小さく掲載し、デフォルトの小役狙い「チェリー残し(※)」をメインで掲載するよう担当編集に頼み込んだ。
チェリー残しとは?
左リール枠上にチェリーを止める小役狙い。枠下にチェリーを落とす「チェリー落とし」の対となる基本的な打ち方。
ゲッタマの最適な打ち方は中押し。
それで決着はついたと言っていい。
しかしそれは、このリーチ目マシンの真の楽しみ方ではない。そんな気がしていたため、メインの打ち方として紹介することを避けたのである。
中押しはリーチ目マシンが苦手な人への救済措置的な打ち方ではなかろうか。いわば初級者向けの打ち方。それを「これがゲッタマの打ち方だ!」と、大々的に発表するのは躊躇われた。
しかし、そこで生じた〝矛盾〟に、俺は取材から導入までのあいだ苦しめられた。
元来、1枚でも多く得をしたり、少しでも効率的かつスマートにプレイするための手段が〝攻略〟だ。いや、攻略の定義など誰からも教わっていないが、少なくとも俺はそういう美学のもと仕事をしている。
いたずらに変則打ちをしたり、無理に難易度を引き上げるのは攻略とは言えない。
他誌のライターとの飲み会でも、そんな話題になったことがある。現代はワケもなく変則打ちや、変わった打ち方を求められると。しかしライターからすると、無理に捻り出した打ち方などに価値はナイ。
我々が推奨する打ち方は、少なからず得をしたり、効率的でなけらばならない。「なぜそうすべきか」をロジカルに説明できてこそ、その打ち方に価値が生まれるのである。
そういった意味で、中押しは完成されている。初級者でも損無くスマートにプレイできる。しかし、この打ち方で古くからノーマルタイプを愛するプレイヤーが納得するとは思えない。
俺は一体、何を探そうとしているのか。すでにスマートな打ち方が確立されているにもかかわらず、余計にややこしくしようとしているのでは? それは攻略の美学に反するのではないか……?
きっかけの斜め揃い。
K「おっしゃ、ネズミBIG~!」
――「………」
中押しでサクサクとプレイし、順調にボーナスを重ねていくK。
K「(プレイが)遅いっスね。高設定だったらもったいないスよ?」
――「いいの! まだ探り探りの段階だから」
当るたびふざけて煽ってくるKに多少のウザさを覚えるものの、ライバル誌と俺とのあいだで優秀な〝カベ役〟として機能している彼に、少しありがたさも感じている。
この時、俺が調べていたのは赤7下のチェリーを枠内に狙う「チェリー落とし」だ。
▲リール配列図
取材段階で調べたチェリー残しは、まだリール制御のルールを理解できていなかったこともあり難しく感じていた。そのため、より簡単な打ち方を探していたわけである。
しかし、このチェリー落としもなかなかに難しい。ただのハズレの停止形も、押した位置の1コマ単位で変化する。赤7が下段に止まってハズレということもあれば、赤7を枠外までスベらせてハズレということもある。
――「う~ん、ここもキツいかな…」
遠目にMさんを確認すると、何やら編集部員と話ながらプレイしている。そもそもMさんは、4号機のゲッタマを知っている世代のハズだ。俺より先にこの機種の〝適切な遊び方〟に気付く可能性は高い。
マズい。
急がねば…。
焦りに駆られつつプレイしていると、ある停止形でピタリと手が止まった。リール上では右下がりにスイカ・ネズミ・BARが揃っている。
――「あ、1枚役だ」
K「当ったんスか?」
――「さあ、どうかな…」
1枚掛けでボーナスを狙うとREGが揃った。スイカ同時当選はナイため、1枚役同時当選ということになる(※)。
スイカと1枚役の関係性
スイカは複数の1枚役と重複成立しており、スイカを取りこぼすと代用として1枚役が揃いやすい。また、スイカ重複以外の1枚役は全てボーナス確定となる。
――「ん? いや、待てよ」
K「どしたんスか?」
――「今、たまたまハサミ打ちだったんだ」
K「はあ、それが?」
――「順押しで打ってたとき、スイカ・1枚役の斜め揃いなんて1回も無かったんだ」
K「斜めならボナ確ですかね?」
――「いや、まだ分からんけど…」
脳が急速に働き始めるのを感じた。
――「ここ、順押しなんじゃないか?」
K「え?」
――「チェリー落としの〝順押し〟なら、めちゃくちゃ簡単かもしれん」
K「ちょ、なんスか? 教えてくださいよ」
――「いや待って、まだ検証が先だ」
鼓動が速くなるのをハッキリ自覚した。この仕事をしているとたまにある〝何かを掴んだ〟時の感覚だ。
ゲッタマをプレイするうえで障壁となるのがスイカ。払い出しが1枚と少ないうえ、取りこぼし時のほとんどは代わりに1枚役が入賞する。そのため取りこぼしても問題はナイが、現代のプレイヤーは「取りこぼしていい」に慣れていない。
小役補正のある時代なら話は別だが、現代のプレイヤーは「取りこぼし=完全に損」の時代に生きてきた。「取りこぼして構わない」と言われても、取りこぼすことに大きな抵抗がある。
要するに、いかにスイカおよび1枚役を〝ラク〟にフォローできるかだ。中押しはそれをクリアしている。左第1停止も、そこをクリアできれば誰でも楽しめるのでは???
K「あれ? 打つの速くなりましたね」
――「なんとなく分かった。この小役狙い、ハナビより簡単だぞ」
K「またまた~、そんな大げさな」
――「いや、ガチで。これは……」
ゲッタマが、遂にその〝本当の面白さ〟を見せはじめた!!
つづく
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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