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引退 or 大逆転～沖ドキ-30～②

ラッシーパチスロワイルドサイド-脇役という生き方-

前回のあらすじ
すっかり客足が少なくなった都内某店。その旧特定日を後輩とともに攻めてみると、朝の抽選に珍しく数百人が集まっていた。怪訝に思っていると、人ごみの中に友人L氏を見つけたラッシー。彼曰く、沖ドキが「全6」らしい。情報の出所が不透明だが、確認せずにはいられない。抽選負けで朝イチからは打てなかったが、注意深く沖ドキのシマを観察していると――

前編(①)はこちら

――「な、な、なんで!!?」

〝あの女性〟がドル箱にメダルを移し、ヤメようとしているではないか!!　頭上に目をやるとドル箱が2つ。30Φだから分かりにくいが、データ表示器には〝最高枚数2,100枚〟とある。

すでに「6ではなくガセネタ」と見抜いたのだろうか？これにはさすがに声を掛けざる得ない。

――「ちょちょ、ヤメちゃうんですか!?」
女性「ハイ！」

女性は満面の笑みだ。意味が分からない。全6をガセだと断定したなら「ダマされた」と怒っているか、不満に思っているハズだ。たしかに出玉があるため怒りも和らぐのは理解できるが、いくらなんでも見切りが早すぎる。

――「なんでヤメるんスか？」
女性「もう満足なんで！」

――「えっ？」
女性「32Gでループ終了ですよね？」

――「まあ、そうですけど」
女性「このメダルで4万円くらいになるんですよね？」

――「まあ……たぶん38,000円くらいかな」
女性「やったあ！」

そういうと彼女は大きく頬を緩ませ、分かりやすく胸の前で拳を握った。

なるほど理解した。

この子はパチスロを知らない！基礎的な打ち方や32G内ループのことなど、本当に最低限のことはLさんから教わったのだろう。悔しいかな、ほんの少しだけカワイイと思ってしまった。

俺にもこんな時代があったのだ。もう昔すぎて忘れてしまったが。

先行投資。

――「少しメダルそのままで俺の話聞きません？」
女性「はあ、構いませんけど」

女性を連れてシマを離れ、フロアの隅までやってきた。

――「あの台がもしも6なら、今からもっともっと出るハズです」
女性「はい。なんとなくLさんから聞きました」

――「それでもヤメちゃうんですか？」
女性「だって、続けたらあのメダルなくなるかもしれないんですよね？」

――「まあ、それは一時的に。でも時間をかければ、理論上はもっとたくさん出るハズです」
女性「え～、でも……」

女性は顔をしかめ熟考している。目先の約2,000枚か、それとも長期的に見た大量出玉か。リセットからの一撃なので、設定がいくつかなど分かるわけもないのだが。

女性「やっぱヤメます！」
――「え？マジすか？」

女性「だって1,000円が38,000円になったんですよね？」
――「まあ、そうだけれど」

女性「ここからリスクを負う必要ないじゃないですか！」
――「いや、でも理論上は……」

彼女を引きとめるのは難しい。〝6確〟ならば自信を持って説得できるが、そもそも俺はガセネタだと、全6ではナイと疑っている。もしも彼女に続行させた挙句全6じゃなく、出玉を全部ノマれてしまったら……。

もはや引きとめることなど不可能だ。

――「おっしゃる通り。リスクはあります」
女性「じゃあヤメるんで、どうぞ打ってください」

――「……………」

「よっしゃ！やったあ!!」と喜べる状況ではない。未だ沖ドキのシマに立ち見がいる状況だが、顔を知っているプロ連中はすでにシマを離れている。その理由は明白だ。

たまたま彼女の台はリセットから出ているが、シマ内には普通に苦しんでいる台も散見される。初当たりが重い台もあれば、通常Bの沼にハマり延々と投資を続けている台もある。つまり全6の可能性は薄い――。

このまま台を捨てても構わないが、それでも今日は旧特定日だ。ここ最近、店の信頼度が下がっているとはいえ、旧特定日なら多少なりとも高設定を使うハズ。

そして沖ドキは今や人気機種の1つだ。このタイミングで客を集めるための〝見せジマ〟にしてもおかしくはない。実際、この店で何度か全6ジマや全456ジマを確保した経験がある。

全456ならまだあるか!?

現行機種でも屈指の荒波マシンだ。もちろん4や5でも理論上は勝てるが、個人的に「打ちたいか？」と問われると難しい。難しいが……

確かめねばなるまい！

この店が、今後沖ドキに注力していくのか。そして出所不明の情報も、どの程度の信憑性があるのか。プロが減った時点で、店舗側がSNSで発信した可能性はナイと思っていい。それでも仮に沖ドキのシマが全456だとすれば、全6ではなかったものの〝情報にはある程度の信憑性がある〟と言える。

今後も同様のことがあれば、従うべきか無視すべきか。その指針にするためにも、今日のうちに確認しておく必要がある。リスクは高いが、先を考えれば投資する価値はあるだろう。

――「では、ありがたく頂戴します」
女性「じゃあスグにどきますね」

――「でも、もしあなたの情報が正しければ、ここからもっと出ますからね？」
女性「構いません！たくさん出ても恨みはしません！」

――「ありがとうございます」

彼女の台の正確なモードの流れは分からない。リセットでチャンスへ移行し、そこからなにかのきっかけでドキドキ以上へ移行したと考えるのが自然か。で、32G抜けなのだから、現在「連チャン保証」を抜けたところだろう。

【レア役・確定役以外】連チャン保証滞在時_モード移行割合
移行先	移行割合
通常Aへ	65.2%
通常Bへ	10.2%
引き戻しへ	20.3%
天国へ	3.9%
ドキドキへ	0.4%

※全設定共通

32Gを抜けたので天国・ドキドキはない。約1/5で引き戻し、それ以外なら概ね通常Aだ。打ち始めとしては最悪の状況。しかし設定6ならいざ知らず、設定4・5をデータ表示器から見抜く自信はない。やはり実際に自分で回し、設定を推測するほかあるまい。

こうして昼を少し回った頃、女性がヤメた台を引き継ぎ沖ドキを打ち始めた。

地獄。

およそ4時間後――

後輩「ラッシーさん！飯行きましょう！」

ATMからの帰り道で後輩に捕まった。

――「……すまん、飯食ってる場合じゃない」
後輩「え？沖ドキだめっスか？」

後輩から3時間前にも飯に誘われたが、俺は「沖ドキが取れたから」と断った。

――「ダメもなにも……」

力なく首を横に振った。

後輩「やっぱガセすかね？」
――「ちょっと見てみなよ、俺のデータ表示器」

後輩を引き連れ沖ドキのシマへ戻ると……

後輩「うっわ～、めっちゃ空き台できてる」
――「まあ、ヤメるわな。この惨状じゃあ」

沖ドキのシマの稼働は6割といったところか。まだ高いようにも感じるが、旧特定日の人気機種ならこんなものだろう。設定を考えずに打つ人も少なくないのが沖ドキだ。

――「で、これが俺のデータ表示器」
後輩「えっ……えっぐぅ～」

スランプグラフは女性がヤメたところから、ずーーーっと急激な右下がり。もちろんところどころで当たっているが、スランプグラフ上ではピクンと線が少しズレた程度。それはそれはキレイな右下がりを描き続けている。

後輩「えーと、差枚が－2,500枚？」
――「そだね」

後輩「え？お姉さん2,000枚勝ちって言ってませんでした？」
――「言ってたね」

後輩「え？クッソ負けじゃないスかwww」
――「ふふふ、嗤えよ。嗤えばいい」

総投資90,000円で、未だ出口見えず!!

後輩「ラッシーさん、僕が飯奢りますよ」
――「うん、ありがとう。勝ってんの？」

後輩「4万負けてます」
――「負けとんのかい！飯食ってる場合じゃねえぞ！」

なんという養分2人。ちなみにLさんはとっくに別の店へ移動し、ハナビを打っているらしい。

後輩「モードはどこっスか？」
――「ずっと通常Bよ。だいぶ前に同時点滅見たし」

絵に描いたような通常B沼にハマり、現在は単発6連続。きっと奇数設定なのだろう。まあ、レア役でボーナスを当てられない俺に非があるのだが。

――「とりあえず天国取り切ったらヤメるよ」
後輩「はい、そしたら飲みに行きましょう！」

――「だな。まあ、半分くらいは取り戻すよ」
後輩「頑張ってください！」

こうして後輩と別れ打ち続けると、ほどなく総投資が10万円を突破！

――「フハハ、入るぅ～www」

久々に万札が紙切れに感じ、逆に楽しくなる〝投資’s ハイ〟に突入。ちなみに設定差がある共通ベル出現率は、設定1の値をも大きく下回っている。つまり設定は……お察しだ。そして投資が105,000円に達したころ、ようやく7度目の初当りでBIGが当選。

――「いいかげん(天国に)上がってくれ～」

BIG中の1G連当選はナシ。が、BIG終了から5Gで……

――「き、きたきたきた～!!」

もはや金額の問題ではなかった。通常B沼を抜け出せた。その事実が嬉しかった。

狂気の判断。

2時間後――

後輩「ちょ、なんでまだ打ってんスか!?」

強めに肩を叩かれ振り向くと、目を丸くした後輩が立っていた。俺からなかなか連絡が来ず、まだ天国に上がっていないのかと心配になったらしい。

――「いや、天国には上がったんよ」
後輩「それはスランプ見たら分かりますって！」

天国から始まったボーナスループはBIG7回、REG3回の10連で終了。獲得枚数は1,700枚ほどだった。

――「いやさ、冷静に考えて7万負けも10万負けも変わらんくない？」
後輩「いや、全然冷静じゃない！どうかしてますって！」

――「待てって。落ち着いて聞いてくれ」
後輩「なにをっスか？」

――「もう沖ドキを引退したいんだ」
後輩「引退したい？」

――「10万負けたら『もう2度と打つかコノヤロウ!!』って気持ちになれるでしょ？」
後輩「はあ……」

――「でも7万負けじゃ、そこまでいけない」
後輩「まあ、7万負けはよくありますからね」

――「だから今日は、もう超ドキぶち込んでマクるか、10万負けて沖ドキ引退かの2択にするんだ!!」
後輩「うわ～～～」

たしかに論理的じゃないことは分かっている。しかし、俺はもう沖ドキに懲りたのだ。心底怖いと思った。だからこそ、あえて心にトラウマを刻み、2度とスケベ心を出さないように引退するしかないのである！

――「あとで骨だけ拾ってくれ」
後輩「御意！気が済んだら呼んでください」

――「ありがとう」

こうして狂気の勝負続行！すでに300Gを超えているから、引き戻しにいる可能性も低い。普通に考えれば滞在モードは通常A。初当りを引けたとしても、天国へのジャンプアップは難しい。

だが、それでいい。
もう、それでいいんだ。

そんな妙な心持ちで打ち続けていると、次の初当りは想定より早く訪れた。さきほど獲得した1,700枚を、半分くらいまで減らした515GでBIGが当選。これでもう1周は追うことができる。そう思っていたが……

――「な、なんで!!?」

BIG終了からわずか3Gでハイビスカスがチカリ！モードを示唆する特殊な点滅パターンではないが、一発で天国まで駆け上がったのだろうか？ここはREGだったが、重要なのは天国に上がったかもしれないという事実。

――「頼む、頼むぞ」

もはや1回の天国移行で回収できる投資額ではない。しかし天国ループが長く続けば、そのぶんドキドキや超ドキへ移行するチャンスも増えるハズ。もちろん出玉を獲得できれば、それだけノマれるまでに回せるゲーム数も増える。

――「……(光れッ、光れッ)」

一打一打、祈るように回していくと……

――「あ、ああ……あああ……」
台「キュキュキュキュイ～ン♪」

――「ろ、ろ、ロンフリだーーーッ!!」

REG後4G目にロングフリーズが発生!!

ロングフリーズの恩恵
BIG＋超ドキドキモード確定。発生条件はボーナス当選時の一部で、確率は設定1で約1/23,000、設定6なら約1/19,000。期待獲得枚数は2,300～2,400枚程度。

さすがにループ率90%超の超ドキがスグに終わるとは考えたくないが、これが伸びなきゃますます引退すべきだ。もちろんテンションはアガったが、さすがに総投資が105,000円だと、普段のロンフリほど心は躍らない。

――「さあ、和解か決別か」

さすがに全額回収は叶わないだろう。せめて半分だけでも返ってくれば……。

超ドキの魔力。

数時間後――

店員「お客さま、閉店になります」
――「はい」

後輩「いや～、出ましたね！」
――「うん、出たな～」

後輩「何連しました？」
――「分からん。途中で数えるのヤメた」

初代5号機「沖ドキ」枚数表示

ロンフリからはじまった超ドキは終わらず、閉店まで出っ放しだった。

30Φドル箱山積み

後輩「これ何箱あるんスか？」
――「18かな？30Φだから多く見えるけど」

流した枚数は9,364枚！

投資分を取り戻すどころか、まさか大幅にプラスになるとは!!　設定は……もちろん断定はできないが、挙動から察するに〝いつものヤツ〟だったと思われる。結局、共通ベル出現率も設定1の値に遠く及ばないままだった。

――「さて、飲みに行きますか！」
後輩「はい！ Lさんと女性も外でお待ちです」

――「おう、たっぷりお礼しなきゃだな」
後輩「ガセネタでしたけどね」

――「まあね。でも情報がなかったら、沖ドキ打ってなかったから」
後輩「たしかに」

――「そしたら、この気持ちイイ逆転もなかったわけだ」
後輩「いっぱいお礼しましょ！」

情報はガセだった。けれど、お陰で沖ドキの怖さも面白さもこれでもかと味わえたうえに、今後この店の周りで流れるウワサの信憑性も把握できた。収穫は収支以上にデカかったと思う。

俺がガセに寛容なのは、こういう経験があるからかもしれない。ガセのお陰でたまたま大勝ちを味わったり、ガセのお陰で思いがけない機種と出会ったり……。それもまたパチスロの面白さのような気がする。

ちなみに逆転勝利のため沖ドキ引退は免れたが、以降、沖ドキを打つ頻度を減らしたことは言うまでもない。

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ラッシー: 代表作：パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-

山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本＆DX」や「パチスロ極＆Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。