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光の射す方へ 二
光の射す方へ 二
-
さん
- 投稿日:2016/09/01 07:04
二、聡子の場合
飯田聡子は無性に苛々していた。ほんの数秒前の出来事、深く肩を落とした、空洞のような眼をした男とすれ違ったからだ。
パチンコ屋に通っているとたまに目にすることがある、明らかに追い詰められているだろう人間。何故、そうまでしてギャンブルをする?楽しければそれでもいいだろう。だが何でそんな眼になってまで更に自分の首を絞めるのか?
本当に、苛々する。
彼女は音を立てて歯を食いしばった。
彼女は手提げ鞄に入った分厚い封筒の感触を手で確認した。ほっと胸を撫で下ろす。
大丈夫、今の私には金がある。
そう自分に言い聞かせた。
彼女は数年前から借金をしていた。
学生時代に知り合った、留年していた年上の男に初めてパチンコ屋に連れて行かれ、あれよという間に消費者金融で金を借りていた。男は彼女の金を使い切り、いつの間にかどこかへ消えた。その頃には、借金の総額は50万を超えていた。
男が去って安心したと同時に、彼女は一人でパチンコ屋に足を踏み入れるようになった。借金が倍の額に膨らむまで、そう時間はかからなかった。親しい友人など、とうの昔にいなくなっていた。
学校では経済学を選考していて、成績優秀だった。
その私が何故、と思うこともなかった。ただひたすらサンドに金を入れ、ATMで金を借りた。どんな感情も湧き上がってはこなった。
パチンコを打つとき、意識はいつも彼女の外側にあった。
彼女は生活費を得るため、大学を中退して風俗店で働き始めた。1時間1万2000円のデリヘル嬢。彼女の取り分は半分の6000円。その間、パチンコはほとんど打たなかった。借金は徐々に減っていった。
あるとき、黙って本番行為をした客の子供を妊娠した。自分は今、人生でもっともヒキが強い。彼女はそう確信した。何故ならこの安いデリヘル嬢を呼んだ客が、たまたま地位のある金持ちだったからだ。秘密裏に処置をする代わりに、彼女は借金をすべて返しても有り余る金を手に入れた。
聡子は風俗店を辞めた。
すべてをやり直す唯一の機会を手に入れたのだ。スーツを一着買い、職業安定所で仕事を探した。
大丈夫、すべてやり直せる。
今の私には金がある。
だが、彼女が今立っているのはパチンコ屋の前だった。
自動ドアが開いて、出てきたのは虚ろな目をした中年の男。男が去っていったあと、彼女は嫌悪感で生まれて初めて地面に唾を吐いた。
その後のことはよく憶えていない。気がついたら彼女は男を追いかけていた。
人の行き交う駅の改札前。
聡子は男の肩を乱暴に掴んだ。その男、畑屋が驚いた顔をして振り返る。
彼が口を開くのを待たず、彼女は言った。
出てきた言葉は、彼女自身をも驚かせるものだった。
「あなたに百万あげる。それをどう使うかは、あなたの自由」
4
さんの
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このコラムへのコメント(2 件)
すみません、コメント見逃していました。。
そろそろ次頑張って書きます!