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転生スロッター・ジャック【第一話】
転生スロッター・ジャック【第一話】
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ポリンキーさん
連れ打ち大好きなラッコ。 コラムも漫画も携帯に指でかいてます。 やさしくしてね! - 投稿日:2018/06/07 02:32
2005年──。
四号機時代の終わりへと向かっていたとはいえ、まだまだ歴史に名を残す機種は登場を続け、そのゲーム性や、大量出玉に人々が熱狂していた。
そして、その熱い時代に世のスロッターたちを興奮させ、パチスロ業界を盛り上げた伝説の男がいた。
「パチスロ世界一決定戦」
深夜とはいえ、地上波で毎年行われていたそのTV番組は、有名ライター、プロ、一般参加者の中から最強のスロッターを決める人気コンテンツだった。
その大会で、その男は二連覇を成し遂げていた──
「今年の決勝戦はなんと師弟対決!!まずはライターとしても今大人気のこの男!ダージン!!」
歓声とともに細身の長髪の男が吹き出る二酸化炭素の煙を通って入場してきた。表情は初めて見る人でもわかるくらい緊張している。
「そしてそして!対戦相手は!ディフェンディングチャンピオン、前人未到の三連覇なるか!?」
アナウンスと同時に先ほどまでの歓声がぴたりと止み、静寂が訪れた。
「ミスターパチスロ世界一…。全てが見えている男!!ジャ~ックポット!ふ!る!か!わー!!」
再び沸き上がる歓声。
今度はド派手な花火が上がり、花道をゆっくりと一人の男が歩いてきた。
「JPF!JPF!JPF!」
拳を突き上げ観客たちがその男に向けて叫ぶ。
控えめに手をあげ応える無精髭の男。
ジャックポット古川。
長年専業プロとしてやってきていたが、知り合いに頼まれ、その立ち回りを雑誌に載せた所、人気に火がついた。
人前に出るような性格ではなかったが、雑誌編集者に乗せられ、第一回パチスロ世界一決定戦に出場し、優勝してしまう。
どんな不利な展開でも、最終的にはまるでそれまで溜め込んでいた運を吐き出すかのように当たりを引き、勝利してしまう。そこから「ジャックポット」との異名がついた。
パチスロ人気も手伝い、多くのプロやライターがこのような番組に出るようになったが、人気が桁違いにあったのがこのジャックポット古川である。
「残り時間わずかのところから、ジャックの1ゲーム連が止まらない!!」
決勝の対戦機種は吉宗。711枚のビッグが1ゲーム連する説明不要の人気機種だ。
出玉でリードしていたのは、人気急上昇中で、番組の共演がきっかけで仲良くなり、古川の弟子のような存在でもあったライターのダージン。
しかし。時間ギリギリで引いたビッグからの1ゲーム連が止まらず、追い上げる古川。
「残り時間が0になり、差枚も微妙な中、ダージンは連チャンが途切れたので終了!!あと一発、あと一発出たら古川の勝利かー!!」
ルール上、連チャンが確定してる分のビッグは消化ができる。
このビッグで連チャンしなければ終了。計測になるが恐らくダージンの勝利であろう。
しかし一発出れば…。
「悪ぃな。俺はやっぱ負けるのは嫌いなんだわ!!」
ビッグを消化しながらダージンに向かって叫ぶ古川。
次の瞬間。
「キ───────ン!!!!」
八代将軍と書かれたランプが光り輝く。
それは古川の勝利を告知する光でもあった。
ルール上、この後も連チャンが途切れない限りつづけられたが、ダージンの口から「ギブアップ」宣言が出たため、この時点で試合は終了した。
「信じられない!!優勝は!!三年連続この男!ジャックポット!古川だー!!」
今日一番の歓声に包まれた場内。
鳴り止まないJPFコール。
爆発音と共に舞い散る金の紙吹雪。
「くそー!やっぱジャックさんにはまだ勝てねえかー!!」
負けはしたが、清々しい表情で古川に歩みより、握手をするダージン。
程なくして表彰式がはじまった。
「いやー、こんな展開、ジャックさんは見えてたんですか?」
インタビュアーがマイクを古川にむける。
(言わせる気満々じゃねぇか…。しかたねえな…。)
「リールも!この結果も!全部!俺には見えてンだよ!」
再び沸く場内。
ある時言ったこの「俺には見えてる」がすっかり代名詞になり、ことあるごとに言わされている。
サービス精神旺盛なため、ちゃんとやる。
アントニオ猪木の例のやつのようだが、きちんと勝利するからこそ求められるのだ。
「お疲れ様でした!凄かったですね!」
若い髪の長い女性が古川を労う。
雑誌の編集者であり、古川をプロデュースしているのもこの女性である。
「ギブアップしてくれて良かったですね。」
「…?どういうことだ…?」
奇妙な事をいう女性編集者に眉をひそめ聞き返す古川。
なにやら耳打ちしたあと一旦女性編集者は立ち去った。
その後、打ち上げもあったのだが、古川はキャンセルし、対決したダージンと二人で飲みに行ってしまった。
終電近くまで飲んだ古川は、ダージンと別れたあと自宅には帰らず、連絡が着かなくなっていた。
翌朝、飲んだ店の側の公園で古川が倒れているのが見つかった。
酒に酔い、公園で眠りにつき、そのまま帰らぬ人となってしまった。
死因は凍死。享年38歳であった。
人気絶頂のスロプロの最期は実に呆気なかった。
時は流れ、2017年。
パチスロは5号機に移行し、あれだけ熱狂していたパチスロブームは若手ライターの頑張りもあったが古川の死と共に陰りを見せ、、地上波での番組は次々消えていった。
代わりにネットや有料放送チャンネルに、かつてライターと呼ばれた者や、動画演者は活躍の場を移していた。
ジャックポット古川こと、古川丈二は独身でその生涯を終え、家族と呼べるものはいなかった。
ただ一人、彼には弟がいた。
弟の古川太一は普通のサラリーマンである。
今日は兄の墓参りに息子と一緒に行き、帰りにショッピングモールにて昼食を食べていた。
「ねえねえ、おじさんは何してた人なの?」
太一の息子、古川純一。小学校6年生。
おじである古川丈二が亡くなった後に生まれたため、あまりおじについて知ってはいなかった。
「まあ、あんまり話すなとはお母さんから言われてんだけどな。パチスロってやつがめちゃめちゃ上手くて、人気もあって、お父さん大好きだったんだよな…。」
「パチスロ??」
初めて聞く単語に首を傾げる純一。
元々弟の太一もパチスロをしていたが、子供が生まれると同時に嫁に止めるよういわれ、亡くなった兄のこともよく思っていなかったため今まで話題にも出てこなかった。聞いたことがないのは当然である。
「そうだ。たしかここにも…。」
太一は純一を連れてゲームコーナーに向かった。
母親の教育方針からゲームで遊んだりしない純一が足を運ばないコーナーである。
純一自身もゲームに興味は無い。
「お、あったあった。あれがパチスロだよ。」
そこにはかつての4号機も並んでいた。
すると純一がある一台に吸い寄せられるかのように向かっていく。
「これ…。」
手を伸ばし筐体に触れようとする純一。
「おお!それは兄ちゃん…おじさんが一番好きだった、ファイヤードリフトって台だ。やってみるか?」
百円玉を入れ、ぶら下がってる解説シートを懐かしそうに読む太一。
「えーとまずは…。」
純一にレクチャーしようと思案する太一の方をみることもなく、筐体に心を捕まれたかのように立ち尽くしていた純一がおもむろにレバーを叩く。
次の瞬間、純一の体に電気のような衝撃が走った。
そして父、太一が何も教えていないのに、リールを止め、レバーを叩き、遊技を続けた。
「えっ?おまえっ…。じょ、上手だな…。ちゃんとDDTしてるし…。え?どういうこと?なんで?なんで?」
あまりにも完璧な打ち方に戸惑う太一。
はっと我に返り、打つのを止めた純一。
「じゅ、純一?どうした?大丈夫か?」
しばらく動きを止め、なにか考えを巡らせている表情をしていた純一。そして、顔をあげ言った。
「あぁ、太一、大丈夫だ。」
「ん?な、なんだって??」
「あ…いや、なんでもないよ、父さん…。帰ろう。」
「あ、ああ…。」
息子の表情が子供とは思えない鋭い目付きだったのも気になったが、それよりも先ほどの打っている姿である。
「なんかまるで…兄ちゃんみたいだったな…。血かな…。」
何事も無かったように父親について歩く純一。
「思い出した…。」
ぼそりと呟いたが、太一には聞こえていなかった。
つづく
※この作品はフィクションです。実在の人物、団体とは一切関係ありません。時代背景なども創作であり、事実と異なる部分が多々あることをご了承ください。
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ポリンキーさんの
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このコラムへのコメント(18 件)
構想半年、放置半年。
ようやく書きました。
彼が前世の記憶持ってないとおかしい知識をもってるって話から、そんな話面白いかもねなんて前に言ってたところからはじまりました。
【ネタバレ】せせりくんは出てきません(たぶん)
時代背景もフィクションですなぁ。この頃テレビや動画なんかなかったし、パチンコパチスロに市民権がある世界をちょっと書きたかったんです。
お父さんのなけなしの小遣いを無駄にした純一…。
なんなら純一のほうが小遣い多い説
ありがとうございます。
ちょくちょく書いてみます!
書くにあたり、好きな台を昔本人に聞いたところファイヤードリフトと言われたんで最初はこれにしようと決めてました
前世の記憶持ってんだろ!とふざけて本人と話してて、いずれ書いてみようと前々からいっていたんですよ。
カタギリさんに気に入ってもらえたの超うれしい