【最終回】自ら志願して、業界で働いてみた。⑩

始業開始のチャイムが鳴ると『課長』と呼ばれる若い男性がやってきた。営業が「今日から４日間働く久兵衛さんです！」と言ったので私も「宜しくお願いします」と返す。

「営業さん、悪いンだけど。実際の現場はココじゃなくて旧工場なんだよね」

「旧工場……ですかぁ？」

「あー、ウン。近いからヤマモトに案内させますんで、もう帰っていいですよ」

「はぁ。それじゃあ久兵衛さん、ルールだけはしっかりと守って頑張ってください！」

「はい。オツカレさまでした」


「ヤマモトォォ！派遣さんを案内しろァ！！待ってんだぞォォ！！！」

「はいー。すいません、すいません」

課長の怒声が工場に響き渡ると小柄で大人しそうなヤマモトという男がやってきた。

「朝言われただろ！新しい派遣が来っからって！わからねーならメモに書いておけ！」

「すいません、すいません。メモ書きます」

「もうイイから派遣さんを旧工場に案内して」

「はい、すいません。じゃあ、あの、おれについて来て下さい」


そう言われて辿り着いた場所は、何処となく哀愁漂う古工場で設備も錆だらけのまま放置され、工場というよりも大きな物置だった。

その物置……いや、旧工場の入り口を抜けてドアを開くとこれまた古いベルトコンベアが一台並んでおり、コンベアの両隣にはテーブルが設置され作業台の役目を果たしていた。

既に女性パートが6名と社員の男性が2名準備を始めていて、私も直ぐにヤマモトさんから指示を受けた。

コンベアに検品済みの部品が流れてくるので、それを手に取りクッション材を敷いたプラスチック箱の中に均一に並べて重ね規定の段数になったらパレットに乗せる。

積みあがったら先頭にいるパートリーダーにフォークリフト作業員を呼んでもらい新しいパレットにプラ箱を乗せていくという内容だ。

「あー、この作業を……今日から4日間でしたっけ？ずっとやってもらいます」

「新工場の方には？」

「あっちは既に人材も集まってるし、朝もタイムカードを押したらここに集合してください」

「分かりました」


流れてくる部品は、少女たちが甲冑を纏って熱唱しながら戦うアニメの台のロゴ、ヒロインの全身が描かれてる役モノがメインで、4日間ずっとそれらを手に取り箱に入れていった。

4日目が終わってから営業からの電話で土曜日も稼動があって協力してほしいとの申し出があったが、丁寧に断った。

理想と現実は違うなどと青臭い理由も確かにあったが、実のところ腰を悪化させてしまったのが主な理由だった。情けない。


8日間、パチンコ製造工場で働いてみて思ったことは、１台のパチンコを作るのにあたって想像以上の数の人と会社が関わっていて、それはどんな神台でも不遇台でも一緒であるということ。

また、ネジ１つであっても重要視され、数が足らなければ検品をして不良品を流通させないよう徹底されていたのも品質を重視した考えに基づいたものであり、工場こそは古いが考えこそは最先端であったのも印象的だった。


派遣の仕事を終えてから暫くして８日分の給料が振り込まれた。
自分で作った台を打って初日に１万発越えの大勝利だったが、その後３日間で全てを失った。

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