自ら志願して、業界で働いてみた。⑥

パチンコ製造工場で副業を開始した２日目の午後。


休憩時間中に「今日は、早く帰れるんですよ！」とメガネくん。
言葉の意味をそのまま受け取るのであれば、定時である17時よりも早い終業となるのだが、朝の時点でも昼休憩の時もそういった類の話は聞かされていない。

「いや、それはメガネくんのラインだけじゃない？」

「違いますって。俺らのラインだけじゃなくて、派遣社員が関わってるライン全てなんです。」

「マジかー。」

「高木さんがそのウチ報告しに来ると思いますよ。んじゃ、また～。」

メガネくんが去った後でスグに休憩終了のチャイムが鳴り、それとほぼ同じタイミングで高木さんが息を切らしながらやって来た。

「久兵衛さんっ！申し訳ない！！部品が足りなくて、本日は急遽15時30分で派遣さんは全員あがって貰います。」

「あ……はい」

「また明日も宜しくお願いしますね！」

高木さんは私に声を掛けた後、このラインに居る派遣社員全員に声を掛けていった。
残業の依頼は良くある事だが「早く帰ってくれ」は初めてだ。

それまで静かだったラインも派遣社員達が高木さんからの説明を受けるや否や、不満を述べる者、早く帰れてラッキーと喜ぶ者、明日はどうなってしまうのかと不安を抱く者と意見が分かれ少々騒がしくなった。


時間は15時20分。


コンベア上にある役モノだけを確認し、終業までは身の回りの清掃を行うように指示があったが、一部の派遣社員達は清掃をする“フリ”だけをして最後まで仕事をしようとはしなかったのだ。

使い捨ての布巾を手にしたまま「明日もこんな感じなの～？」「他の現場に入れてもらった方が良くない？」「お金貰えないんでしょー」といった喋りが四方八方から飛んできた。

真面目に掃除をしているのは私と数名の派遣社員のみ。時間はもうすぐ30分だ。


15時30分。
タイムカードに打刻をして作業用紙等を指定のファイルに挟む。
これで2日目の仕事が終わった。1時間半早かったが。


靴を履き替えて駐車場に向かおうとすると、メガネくんに呼び止められた。

「おー。おつかれさま。やっぱり早上がりだったね。」

「早く帰れるのはイイんすけど金が……はは……。」

「時給制だもんなぁ……。ところで明日も仕事は入っていたっけ？」

「今週は金曜まで入れてありますけど、こんなんだったら別の現場にすれば良かったかも」

「……ま、その辺は色々と考えちゃうよなー。」

「考えちゃいます！ってか、もう電話してキャンセルする気マンマンです！」

「そっかぁ。自分は明後日までだから、また別な現場で会えたら宜しくね。」

「うっす。それじゃあ色々とあざっした！また！！」


（いい子だなぁ……）


この日は、帰り道にある大型のホールで羽根モノを打った。
勝ち分が1.5時間分の給料とほぼ同額という皮肉を笑いながら寒空の下、甘いコーヒーを飲む。冬の夜空を眺めながら駐車場を歩き、車に乗ってエンジンをかける。


ブブッ……ブブッ……。


派遣会社からのメールの様だ。
読んでみると本日の就業に関してのお詫びと、部品の供給によって今後も早上がりの可能性があるとの事がびっしりと書かれていた。

つまり、明日と明後日も定時まで働けるかどうかは、部品が入ってくるかどうかで決まるというわけだ。

何にせよ、ココで働くのは残りあと2日だ。
色々と疑問もあるけれど、部品さえ入れば定時まで働けるんだ。前向きに考えよう。

手元にあった余り玉で貰った小袋ビ○コを完食し、そのまま家路に着いた。



（３日目に続く）

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