SENZIN伝：第8話天下一閃「親父」

タイルまん SENZIN伝

2017年お正月。

俺は親父と共に近場のホールへと車にて向かっていた。

俺「何打つの？牙狼？」

父「いや、打ちたいものがある」

打ちたいもの？親父の好きそうなもの…。

慶次か？親父は慶次が好きだった。

好きな理由が『襖が閉まるから』という謎の答えを以前言われた。

もう家の襖を開け閉めして遊んでろよと思った。

他には…ルパンか？パチンコの初代ルパンの思い出は何度も聞いた事がある。

父「当時よく行ってた店に置いてあってな。まぁ連チャンするわ連チャンするわ…。

ドル箱が10箱位になってさ、まだ確変終わってないけど店員を呼んでとりあえず後ろのドル箱を流してくれって頼んだんだよ。

そしたら店長が来て『いや！流すのは勘弁して欲しい』って言われたのさ」

俺「そもそもなんで流す必要あったの？定量制じゃねーべ？」

父「目立つんだよ。知り合いに見られて後から言われるのも嫌だったしな。」

なら打つなよ！！

父「とにかく店長に流してくれと言ったら頑なに断るんだ。」

俺「ほう」

父「なんでそんなに流したくないか聞くと『出している所を見せたいんで…お願いしますよ…』って言われてな？」

俺「まー店からすればそうだよね。」

父「よく行く店だったしさ、言ってる事は分かるんだ。そうか、分かったと。とりあえず箱持って来てくれと。そして流してくれと。」

分かってねーじゃん！！

理解したフリして我を通してるじゃねーか！！

俺「結局かよ！」

父「嫌なものは嫌なんだ！！」

子供かよ！！

父「あの時は出たなぁ…うん…出たなぁ…。」

しみじみ思い出に浸ってんじゃないよ！

当時の店長さん本当申し訳ございませんでした！！

しかしその後のルパンはお気に召してない筈…。親父の打ちたいもの？ …なんだ？

今にも雪が降りそうな厚い雲に覆われた空を車の助手席から眺めながら考えていた。

親父は煙草に火を付けながら

父「何度もパソコンで動画を見たが…まさか近くのパチンコ屋に導入されてくれるとは…」

俺「何打ちたいのよ？」

父「天下一閃って知ってるか？」

まさか親父の口から天下一閃が出てくるとは…。いや、当たり前か。

昔からパチンコを打っている人達からすれば注目して当たり前の機種。

天下一閃はいわゆる一発台という代物だ。

一発台というのは1980年代前半にデビューして一斉を風靡したスペック。

たった1玉。1玉を入賞口に入れてしまえば何千玉とゲロの様にドバドバと吐き出す台。

それ故にギャンブル性が高く社会的問題やゴトのターゲットにもなり姿を消していったものである。

その一発台が現代に蘇った。

それがダイイチというメーカーが出した天下一閃。

父「懐かしいなぁ。負けてても逆転出来る機種なんだよあれは。」

俺「まぁね。」

父「動画で予習はした。まぁ大丈夫だろ。」

俺「あのさ…さっきから気になってたんだけどさ…パチンコ動画見てるの？」

父「チラっとな？あと台の評判も見てるぞ。最近天下一閃は全国的に増台しているみたいだな。」

ちょっと詳しくなってるんじゃないよ！

そんなの詳しくなるならLINEの使い方覚えろよ！！

覚える順番がおかしいんだよ！！

腑に落ちないまま店に着いた。この店にある天下一閃は2台。

埋まっている可能性が高い事を伝えると

父「あんなもん誰も打たないだろ」

貴方は天下一閃の何を知ってるのか！！

2台しか無いなら座られてておかしくないからな？

空いていた。 2台。あれ？人気…ないのかな？

親父はほら！と、言いたそうなしたり顔で俺を見る。

いいから選べよ！どっち打つのさ！！

親父は角台に座った。

天下一閃の気分じゃない俺は店をグルっと一周する事とした。

そもそも天下一閃は1番最初の関門がね…。

まず抽選を受ける為のゲート的なもの…通称『ブッコミ』を通す所から始まる。

第1関門はガッチガチだ。

そりゃ敵武将も首取られたくないから守りに余念はない。

城門を開放する空城の計を使った三方ヶ原の戦いでの徳川家康が敵のパチンコ台だったら

ガバガバだっただろうが本機の敵は謎の武将。

もうガッチガチである。

そこをかいくぐり、さぁ合戦だ！とは、まだならない。

合戦でトラップは付き物。

3/9の当たりの扉(回転体)に入らなければ敵武将の元には行けない。

3/9から漏れたらあんなに頑張ってここまできたのにアッサリと外に追いやられる。

見事その関門を突破すれば敵武将の首は目の前！！

法螺貝が吹き鳴らされ白兵戦の始まりだ！

天下一閃で1番アツイ役モノ！

中央の高速回転している棒に玉が当たり、玉が縦横無尽に暴れまわる！

その玉を1/3のV入賞口に打ち込めば

「敵将！討ち取ったりぃ！！」

と叫びながらけたたましい音と共に見事4500発を獲得！！

細かな所にもこだわっている。

高速回転の棒に玉が当たるたびに鳴り響く刀と刀が当たる音、

そして叫び声！まさに息を呑むひと時。

しかし1/3に漏れると「撤退だ…」と一言。

そして舞台からこぼれ落ちる玉は、まるで全ての身ぐるみを剥がされ命乞いをして白ふんどし一丁で恐怖のあまり色々な汚物を撒き散らしながら必死に逃げる中年足軽の様な哀愁を感じる。

パチンコ玉1つにそこまで感情を込められる台…。脇役の玉なんて無い。全ての玉が主役になる…それが一発台の魅力でもある。

その魅力に今日は惹かれない。

正月なのに客いるなぁ。皆さん暇なんでしょうか？

お婆ちゃん…孫にお年玉あげたの？

お爺ちゃん…正月早々そんな怖い顔で海打って一体幾らぶち込んだのさ？

お父さん…天下一閃で出してるねぇ。

え！？

天下一閃って…俺のパパじゃねーか！！

やるなぁ！

そう思いながらも、もう1台の天下一閃にも人が座ったので俺は後ろの台の鉄拳を打つ事にした。

2kで俺も当たったが単発だったので時短を消化して後ろを向くと…。

あれ？

親父が先程まで打っていた台の隣に移動している。

どうやら隣で打っていた人はすぐ止めていったらしい。

パーソナルシステムだったので持ち玉を持って親父の隣へと移動した。

タ「どう？さっき当ててたけど…。」

父「500円で当たった！でもその後が続かなかったな。」

見ると当てた後に10回回っている。良い台なんじゃねーの？

父「寝かせた方がいいぞ。」

寝かせる？

父「台を休ませるんだ。」

タ「ん？ん？ん？」

俺は理解が出来なかった。

寝かせるとか料理でも作る人が言う言葉だろ。

何を言ってる？

父「俺は今こっちに移動してきたが…これはしばらく寝かせた台だ。だから当たるぞ。」

キューピー3分クッキングかよ！！

はい、この台をしばらく冷蔵庫で寝かせます。

そしてしばらく寝かせた台がこちらになりまーす

……じゃねーだろ！！

タ「お…おぅ…。」

これしか言えねーよ。そんなんで当たるなら苦労しねーんだよ。

しかし…。このオカルトというものはなかなか馬鹿にはできない。

すぐに俺の目の前で親父は簡単に当てた。

嘘だろ！？

しばらく寝かせた台がこちらです！！

そんな訳あるか！！パニックだ…！

父「寝かせるんだって！それも休ませてみろ？」

そんなもんオカルトだ！と、言いたいが目の前で有言実行されると流石に何も言えない。

俺は美味しい天下一閃の出来上がりを待つために席を立った。

そして乱れ打ちをして持ち玉が尽きた。

しかし俺には寝かせ続けた天下一閃がある！

下ごしらえは十分だ！

あとは俺がとびっきり美味いものにしてやる！！

いざ！！

親父が俺の寝かせていた台で当てていた。

意識が遠のき、膝から崩れ落ちそうになるのを抑えた。

おいいぃーーー！！！

俺の寝かせた台だぞ！

しかも当てているって…どういう了見だ！！

そして大当たり終了後、俺を見つけて帰るぞというジェスチャー。

もう…何も言うまい。

車に乗り放心状態でシートベルトを締めた。

タ「で、どうでしたか…？」

父「うん、勝った！」

タ「そりゃ良かった…。」

父「やっぱり寝かせて休ませる事が大切だな。」

最後のは俺が寝かせていた台だぞ！！

父「休ませるとすぐ当たる。あと打ち方も変えてくのがベストだな。」

タ「ん？」

父「隣に座った人が打つ場所を固定してたんだ。でも玉の入り方は見ているとパターンは決まってない。

だから固定するより色々な所で微調整は必要だな。」

タ「そうか…。一発台の感想は？」

父「昔の台の方がドキドキした。」

タ「天下一閃だって最後ドキドキするだろ？」

父「あれはあれでいいが…昔と比べてしまうとなぁ。今に合わせてるんだし仕方ない事だが…

昔はさ、皿に3つ穴が開いていた役モノが付いた台とかあったんだ。それが良くてなぁ。もっと出玉も多かったし。」

要するにカイジの沼みたいなもんか。

父「しかし…」

親父はひと息入れて

父「あれはあれで楽しい。」

俺の寝かせた台だったけどな！

最後のは俺の寝かせた台だったけどな！！

父「いつの時代だって勝てば楽しいもんだ。」

いつの時代だってか…。

タ「そうだな。」

昔と今を比べたってどうにもならない。昔が戻ってくる訳でもない。あの頃は良かっただの今は駄目だの悲観するのは個人の自由だ。

しかし悲観したって何も変わらない。今を楽しめるかどうかなんじゃないのか？今は存在しない名機達と戯れてきた親父。しかし、今ある現行機でも楽しそうに打ちやがる。親父が昔から未だに打ち続けられてるのは悲観なんてせずに純粋に『今』を楽しめているからなんだろう。

車を運転しながらどっちが子供だよって位、楽しそうにパチンコの話をする親父。

2017年。俺にとってもあんたにとっても最高の年になればいいね。

親父よ…また打ちに行こうな。