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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2024.01.16
パチスロを超えたアトラクション~5号機トータル・イクリプス③~
▲5号機「パチスロ トータル・イクリプス」(SANKYO)
前回までのあらすじ
「若手芸人のカネでトータル・イクリプスを代打ちする」という特殊な生配信に出演することとなったラッシー。配信は16時スタートだが、番組のルール上、朝イチの開店時から若手芸人のカネ(通称:血銭)で打つことに。しかし、配信開始時点で総投資は76,000円。200枚ほどあった出玉も、配信開始からほどなくノマれてしまう。絶望の表情を浮かべる若手芸人の2人。荒れに荒れる配信のチャット欄。このまま配信終了か。誰もがそう思った頃、ART準備中でBIGに当選。総投資は89,000円に達していた。
――「はじまった、はじまったぞコレ!」
横目でPCの画面に視線を移すと、若手芸人コンビのHくんとSくんが身を乗り出してモニターにかぶりついていた。
Sくん「はじまった? 何が? 何が?」
Hくん「ラッシーさん、説明お願いします!」
――「さっきも説明した通り……」
ART準備中やART開始時のランクアップチャンス中にボーナスを引くとレベルアップ(※)しやすい。俺は準備中に引いたこのBIGも当然レベルアップしやすい旨を説明した。
レベルとランク
ARTには3段階のレベルと5段階のランクが存在し、その組み合わせでST(ART)1セットあたりの継続期待度が変化する。継続期待度は最低のレベル1×ランク1なら46.8%、最高のレベル3×ランク5なら94.3%。
Hくん「つまり、このBIG中のバトルに勝てば…」
Sくん「STの継続率アップってことスね?」
――「簡単に言うとそんな感じです」
Hくん「くぅ~、頼みますよ~!!」
総投資は89,000円だ。芸人さんの2人も全額回収は諦めているだろうが、少しでも返ってきてほしいのだろう。その表情は、まさに必死そのもの。彼らをここまで追い込んでしまったことに胸が痛んだ。
しかし―――
その実、ART準備中に成立したBIGでどの程度レベルアップするかは分からない。なにせ導入初日なのだ。そこまで込み入った解析数値など当然ナイし、信頼に足る実戦値も存在しない。分かっているのは〝レベルアップしやすい〟という不確かな情報だけ。
「……(大丈夫か、本当に?)」
心臓がもたない!!
そしてBIG中のバトル消化中。
――「液晶に赤いチャンスアップのアイコンが出てくるほどチャンスです」
Hくん「へ~、分かりやすい! で、どうですか?」
――「半分の段階でチャンスアップ3つ。相当イイ感じです!」
Sくん「頼む! イケる!!」
――「さらにチャンスアップ増えました!」
Hくん&Sくん「うおぉぉぉ!」
――「あっ……」
Hくん「えっ?」
敵の攻撃を受け暗転する液晶画面。恐れていたことが現実になった。
Sくん「は? ど、どうなりました?」
――「……負けです。レベルアップなし」
Hくん「ちょ~~~、ラッシーさん話が違うよ~」
――「ごめんなさい。バトルの展開は良かったんスよ」
チャット欄では、人間の動体視力では追えないほど高速でコメントが流れている。
『オワタwww』
『これだから【H】のライターは』
『ライターはウソつきしかいねえ』
『どう責任とんだよ?』
『期待だけさせやがって』
たしかに過信しすぎた感はある。ファフナーで一定の信頼を得たとはいえ、やはり演出面では盛りすぎの感があるSANKYOだ。目に見える期待度から4割ほど差し引いて、冷静に実況する必要があるかもしれない。そう後悔しながらレバーを叩くと…
――「ああああああ!!」
Sくん「どうしたんスか?」
『急に大声出すな』
『鼓膜無いなった』
『鼓膜吹き飛んだ』
――「し、し、下パネルが消えました!」
Hくん「え、てことは?」
ゆっくりとストップボタンを押していくと、第3停止でド派手な効果音とともに役物が出現! 役物が去ったあとに液晶には、控えめに「WIN」の文字が出現した。
――「レベルアップしましたー!!」
Sくん「うおぉぉぉ! 危なかったー!」
近年の機種はこれだから困る。勝つならスッと勝てばいいのに、逆転パターンの割合が高すぎる。シンプルに心臓に悪い。
『さすがSANKYO』
『俺は信じてた』
『役物かっけえ』
『これぞ俺らのSANKYO』
このリスナーの手のひら返しが気持ちいい。
『レベル2になるとどうなんの?』
――「あとはランク次第だけど、ST継続期待度が最低でも65%ぐらいになった」
Hくん「65%……」
『65%とか単発あるやん』
『秒で終わるやつ』
『キツい台だな』
『やっぱ打つ価値ねえよ』
――「いやいや、ART復帰時に高ランクが選ばれれば…」
レベル2のランク5ならST継続期待度は約76.8%。そこまで上りきれば十分ロング継続を期待できる! が…
――「ちょ~、最悪なんだけど…」
ART復帰後のランクアップチャンスで決したランクは最低の1。ST継続期待度はレベル2において最低の65.1%だ。
――「クッソ、全然安心できねえ…」
レベルアップで期待が高まったぶん、STを駆け抜けた際の落胆は大きくなるだろう。なんとしても継続させねばならないが――。
アトラクション。
STの残りゲーム数が15Gに達したところで手が止まった。
――「ちょ、ヤバいヤバい! あと半分しかない」
Hくん「頼みますよ! せっかくレベル上がったのに」
Sくん「まだ300枚も取り返せてませんよ」
――「すみません」
『65%じゃそうなるよな』
『擬似ボ当たる気がしねえ』
『レベル上げた意味あるか?』
『俺はこんな台絶対打たない』
――「まあレア役引けてないからな~」
Hくん「どういうことスか?」
Sくん「レア役引かないと擬似ボ当たらないんスか?」
――「ちょっと説明が難しいんだけど…」
レア役による擬似ボ(RC)当選率はレベルの影響が大きい。レベル2ならスイカでも20%、角チェリーでも50%でRCが当選する。もちろんリアルボーナスが当選する可能性もあるため、レア役1回の価値はかなり大きい。
対するレア役以外によるRC当選率にはレベルとランクの両方が影響し、とりわけランクの影響が大きい。上位レベルであってもランクが低いと当選に期待できない。
――「今はランクが低いから、レア役で凌ぎたいわけよ」
『なるほどね』
『なるほど分からん』
『うるせえ、黙ってレア役引け』
『なんか思ったより奥深いな』
――「とにかく残り15Gでレア役くれぇ!」
一打一打、祈るようにプレイをしていると、残り11Gでチャンス到来!
レバーONで液晶に赤文字「唯依!」が出現。発生時点でレア役以上を期待できる演出だ。
――「来たー! 前兆中じゃないから、たぶんレア役!」
慎重にリールを止めるとスイカが揃った。
――「くぅ~、スイカはRCでもリアルボーナスでもいい」
Hくん「当ってくれ~!!」
次ゲームは普通に小役ナビが発生しリプレイ揃い。その次ゲームも同系統の小役ナビでリプレイ揃いだ。
――「リプレイ揃ってるからリアルボーナスはキツそう」
『擬似ボに期待だな』
『擬似ボの告知来るか』
そしてスイカ成立から3G後。連続演出に発展するも…
――「だぁ~~~、RCいなかった~」
Sくん「か~、ダメか~~~」
『オワタ』
『終わりだよもう』
『儚い夢だったな』
『もう配信終了でいいよ』
『これだからSANKYOは』
俺だって落胆している。やっと巡ってきたレベル2というチャンスを、1セットすら継続させられずに終えるのだから。
連続演出失敗後は、すぐにセットのラストで発展するバトル演出へと移行した。ここで勝利し継続となるパターンもある模様だが、取材でも本日の実戦でも1度すら確認できていない。
おそらく、このバトルの前兆中や消化中にRCやリアルボーナスが当選すれば、バトルに勝利するという仕組みなのだろう。
くだらない。
ここまでSTを25Gほど消化して引けないのだ。たかが5G程度で何ができる。強めのレア役でも引かない限り、ここからの逆転はナイ。このバトルに発展した時点で〝詰み〟なのだ。そう思っていたのだが…
――「あれ? セリフが赤文字だが!?」
Hくん「え? チャンスあります?」
――「あれえ? 敵もいつもよりデカい気がする」
Sくん「勝ってお願い!!」
過度な期待は禁物。さっきそう学んだばかりだが、否が応でも期待してしまう。バトル中もレア役はなく、押し順ベルとリプレイばかり。普通に考えれば期待薄だが……
――「か、勝ったーーー!! 初めて勝ちパターン見た!」
Hくん「うおぉぉ、首の皮一枚つながったー!」
――「RC当ってました!」
Sくん「あの短いバトル中に引いたんスか?」
――「いや、もしかしたら…」
セットの途中で擬似ボが当選しても、30Gをフル完走させてから告知する〝後告知〟パターンが存在する。それゆえ本機のARTは、厳密に言えばSTではない。正確性を求められる誌面では、よく〝STライクなART〟と表記していた。
――「さっきのスイカの後告知かも」
『マジか! 完走助かる』
『心臓に悪いけど完走後告知嬉しい』
『この台オモロいんじゃね?』
『いや、スッと告知せえや』
――「くぅ~、マジで頭おかしくなりそう」
絶望と歓喜が幾度も押し寄せてくる展開で、気が休まる暇もない。息苦しい。しかし、それでいて最高に面白い!!
――「っしゃ、まずはランク上げていきます!!」
またも高速で流れるチャット欄を見て、興奮しているのは俺だけではないのだとハッキリ分かった。徐々に高まるリスナーと一体感。まるで一緒のアトラクションに乗っているような感覚だった。
最強手札、完成!
残念ながらRCでのランクアップは無かったが、次セットがはじまって3G目…
――「っしゃー、またスイカからBIG!!」
ST中のリアルボーナスは、早く引くほどレベルアップを期待できる。そして、ここも…
――「はい、バトル勝利でレベル3到達です!」
Hくん「うおぉ~~~!」
Sくん「あとはランクだけ!!」
レベル3開始時のランクは2からスタートしたが、その後は危なげなくRCを重ね、順調にランクアップを繰り返し…
――「はい、これで最上位の94.3%に到達です!」
遂に本機における最高到達点、レベル3のランク5に到達!!
Hくん「やりやがったーーー!!」
Sくん「終わらねえ! これもう終わらねえよ!!」
『マジか! やりやがった!』
『俺はやるって信じてたよ』
『あとはボーナス引きまくるだけ!』
この日、1番の盛り上がりを見せるチャット欄。しかし、まだ安心してはいけない。普通にいけば易々とは終わらないが、まだ出玉は600枚にも届いていない。差枚数を〝トントン〟まで持っていくには、リアルボーナスを引きまくる必要がある。
が…
――「はい、チャンス目からスーパーBIG」
『うおぉぉ!』
『めっちゃ簡単に当たるやん』
――「やっぱスイカは働くな。BIGいただきです!」
『これホントにさっきまでと同じ台か?』
『少しアツい演出来たらスグ当たるじゃん』
――「あ、また当った。バケだけど」
『もう当ればオケ!』
『ボーナス告知が気持ち良すぎてイ〇』
――「あ、またサクラ柄出た。はい、BIGでしたね」
『これマジで取り戻せるんじゃね!?』
『ストック機かよ』
『なんつー台だ! 脳汁すぎる!!』
配信前のお通夜状態がウソのように当りまくるリアルボーナス。出玉はメキメキと増えていき、3,000枚を突破しても止まる気配はない。
――「お、また中押しでスイカ or チャンス目」
『マジでアツすぎるってソレ!』
『次ゲームのナビなしで汁出る』
『ボーナス判別がいいよな』
『っぱボナ+ART機よ!』
――「はい、またBIGでしたね」
ここまで到達して、やっと安堵した。間違いなく取りきったら実戦終了となるだろう。芸人さんの2人を手ぶらで帰らせる恐れはなくなった。このまま差枚数プラス域まで持っていければ―――。
配信の理想形。
リアルボーナスとRCを飽きるほど引きまくり、2時間半ほどが経過した頃。
――「あ~、やっちまった」
遂にSTの継続に失敗。獲得枚数表示は4,200枚を超えたところだ。
Hくん「いや、ラッシーさん十分!」
Sくん「もう十分すぎますよ!」
――「いや、まだ終わりじゃないよ」
レベル3でのST継続に失敗すると、レベル2でのSTが改めてスタートする。レベル2での継続に失敗した際も然りで、スグにレベル1からのSTが再開される。
『マジかよ! スゲー台だな!』
『またレベル3への返り咲きもあんのか』
『夢ありすぎんだろ!』
しかし、レベル3でヒキを使い果たしたらしく、呆気なくレベル2・1を駆け抜けて終了。引き戻しゾーンもスルーしたところで、いよいよ実戦終了となった。
そして数分後――。
Hくん「では、結果を発表します。総投資89,000円」
Sくん「で、回収は……4,368枚です!」
――「わ~~~、ギリ±0に届かなかったか! 申し訳ない」
Hくん「なに言ってんスか! 十分スよ!」
Sくん「生き残った~! ありがとうございます!!」
Hくん「マジで配信はじまるとき、内心終わったと思いましたもん」
――「ふはは、俺も終わったなと内心思ってました」
若い2人に勝ちぶんを渡せなかったのは悔やまれるが、本人たちがあれだけ喜んでいるのなら悪くない着地点だったのだろう。
Hくん「では、終日頑張ってくれたラッシーさんに感想をいただきましょう」
――「途中は『もう〇のうか』とも思いましたが、結果的に楽しい実戦になりました」
リスナーの感想が知りたくて、カメラからPCのチャット欄に視線を移した。
『スゲー楽しかった!』
『初めてパチスロで感動したわ!』
『クッソ面白かった!』
『泣いた』
――「ふはは、いやホントみんなと一体感が生まれてスゲーいい配信でした」
Hくん「いや、マジそうすよ」
Sくん「人が打ってんのをこんなに応援したのは初めてかも」
――「でもさ、みんなSANKYOさんに何か言うことあるよね?」
『すみませんでした』
『ク〇台とか言ってスミマセンでした!』
『今世紀最高の神台』
『神台すぎます!』
『明日打ちます!』
『今から並びます!!』
――「ふはは、痛快すぎる! みんなも94%継続楽しんでください」
Hくん「それでは〇〇の『俺のカネで出してくれ』、また次回お会いしましょう!」
Sくん「さようなら~!」
『この配信は終了しました。ご視聴ありがとうございました』
チャット欄に流れる運営コメントを見送り、PCの液晶が待機画面に変わったのを確認して席を立った。運営ブースで待っていた2人は、固い握手で迎えてくれた。心地いい痛みを感じるほど、力強い握手だった。
トータル・イクリプスは、一般的な視点で言えば名機ではないだろう。しかし、これほど生配信に向いている機種は他にないと思う。実戦人だけでなく、リスナーまでをも魅了してしまう魔力があった。
いささか大袈裟な言い方になるが、もはやパチスロという領域を超えているとさえ感じた。打ち終えたあとの充足感は、夢の国のアトラクションを降りたあとのそれに似ている。
ちなみに俺がこの機種の真の実力を知るのは、この日からもう少しだけ先のことだ。
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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