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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2024.01.02
大波乱の生配信スタート~5号機トータル・イクリプス②~
▲5号機「パチスロ トータル・イクリプス」(SANKYO)
前回のあらすじ
5号機トータル・イクリプスの導入初日。ラッシーは「若手芸人のカネでトータル・イクリプスを代打ちする」という特殊な生配信に出演することに。若手芸人が用意するカネ、通称「血銭(ちぜに)」は総額10万円。配信は16時から始まるが、もちろん台確保のため朝イチから血銭を使って打つ必要がある。結果、配信前にもかかわらず63,000円もの大金を使ってしまったラッシー。かくして生放送は公開裁判へとなりつつあった―――。
前回(①)はコチラ
『芸人さん入られます』
まだ非公開の配信待機画面に、運営のコメントを示す赤文字が浮かんだ。すぐさまサンドからカードを抜き取り、すっかり重くなった腰を上げて運営ブースに向かった。
最悪だ。
芸人さんの2人とは初対面。まさか、いきなり本気の謝罪からスタートする羽目になるとは。彼らには〝最悪の共演者〟として記憶されるだろう。
俺にできることは誠心誠意謝ることと、配信終了までの間に少しでも多く取り戻すことくらいだ。
運営ブースに向かう途中、運営のPくんが手で「そのままお待ちください」のサインを送っていることに気が付いた。素直に立ち止まると、Pくんが駆け足でやってきた。
運営P「2人には軽く挨拶だけして、現在の投資額は伏せておいてください」
――「ええ? いや、まず謝らないと」
運営P「いや、それだと配信中の新鮮なリアクションが無くなるんで」
――「……たしかにそうか」
なるほど。配信がスタートしたあとに現在の投資額を聞かせ、その絶望の表情を電波に乗せたいというわけだ。俺にとっては心苦しいが、たしかに運営サイドとすればそのほうが面白くはある。
――「了解です。じゃあ、ホント挨拶だけ」
運営P「よろしくお願いします」
俺はジーンズの左ポケットから名刺入れを取り出し、重い足取りで2人が待つ運営ブースに向かった。
最悪のスタート。
「はじめまして、〇〇のHです」
「はじめまして、同じく〇〇のSです」
――「はじめまして、ライターのラッシーと申します」
若い。2人とも俺より10歳は下に見える。初対面ではあるが、この仕事が決まってすぐに2人のSNSをフォローしている。そこには普段のバイトの様子も投稿されていた。
この10万円を集めるのは、どれほど大変だっただろう。2人のバイト数日分が、まさにこの血銭なのだ。スグにでも現状を報告して謝りたいが、喉元まで押しあがってきたそれを無理やり飲み込んだ。
Hくん「途中失礼があるかもしれませんが、冗談ですのでお許しください」
――「ええ、もちろん。こちらこそよろしくお願いします」
Sくん「それで、調子はどうです?」
――「……まあまあです、ハハハ」
引きつった笑いが精一杯だった。視線をブースの後ろに移すと、運営のPくんが笑いながら首を横に振っている。俺も「分かってるよ」と首を小さく縦に振った。
――「では、スタンバイしましょうか?」
Hくん「はい! よろしくお願いします!」
2人も俺の表情から察しただろう。それでも、まさかあれほどの額とは想像できていないハズ。心は痛むが、悪役になる覚悟を決めて席に戻った。
そして16時、いよいよ生配信がスタート。
Hくん「さあ、はじまりました! 〇〇の『俺のカネで出してくれ』。MCのHです」
Sくん「同じく〇〇のSです! さあ、そして本日の機種ですが…」
Hくん「そうなんだよ。あまり聞いたことない機種で」
Sくん「今日導入されたばかりだから、まだ名前も覚えてない」
Hくん「なんか難しい名前だよな?」
Sくん「じゃあ、実戦人の方にご挨拶と機種の紹介をいただきましょうか?」
Hくん「そうしましょう! 本日の実戦人はこの方です!」
ブースから運営Pくんの「どうぞ!」のサインが飛んだ。
――「みなさん、こんにちは! 攻略誌『H』のラッシーです」
『ラッシーさんこんにちは!』
『誰コイツ? 知らねー』
『他に誰かいなかったんか?』
――「おいー、開幕からコメが辛辣だな」
Hくん「お前ら(リスナー)、失礼なことを言うなよ」
――「まあまあ、いつもこんな調子なんで大丈夫です」
Sくん「いやいや、俺らの血銭を増やしてくれる恩人なんですから」
ズキンと胸が痛んだ。
――「恩人なんて言われると逆に怖いですけど」
思わず声が小さくなってしまった。
Hくん「それでラッシーさん、今回の機種を紹介してもらえますか?」
――「はい、パチスロ トータル・イクリプスという機種で―――」
話が長くなると飽きられるので、かいつまんで機種の概要だけを紹介した。
『クソ台確定』
『なんでこんな機種選んだんだよ』
『誰もSANKYOに期待してねえよ』
『は? ファフナーは面白かったが?』
予想通り、コメント欄はさっそく荒れている。
――「たしかに簡単な機種ではナイけど、ポテンシャルは秘めてる機種だから」
Hくん「なるほど! で、ラッシーさんには朝から打ってもらってるわけですが」
Sくん「そうだね、この時間までの収支をお願いします」
――「あー、収支ですね………」
ブースをチラリと横目で見ると、2人は顔の前で指を組み祈っていた。
――「えー、総投資が………76,000円で」
2人「はああああ? な、ななまん!!?」
Sくん「え? もう無くなるじゃん」
Hくん「冗談ですよね?」
――「で、持ち玉が…たぶん200枚くらい」
2人「……………」
PC画面に映った2人の顔は、大げさなほど歪んでいた。
荒れるチャット欄。
『負け確じゃねーか』
『オイ、やったなラッシー』
『マジ、コイツ呼んだやつ誰だよ』
『実戦人おれのほうがマシだろ』
『土下座で謝罪しろカス』
案の定、チャット欄は辛辣なコメントで溢れかえった。
――「申し訳ございません! ただ、言わせて。この台、ARTループ率最大94%だから」
Hくん「まだ逆転はあるってことですか?」
――「ん~~~~、可能性はゼロではナイ」
Sくん「いやいや、そこはウソでも言い切ってくださいよ~」
『お前、人の金だと思ってナメてんだろ』
『お前センスないよ』
『負けないでラッシー』
――「ホントごめんなさい! マジで難しい台なんスよ」
Hくん「爆発力あるからリスクも高いわけですね?」
――「そうそう! もちろん逆転は諦めてないから」
Sくん「いや、ホントお願いします!」
『もう開幕で終わってんじゃん』
『はい、終了』
『もう打たずに雑談配信でいいんじゃね?』
『逆転とか無理に決まってんだろ』
Hくん「まあまあ、みんな落ち着けって! ラッシーさんに期待しようよ」
――「ありがとうございます! このままでは終わらせません!!」
とは言ってみたものの、打つ手などなにもない。ただただ祈りながらプレイする以外に方法はナイのだ。芸人さんの2人も「期待しようよ」とか「お願いします」とは言っているが、内心では分かっているハズ。
7万のビハインドを簡単に取り返せるほど、昨今のパチスロは甘くないと。今回の配信は出演料を差し引いても赤字。ギャラ割れ確定。そう諦めているハズだ。
せめて笑って帰れる負け額にはしてあげたい! 出演料と合わせてチャラ。最悪でも、そこまでは戻してあげねばならない。
それが大人であり、この生配信出演者の責務!!
――「では、逆転目指して打っていきます!」
Hくん「お願いします!!」
マズい流れ。
配信が始まっても展開は変わらなかった。当然だ。設定が変わったわけではないし、台移動をしたわけでもない。残金は少ない。10万円を使い切ってしまう恐怖に押しつぶされそうになりながらも、俺は必死にレバーを叩き続けた。
もちろんコメントを拾うことも忘れてはいけない。
『台移動してないの?』
――「してないね。開店からずっとこの台」
『空き台ないの?』
――「いんや。今も2台空いてるよ」
『移動しろよwww』
『お前、マジで人の金だと思って』
『立ち回り下手すぎだろw』
――「違うんだよ。まず前提として、設定状況は厳しそうなのよ」
『だから移動するだけムダだって?』
『それでもワンチャン移動の方がマシじゃね?』
――「違う違う、CZ出現率はこの台が1番高いから」
実質的なCZ出現率 | |
---|---|
設定1 | 1/446 |
設定2 | 1/397 |
設定3 | 1/346 |
設定4 | 1/321 |
設定5 | 1/297 |
設定6 | 1/255 |
――「現状判明している設定差はCZ出現率くらい。今日は3台とも設定1未満の出現率だけど、それでもこの台が1番マシなんだわ」
『はー、なるほどな』
『それならたしかに動かんかな』
『でも、せめてボナ当たってる台の方がよくない?』
――「それがリアルボーナス確率は全設定共通。設定差が一切ナイんだ」
ボーナス抽選確率 | ||
---|---|---|
設定 | スーパーBIG | BIG |
1 | 1/1524.1 | 1/574.9 |
2 | ||
3 | ||
4 | ||
5 | ||
6 | ||
設定 | REG | ボーナス合算 |
1 | 1/512.0 | 1/230.0 |
2 | ||
3 | ||
4 | ||
5 | ||
6 |
『ほえー、今どき珍しいな』
『ボナは完全にヒキってことね』
『設定差はCZとARTだけってことか』
――「そう。あとはARTブチ込んで、そこでループ率MAXまで育てるだけよ」
『さすがライター、解説上手いな』
『解説だけは上手い』
『ラッシーは解説したがりだからな~』
――「なんだその言い方! 解説する仕事じゃ!!」
こういった雑なやりとりが心の支えになった。7万などひっくりかえせるわけがない。敗色濃厚の戦いなのだ。冷静になると、今にも心が折れそうだ。
――「しかしみんなも16時から配信見てるとか、ずいぶんホワイト企業にお勤めなんですね~?」
『ニートに決まってんだろ! 言わせんな』
『親の遺産で食ってます』
『傷ついた! 謝罪しろ!!』
『超えちゃいけないライン考えろよ』
――「ふはは、この時間まだハロワ開いてんよ?」
そんなくだらないやりとりをしながらも、どんどんメダルは吸い込まれていく。持ち玉などあっさりノマれ、追加投資が始まった。どうにか明るくコメントを返していたが、やはりどうしても暗い雰囲気が漂ってくる。
『気にすんなよ、お前のせいじゃねーよ』
『こんな店選んだ運営が悪い』
『そもそもSANKYOが悪い』
『もうこの機種打たないって決めたわ。ありがとう』
これはマズい流れだ。メーカーの人たちも、意外とこういった配信や動画をチェックしている。俺もSANKYOを嫌いであれば構わないが、ファフナーのお陰で一気に好きなメーカーの1つになった。
俺のせいでSANKYO批判を加熱させ、「もうアイツには打たせたくない」などと思われたら心外だ。
俺のような無名のライターは、メーカー公式案件をもらえる機会など極めて少ない。それゆえ嫌われたとて仕事への影響は小さいが、とはいえ好きなメーカーに嫌われるのはシンプルにツラい。
――「ねえ、やめて! お店も配信に協力してくれてるし、この機種だってクソ台じゃねえから!」
『いや、この時間に8万くらい入ってる時点でクソだろ?』
『人食い台だよ』
――「いや、ちゃんと見合ったリターンあるから」
『それが無いからそこまで負けてんだろ?』
――「それはそうだけど。タイミングさえ噛み合えばマジでワンチャンあんの!」
そう、取材段階では単純なSTタイプのARTだと思っていた。しかし取材から導入までの間に、アツい事実が判明していたのである。
逆転への最短ルート。
ARTを上位ループ率まで育てるカギはリアルボーナスだ。前回の更新で解説した通り、ARTはSTタイプとなっており、セット消化中にリアルボーナスか擬似ボーナス(RC)を引けば次セットへの継続が約束される。
そしてARTにおいて極めて重要なのが「レベル上げ」だ。擬似ボーナス(RC)の当選率はレベルとランクの組み合わせにより変化する。ランクはARTがループしている間に上がりやすいが、レベルはそう簡単に上がらない。
ART中にリアルボーナスが当選すればレベルアップのチャンスとなるが、ここに大きな秘密があった。
STの1セットは30Gで、ST開始から早く引いたリアルボーナスほどレベルアップしやすい傾向がある。つまり、STゲーム数を多く残した状況で引いたボーナスほどアツいわけだ。
また、ART初当り時やボーナスからのART復帰時は、準備状態(RT状態上げ)を経由する。さらにRT状態が上がりきってARTが開始する際は、5G間のランクアップチャンスも与えられる。
この「ST開始前の遊びの部分」に成立したリアルボーナスも、ことさらレベルアップしやすいという特徴がある。
要約すると、ARTに入れた直後にリアルボーナスを連打できれば、一気にレベルMAXまで駆け上がることも可能というわけだ!
――「リアルボーナスは人並みに引けてるから」
『あとはタイミング次第ってことね』
『それができりゃ苦労しねえよ』
『できてねえから負けてんだろが』
リスナーの言う通り、その後も苦戦が続いた。リアルボーナスは当るが、肝心のARTに入らない。そして、どうにかCZからARTに捻じ込んでも、STをループさせられず単発終了。一向に逆転の道筋が見えてこない。
――「じゃあ諭吉9枚目、入れまーす」
Hくん「ぐわぁぁぁ~」
Sくん「ちょ~、お願いしますよ~」
――「ほんと……スミマセン」
こんな仕事受けるんじゃなかった。心の底からそう思った。そしてカード残高がなくなる寸前で、BIGから配信中2度目となるARTに当選。そして、その準備中…
台「ビーッ、ビーッ、ビーッ………」
――「ああーーー!!」
『どうした?』
『アツいんか!?』
『なにおき?』
警報音が鳴り、リールの上下に控えめなサクラ柄が出現しているではないか!
――「なんか引いたなんか引いた!」
『遂にレベル上がるか?』
『BIG欲しいな』
――「中押ししていい? コイツ中押しアツいんだ」
恐る恐る中リールに赤7を狙うと、中段にスイカが停止して思わず仰け反った。
――「アツすぎぃ!」
『どうした?』
『スイカか?』
『スイカはアツいんよな?』
――「この出目はスイカ or チャンス目。スイカなら1/4でリアボだから」
残りリールを止めるとスイカが揃い、次ゲームのレバーONでもサクラ柄+警報が発生! 最速揃え手順を実践すると、中段に赤7が揃ってBIGがスタートした。まだレベルアップ確定ではナイが…
――「はじまった、はじまったぞコレ!」
実戦開始から7時間強。遂に待ちに待ったチャンスが訪れた!
つづく
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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