Aプロで万枚目指す！～サンダーVリボルト①～

ラッシーパチスロワイルドサイド-脇役という生き方-

9時ピッタリにドアが開いた。前にいた5人は足早にAT機のシマへと消えていき、俺はその背中を見送ると、1人ゆっくりと反対方向に進んだ。

朝の並びは10人にも満たなかった。競争相手などいるはずもないし、狙い台もネットの出玉データから事前に決めている。焦る理由は1つもなかった。気楽なものだ。休日にはこれくらいがちょうどいい。

予定通り角3の「サンダーVリボルト」に着席。その直後、角台の下皿にタバコが投げ入れられた。この店のノーマルタイプに魅せられているのは、どうやら俺だけではないらしい。

5号機サンダーVリボルトの筐体

▲5号機「サンダーVリボルト」(アクロス)

2015年の夏にデビューしたノーマルタイプで、言わずとしれた「サンダーVシリーズ」の5作目(パチンコ除く)にあたる。初代から脈々と受け継がれたリールフラッシュに、3,300通り以上の多彩なリーチ目を搭載。

純粋にボーナスのみで出玉を増やすタイプで、BIGは最大333枚、REGなら最大111枚を獲得可能。ハナビで好評を博したRTは非搭載だが、そのぶん1/167.2～1/128.0という高いボーナス確率が魅力だった。

意外なライバルの出現に、やや身を固くしたが、少しだけ嬉しさもあった。さほど広くないAプロコーナーだが、とはいえ俺1人には広すぎる。

こんなガラガラの店だ。一般論でいえば、高設定が投入される可能性は低い。しかし、そうじゃないから〝この店〟は面白い。

桃源郷。

「明日ヒマですか？」

2年ほど前のことだ。突然電話してきたのは、同じ攻略誌「H」に所属する後輩ライター・Kだった。

――「空いてるけど、どしたん？」

K「今日、たまたま面白い店見つけたんですよ」
――「ほう、どんな感じ？」

K「高設定っぽい台がチラホラあって、エナできそうな台も結構落ちてて」

「たまたま特定日だったのでは？」などと思ってしまうが、彼がわざわざ電話して来るほどだから、そんな単純な話ではないだろう。Kは攻略ライターの俺と違い〝誌上プロ〟に属するライターだ。

店選びに対するストイックさは俺の比ではない。そんなKが興奮ぎみに電話をかけてきたのだ。よほどの〝穴場〟だと予想できる。

――「ヒラ日(非特定日)だったんだよね？」
K「はい、調べたらヒラ日でした。でも〝絶対あるだろ〟みたいな台がたくさんあって」

――「このご時世にそんなウマい店あんの？」
K「もちろん実際に行って調べてみないとですが、桃源郷かと思いましたよ」

――「ふはは、んな大袈裟な」

しかし妙だ。そんな優良ホールなら、とっくに知っているハズである。たとえ遠くても同業者づてで伝わってくる。新人ライターならいざ知らず、このKに限って、そんな知れた優良店を今さら俺に勧めてくるとは思えない。

――「場所どこなん？」
K「それが…ラッシーさん家から近いんじゃないかと思いまして」

――「え？ウチに？」

この市に住んで15年ほどになる。市内はもちろん、隣接する市や郊外のホールもほとんど把握しているつもりだ。

――「最寄り駅は?」
K「N駅を降りてスグのところです」

――「は～、なるほどな～」

ハッキリ言えば陸の孤島。たしかに地図で見ると直線距離は遠くないが、自宅からのアクセスはかなり悪い。大きな山を越える必要があり、鉄道だとぐるりと迂回しなければならない。

K「行ってみません？」
――「OK！行ってみよう」

そんなわけで、Kに連れられ新規開拓に向かったわけである。

Kの目はたしかだった。AT機・ノーマルタイプを問わず、ヒラ日であっても高設定らしき台が複数ある。それでいてライバルとなる客も少ない。いや、正確に言うなら〝朝イチは客が少ない〟だ。

しばらく通ってみて分かったのだが、稼働は昼過ぎから急速に上がってくる。明確な理由は分からないが、近隣のプロや玄人は、おそらくホールがひしめき合うよその大きな街まで出ているのだろう。

よその街であぶれた玄人や、午前中に用事を済ませた主婦・高齢者が午後から集まってくるようだ。近隣にライバル店が存在しないため、夕方にもなれば相当な高稼働になる。

では、なぜこの店がヒラ日でも高設定を使えるかだ。そもそも名の知れたチェーン店なので、潤沢な資金力があるのだろう。当該店舗の中だけでみると、パチンコとジャグラーシリーズが売り上げを支えているようだ。

ジャグの状況はお世辞にも良いとはいえないが、近隣の主婦や高齢者からすれば、ここ以外に選択肢が無いのだろう。高設定らしき台も皆無ではないが、100台近い設置から考えるとあまりにも少なすぎる。

それでも昼以降からはフル稼働なのだから、ホールにとってはまさにドル箱だろう。はじめは「そんなウマい店ほんとにあるの？」と思っていたが、たしかに電車を乗り継いででも通うべきホールだった。

嫉妬。

開店から2時間後――

ふとデータ表示器が目に入り溜め息が漏れた。開店直後は低投資でのロケットスタートに成功し、ものの1時間で1箱半を積み上げた。

しかし、現在のボーナス履歴はREG・REG・REG・REG・REG……。ずっと持ち玉遊技が続いているが、大きくREGに偏ってジリジリと出玉を減らす時間が続いている。

通常時のベル出現率は最悪。そこだけ見れば低設定だが、それを否定するようにナゾREG(チェリー同時当選以外のREG)が当たっている。加えてBIG中の斜めベル出現率も、思い切り偶数設定を示している。

過去数日の出玉データから予想した本命台でこの挙動。⑥の可能性は十分あるし、最悪でも④はあるハズだ。上をツモった自信はあるが…チラリと左角の台を盗み見た。

開店から2時間で3箱カチ盛り。ボーナス合算は俺とほぼ変わらず1/100前後を行ったり来たりしているが、とにかくBIGばかり当たっているのである！

そんなことはあり得ないとは分かっちゃいるが、まるで俺のBIGをすべて取られ、代わりにすべてのREGを押し付けられているような気分だ。

向こうの設定推測要素がどうかは分からないが、こちらのナゾREG出現率は⑥を大きく上回っている。この店のクセから考えても、高設定期待度は俺の台のほうが遥かに高いハズだ。

知りうる限り、ヒラ日のサンダーVリボルトに2台も⑤・⑥が投入されたためしはナイ。台数が多いハナビなら話は別だが、サンダーVリボルトで複数台投入など特定日でない限りあり得ない。要するに…

どちらか1台はフェイク！
たまたま出ているだけ!!

きっと〝ホンモノ〟は俺の台！そう信じながら黙々とレバーを叩いていると、徐々に上昇をはじめるベル出現率。「ほら、間違いない。やっぱり俺の台がホンモノだ」。ツモった感触が確信に近づくにつれ、同時にふつふつと湧き上がる感情があった。

じゃあ、あの台なんなんだよ!?
サービスしすぎだろが！

〝嫉妬〟である。

俺が高設定でREGに苦しんでいるのに、推定低設定のあの台はBIGを引きまくり、いとも簡単にドル箱を積んでいく。

ノーマルタイプは設定こそすべて！
高設定こそが正義なのだ！

高設定を粛々と回す俺が、推定低設定のあの台に負ける。そんな理不尽はあってはならない。

……いや。

そもそも俺が低設定で、あの台が高設定という線は本当にないのだろうか？当然そんな恐ろしい想像も腹の底に居座っていたのだが、あってはならないと目をそらしていた感は否めない。

ベル出現率はいよいよ設定4を上回り、まもなく設定5の確率に迫ろうとしている。その他の設定推測要素も、概ね高設定域を示している。あの対抗馬さえいなければ確信している段階だ。が……

ふと、この店にまつわる黒い噂を思い出した。

黒い噂。

K「この前、〇〇方面のスロプロたちと久々に会ったんですよ」
――「相変わらず顔が広いな、Kさんは」

K「で、最近どこで打ってんの？って訊かれて、〝あの店〟行ってるって言ったんですよ」
――「おいおい、言っちゃうかそれw」

K「いやいや、だってスロプロのみんな、あの辺ほぼ地元ですよ」
――「まあ、たしかに〇〇方面なら近いわな」

K「あの店に行かない理由、知りたいじゃないですか？」
――「たしかに」

K「で、あの店でなに打ってんの？って訊かれたんで『ハナビ』って答えたんス」
――「まあ、キミもAT機でツモれなかったらよくハナビ打つもんね」

K「でも、ハナビって言ったらみんなに笑われて」
――「え？なんで？あそこハナビも良いじゃん」

K「データ見て分かるだろ？って」
――「は？どゆこと？」

K「〝あの店、やってるよ〟って言うんですよ、みんなが」
――「おいおい、やってるってまさか…」

K「明らかに遠隔じゃねーかって」
――「フン、んなバカな！大昔じゃあるまいし」

Kがこのホールに来なくなったのは、それからほどなくしてのことだ。しかし、Kがその黒い噂を鵜呑みにしたわけではナイはずだ。単純に引っ越しをして遠くなったから……だと思う。

そう思うのだが……

〝あの店はやっている〟
その言葉には、たしかに思い当たるフシがあった。

つづく

200

ライター・漫画家を『面白かった』ボタンで応援しよう！
面白かったボタンを押すには無料会員登録およびログインが必要です。

会員登録・ログイン

★面白かった

共有する

URLコピー
Twitter
LINE
Facebook

ラッシー: 代表作：パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-

山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本＆DX」や「パチスロ極＆Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。