ペナルティーの恩恵～パチスロ蒼穹のファフナー③～

ラッシーパチスロワイルドサイド-脇役という生き方-

前回までのあらすじ
6戦の総収支を競うバトル企画の収録で、1人だけマイナス収支のまま最下位に沈んでいるラッシー。残る実戦は、この日を入れて2回のみ。まずはプラス収支への浮上を目標に定め、得意機種のパチスロ蒼穹のファフナー(以下、ファフナー)を選択。すると、2台目に移動した直後から好調が続き、大きな上乗せの連続で2,000～3,000枚が射程圏内に。しかし、その肝心な局面で押し順ミスを犯してしまう。

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5号機のパチスロ蒼穹のファフナーの筐体

▲5号機「パチスロ蒼穹のファフナー」(SANKYO)

押し順をミスは普段からほとんどない。普段以上に慎重にプレイする収録ともなれば、ミスを犯すことなど極めて稀。大量上乗せで、少し浮足立っていたのかもしれない。

液晶をゆっくり走る「復帰中」の文字。

もちろん少しは動揺したが、俺はスグに冷静さを取り戻した。たしかに押し順ミスは珍しいものの、ある理由により、この「復帰中」は見慣れた文字だった。俺より動揺を見せたのが、背後に立つカメラマン・Sくんだ。

Sくん「ちょ、大丈夫なんスか？」
――「ふは、やっちゃった！まあ大丈夫」

Sくん「いや、だって〝ファフナー〟すよ？」
――「ほ～ん……よく知ってんね」

みなまで聞き返さずとも、彼の「〝ファフナー〟すよ？」の真意が読み取れた。さすがパチスロ番組のカメラマンだ。ちゃんと業界の情報を把握しているらしい。

ウワサ。

それは、まだファフナーが導入されて間もない時期。2015年のはじめ頃の話だ。

「押し順ミスしたらARTが消えた」

何気なくSNSを巡回していたら、たまたまそんな投稿を見つけた。気になってネットで検索してみると、同様の体験をしたプレイヤーが一定数いることが分かった。「ペナルティーがキツすぎる！」といった不満を訴える書き込みも複数確認できた。

書き込みの内容はこうだ。

ART中に押し順をミスしたら、通常時に転落してそれっきり。ARTへの復帰を促すナビもなく、普通に通常時が進行したというのである。

攻略誌には、もちろん押し順を遵守するようにと記載している。しかし、ネットの書き込みがたしかであれば、他機種より念入りに注意を促す必要がある。ファフナーの担当ライターだった俺には、まず書き込みの信憑性を調べる必要があった。

とはいえ、俺は年収ウン千万のパチスロ演者ではない。押し順ナビに背くのだから、極力損失を抑える必要がある。加えて自宅から近いホールも避けるべきだ。

通常の遊技と異なる不審な行動を繰り返せば、たとえホール側に損失を与えずとも出禁を言い渡される恐れはある。そんなわけで、自宅から離れていて、かつファフナーを低貸しコーナーに置いているホールを回ることにした。

ちなみに編集部を通し深夜のホールを借りて検証することも可能だったとは思う。しかし協力店舗にアポをとり、店舗の都合の良い日程を待つ時間が惜しかった。トラブルやキズネタの検証は、数日とて待っていられない。

導入からさほど経っていないこともあり、ファフナーを低貸しコーナーに設置しているホールは少なかった。該当店舗は大手チェーン店ばかり。まだまだ20スロで現役の機種だ。それを低貸しに回す余裕があるのは、やはり大手チェーンに限られるのだろう。

悪いことをしているつもりはないが、なるべく目立たぬよう注意を払う。近くに店員がいないことを確認し、あくまで自然にミスした風を装って検証を行った。まあ、防犯カメラにはバッチリ映っているのだろうが…。

■検証1日目
4回試行で通常時への転落ナシ

■検証2日目
6回試行で通常時への転落ナシ

■検証3日目
5回試行で通常時への転落ナシ

ホールを変えながら3日に亘り検証してみたが、ネットの書き込みにあったような挙動は1度とて確認できなかった。正確に言うならば〝RT状態は〟通常時と同じところまで落ちていたかもしれない。

検証で分かったことは、ベルの押し順をミスしてRT状態が転落すると、液晶に「復帰中」の文字が出現すること。そして押し順ナビに従い移行(昇格)リプレイを入賞させていけば、再度ARTに復帰する。

ちなみにRT状態がARTのところまで上がりきるまでの「復帰中」は、ARTの残りゲーム数がロックされ減算を免れる。ART機の中には復帰中もARTゲーム数の減算が進む機種が存在するため、むしろファフナーは優しい部類と言っていい。

もちろんRT状態が落ちている状況ではリプレイ確率が低いため、ナビに従いARTに復帰したとしても、ART終了までの総獲得枚数は減ってしまう。

図解純増2.2枚×200Gの場合

図の通り、やはり押し順をミスすると損をすることにはなるのだが、ファフナーは復帰中にARTゲーム数の減算が止まってくれるだけ〝まだマシ〟というわけだ。

とはいえ、例の書き込みが同時期に散見されたことから察するに、おそらく「ARTが消える」という事象は実際にあったのだろう。同じ工場で量産した機械でも、個体差が生じる可能性はゼロではない。

たしかなことは、実戦上「復帰中」の文字が確認できれば大事には至らないということ。復帰中の枚数ロスこそあれ、致命傷にはならないというわけだ。

ペナルティーの恩恵。

――「まあ、しばらくすれば復帰すっから大丈夫！」
Sくん「それはよかった！気を付けてくださいよ」

――「ふはは、ごめんなさいね～」

しかし、 10G・20G・30G…と消化しても、移行(昇格)リプレイが一向に成立しない！こればかりは完全確率だ。早ければ数ゲームでARTの段階まで駆け上がることもあるし、長ければ数十ゲームかかることもある。

Sくん「だ、大丈夫なんスよね？」
――「大丈夫だって。ちょっとロス多くてもったいないけど」

正確には数えられていないが、無事にARTの段階まで上がりきり「復帰中」の文字が消えるまで50G以上を要したのは確実。かつての検証でも、復帰をここまで引っ張られた覚えは1度もない。

――「いや～、さすがに焦ったな」
Sくん「もう戻らないかと思いましたね」

1クレジット分は確実にノマれた。70～80枚ほどはロスしただろう。不注意とはいえ、普通であれば払わずに済んだ代償だ。これは相当にもったいない。読者・視聴者の手本となるべきライターとしてあるまじき醜態だ。

済んだことを後悔しても仕方がない。このミスは上乗せで取り返す！そう思いレバーを叩き続けると、それに応えるかのように10～50Gの上乗せが続く。

しかし、そこはやっぱりファフナー。他機種ならとっくに3,000枚は獲得していそうな展開だが、2,000枚にすら届きそうにない。ART中のテンションは高いのだが、こと出玉性能に限れば同時期の他機種には敵わない。

そしてARTの残りゲーム数はジワジワと減っていき、いよいよ終わりが見えてきた。これほど恵まれた展開で大騒ぎしても、2,000枚にすら届かないのか。

やはりAT機が全盛期を迎えようとしている今、ファフナーは時代遅れなのかもしれない。そんな風に思っていると、ART残り45Gで……

――「ああーーーーー!!」

左リールと止めた瞬間にケツが浮いた。中段にチェリーが停止したのである！しかし、喜ぶのはまだ早い。左リールのチェリーの1つ上は赤7だ。

ここから中・右リールに赤7を狙い、赤7が揃わなければ〝ただの〟中段チェリー。対して赤7が揃えば、本機の最強チェリーに相当する〝乙姫チェリー〟だ。恐る恐る赤7を狙うと……

――「っしゃあああ～!!!」

これが高めの乙姫チェリー!! カメラ前であることもすっかり忘れ、グッと拳を握った。乙姫チェリーの恩恵は150G以上の上乗せ。

――「いや～、もう終了見えてたんでコレはデカい！」

そして2G後に告知された上乗せゲーム数は…

＋30G

瞬間、鳥肌が立った。上乗せは150G以上確定のハズ。さっき押し順をミスしたペナルティーだろうか……？

いや、違う!!!

＋150G以上確定なのは、擬似ボーナス・ミッション(特化ゾーン)・フェストゥムRUSH(上位特化ゾーン)が〝非当選〟の場合だ。逆に言えば150G未満の上乗せならば……

擬似ボーナス・ミッション・フェストゥムRUSHのいずれか当選していることになる!!

――「なんだ…なにが出てくる!!?」

そして、5Gの前兆を経て出てきたのは……

――「いただきましたフェストゥムRUSHです！」

擬似ボーナス・ミッション・フェストゥムRUSHの中で、最も高めのフェストゥムRUSHが当選！終日打っても入るかどうかのフェストゥムRUSHを、まさか収録中に引けるとは!! その興奮の最中、ふと〝ある事実〟に気付く―――

あれ？さっきの押し順ミスから復帰まで50G以上かかったよな？で、乙姫チェリーを引いたのは、ART残り45Gのとき。つまり……

押し順をミスしてなかったら、この乙姫チェリーはART中に引けていなかった!!

珍妙な勝ち方。

通常時に乙姫チェリーが成立した際の恩恵は、上位ゲーム数決定ゾーン「スーパー乙姫チャンス」経由のART突入。これも平均上乗せゲーム数は120Gに上るため十分強力だが、やはり間違いが起こりやすいのは上位特化ゾーンのフェストゥムRUSHだ。

――「クゥ～、まさか押し順ミスに感謝する日が来るとは……」

例に漏れず、フェストゥムRUSHの上乗せシステムもかなり難解。詳細を説明するとかなり長くなるので、ここでは割愛させていただこう。さわりだけ説明すると…

フェストゥムRUSH概要
①毎ゲームで「ベースゲーム数」を上乗せ
　(最初は1Gからスタート)
②毎ゲームでベースゲーム数の格上げ抽選
　(複数段階のジャンプアップもアリ)
③30～100Gの上乗せ保証アリ
④保証消化後はシングルV揃いまで継続
⑤終了時は役物が稼働し、
　V入賞すれば上乗せゲーム数が2倍に!!
　(期待度約55%)

間違いが起こりやすいと言っても、大騒ぎするほどの性能はない。終了条件のシングルV揃い確率は1/5.5と高いため、保証を消化しきると割とスグに終わってしまう。

しかし、保証を消化しきるまでにベースを大きく上げておけば、数ゲーム継続しただけでもドデカい上乗せになる可能性がある。いかに早くベースを上げられるかの勝負だ。

興奮を抑えつつ打ち始めると、4G目でベースが10Gにまでジャンプアップ!! 以降は毎ゲーム10Gの上乗せだ！もちろんさらなるベースアップも期待できる。

――「うおぉぉぉ！コレはヤバいことにな…あ」

開始から、たった8Gで「Vを狙え」のカットインが発生。これがシングルV揃いの合図で、ひとたび発生すれば終了を免れる術はない。たった＋85Gで終了してしまったが、ここから役物でV入賞すれば2倍の＋170Gだ！

カメラに向けて解説しつつ、筐体上部の役物を見つめていると……

――「っしゃ！いただきました170G!!」

直乗せと合わせれば、乙姫チェリー1発で200Gの上乗せに成功!! これにてARTの残りゲーム数は230G以上にまで回復。その後も擬似ボーナスや上乗せを重ね……

――「まあ、朝からこれだけ出てくれれば十分でしょう」

ARTは1250G継続し、一気に3,082枚を獲得！押し順ミスがなければ、ここまで伸びていたかは分からない。

このあともVバトルで勝利したり、スーパー乙姫チャンスに突入して出玉を積み上げたが、やはり高設定ではなさそうなので大きくノマれる前に撤退。ファフナーで流した枚数は約3,300枚だった。

その後、ニューキングハナハナ-30でも出玉を増やし、この日の収支は＋74,000円でフィニッシュ。俺のバトル企画の総収支は＋58,000円となり、無事に最下位を脱出することに成功！同時に順位を4位まで上げることとなった。

まあ、下位であることに変わりはないのだが。

この一戦は、運に依存したブサイクな勝ち方だったと思う。たとえばスロプロや勝ちキャラのライターであれば、恥ずかしくて思い出したくない一戦かもしれない。けれども、俺にとっては「押し順ミスがドラマを生んだ」唯一の記憶。

二十数年におよぶ長いパチスロ人生において、たった一度きりの珍妙な体験として強く印象に残っている。パチスロにはこんな勝ち方もあるのかと、その奥深さに改めて気付かされた一戦だった。

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ラッシー: 代表作：パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-

山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本＆DX」や「パチスロ極＆Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。