ライターはチート!?～主役は銭形2①～

ラッシーパチスロワイルドサイド-脇役という生き方-

編集N「今月どうしますかね～？」
――「んー、もうやり尽くしてるからな～」

編集N「ですよね～」

重い静寂が訪れた。週末の編集部は人が少なくガランとしている。俺が編集部員だった頃は週末でも賑わっていたが、近年は労働環境の見直しが進み、だいぶ一般的な会社に近づいてきた気がしている。もちろん喜ばしいことなのだが、少しだけ寂しさを覚えないでもない。

チラリと腕時計を確認すると、まもなく16時を迎えようとしていた。打ち合わせが終わったら軽くホールに寄って帰りたい。そう思っているのは、担当編集のNくんも一緒だろう。なるべく早く切り上げたいが、肝心の記事内容が浮かばない。

Nくんはソファーの背もたれに体重を預けながら、落ち着きなくペンをクルクルと回している。

――「もう解析は出尽くしたし」
編集N「ですね」

――「AT中の演出法則も先月やったじゃん？」
編集N「あとは実戦モノしかないスかね？」

――「実戦モノな……」

主に各機種のゲーム性や解析数値などをお届けする機種ページ。もちろん最も肝心なのは解析記事だが、攻略誌としての真価を問われるのは、むしろ解析が出揃ったあと。

解析の内容は、概ねどこの雑誌・サイトも変わらない。それら解析を受け、どういった立ち回りや楽しみ方を読者に提供できるか。そこに編集とライターのセンスが問われるわけだ。

編集N「普段はどんな狙い方してます？エナとか？」
――「落ちてりゃやるけど、基本は高設定狙いかな」

編集N「高設定狙い？いやいやムリでしょ～」

クルクルと回していたペンを放り捨て、口元を隠すように笑いだしたNくん。俺はなぜ笑われたのか分からず、少しだけ苛立った。

――「なにがムリなんだよ？」
編集N「いや～、今どき銭形2に高設定使う店なんてナイですよ」

――「はあ～？？？」

2つの現実。

主役は銭形2の筐体

▲5号機「主役は銭形2」(オリンピア)

2014年の2月に登場したAT機。通称は「銭形2」。言わずもがな4号機の名機「主役は銭形」の正統後継機にあたるが、ゲーム性は大きく異なり、擬似ボーナス「銭形BIG」で出玉を増やすタイプだ。

AT「銭形BIG」は差枚数管理で、初期差枚数は150～711枚。レア役による差枚数直乗せのほか、強力な上乗せ特化ゾーンも複数備えている。また、主役は銭形の代名詞とも言える3G連も健在。実質的な3G連期待度は20%強だ。

Nくんは顔を歪めながら続ける。

編集N「僕、誌面で使うホールデータを集めてますけど、マジで高設定なんて使われてないですから！」

――「そんなことねーよ！俺は結構ツモってるよ？」
編集N「だから、それはツモった気になってるだけで」

――「は？俺の推測が間違ってるって？」
編集N「あ、いや、そういうわけじゃ……」

多数のホールにアンケートを実施し、それをまとめて記事にするのも編集部員の仕事の一つ。それゆえNくんは「設定状況を把握している」と自信があるのだろう。

実際、アンケートの集計では、ほとんど高設定など使われていないのかもしれない。しかし、俺にも銭形2で〝上〟をツモって勝っている自信がある。

――「俺だって平常営業で入るなんて思ってない」
編集N「〝特日〟狙ってるってことスか？」

――「そらそうよ！しっかり店を選べばツモれるから」
編集N「まあ、でもラッシーさんライターだからな～」

――「え？ライターだから？？？」

意外な言葉を投げつけられ、俺は顔を歪めた。

ライターのイメージ。

編集N「ライターさんはほら、収録とかで良い店いっぱい行くでしょ～？」
――「まあ、色んな店には行くね」

編集N「それもうチートですから。僕ら一般人は優良ホールなんて探せない」
――「はあ？関係あるか!!」

思わず目の前のローテーブルにドンと拳を打ちつけた。ちなみにNくんは一応後輩にあたるが、同い年で付き合いも十年以上と長い。実際の力関係で言えばNくんのほうが遥かに上なので、か弱い後輩を威圧しているわけではない。

――「違う違う！収録で行ったホールなんて、プライベートでほとんど行かない」
編集N「ホントすか～？」

――「マジだって！そりゃライター仲間と『あの店が良い』とか情報交換はするけど」
編集N「ほらほら、それもチートなんですよ」

――「違わい！基本は足で見つけたホールだから!!」
編集N「ホントすか？じゃあ僕でも高設定をツモれると？」

――「当たり前だっつーの!!」

『攻略誌の編集のクセに、ずいぶん立ち回りに自信が無いんだな』と思われそうだが、こういった弱気な編集部員は近年どんどん増えている。エンジョイ勢が市民権を獲得し、あまり勝つことを経験せず編集部員になるケースも増えたのだろう。

また、5号機の暗黒期を編集部員として過ごし、色んなホールの厳しい設定状況を目の当たりにしたせいもあるはずだ。編集部員なら勝ち方など当たり前に知っているが、仕事が忙しくなると「打ちたい」という欲求に屈し、立ち回りなど二の次になってしまう。

どうせ高設定など入らないのだから、わざわざ遠征してまで打ちに行くなんて無意味。そんな思考に陥ってしまうのである。

編集N「ホントかな～？」

半笑いのNくんを見て、自分の中に炎が宿ったのをしっかりと自覚した。

『コイツに高設定の興奮を味わわせたい!!』

勝たせるというミッション。

――「じゃあ、こうしよう？俺がホールから立ち回りまで全部決める」
編集N「で、僕がその通りに打てばいいわけですね」

――「そうそう。銭形2にも高設定が入って、実際にツモれることを証明してやる」
編集N「ホントですか？そんな大口叩いて、恥かかないスか？」

――「誰に言ってんだよ！たしかに俺はスロプロじゃないけど、こと担当機種に関してはスペシャリストだ」
編集N「まあ、そうですけど」

――「銭形2に設定を使う店ならいくつか心当たりがあるし、設定推測の押し引きにも自信がある」
編集N「それでもしダメだったら、僕もうパチスロ嫌いになるかもしれませんよ？」

――「おう、パチスロ大好きって言わせてやる！」
編集N「ふはは、じゃあスケジュール決めちゃいましょう」

彼も俺と同世代だ。狂乱の4号機時代を経験したハズだし、高設定をツモる喜びも幾度となく味わってきたハズである。それを思い出させてやるのだ！火が消えかけの炭みたいな彼を、もう一度メラメラと燃やしてやりたい。

まずは2人の空いている日をピックアップ。次いでその日が〝特日〟のホールの中で、実際に銭形2でツモった経験がある店に的を絞る。そうして候補に挙がったのは、都内の某名店だった。

ミッション開始！

編集N「エラい人数ですね～」
――「まあ、いつもこんなもんよ」

ホール横の駐輪場には、300人ほどの列ができていた。

編集N「そもそも銭形2に座れます？」
――「大丈夫だよ。導入から1年経ってるし、ここはパチンコに流れる客も多いんだ」

編集N「それで設定入るんスか？ホントに」
――「大丈夫なハズ」

昔から特定日に遠征に来ている店だ。看板機種なら厚めに入るが、それ以外のメジャー機種にも5・6が入ると睨んでいる。銭形2は6台ジマが2シマの計12台。これまでの傾向から、銭形2なら最低でも各シマに1台は5・6が入ると予想している。

――「パチスロフロア入ったら、スグに銭形2のシマだから」
編集N「分かりました」

――「で、フロア入り口から見て右手がAジマ、左手がBジマとするね？」
編集N「はい」

Aジマ
奥　●●●●〇〇　手前

Bジマ
奥　〇〇●●●●　手前

――「Aジマなら手前2台、Bジマなら奥2台狙って」
編集N「そんなクセがあるんスね？」

――「そうそう。取れなかったら、それ以外の台で様子見で」
編集N「了解です」

そして入場抽選の結果はNくんが81番、俺が113番。厳しい番号のようにも見えるが、パチスロ狙いの客のほとんどは、SLOT魔法少女まどか☆マギカ・サラ番・蒼天2といったメイン機種に流れていく。銭形2が埋まることは、まずナイと思っていい。

午前10時、開店――

まずはNくんが一足先に店内へ。すると、ほどなく「Bジマ奥角2取れました」とのLINEが届く。次いで俺も入場し、狙い通りAジマ手前の角2を確保。これで2人とも直ヅモできれば簡単なのだが、さすがにそこまでウマい展開はないだろう。

周りの台の挙動を探るにも理想的な布陣だ。これなら2人で2シマ全体を把握できる。「周囲の挙動もよく見ておいて」とLINEを送り、いよいよ実戦がスタート。Nくんも銭形2の担当編集だ。設定推測については改めて念押しする必要もないだろう。

そして1時間半ほど打ち続けると…

――「……チッ、マズいな」

開店時には空き台があった銭形2のシマも、今は満席でフル稼働。俺の台はそれなりに好調。銭形BIG初当りは1回のみだが、最も重視すべきCZ出現率は設定5の近似値を維持している。そこは問題ないのだが……。

肝心のNくんは初当りナシ。そしてCZ突入時の効果音も、まったくと言っていいほど聞こえてこない。対してNくんの隣に位置するBジマ奥角台は絶好調！まだ開店から間もないため断定はできないが、〝ある〟とすればその奥角台がクサい。

いや、俺が挙げていた以外にも好調な台はある。銭形2のシマには、本命機種が取れず仕方なしに打っているプレイヤーも多い。これなら好調台が空き台になる可能性は十分ある。

その隙を狙う！

しかし、このあと俺は自身の甘さを思い知ることになる―――。

つづく

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ラッシー: 代表作：パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-

山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本＆DX」や「パチスロ極＆Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。