まさかの「減るRT」がもたらした世紀末……。期待という宿命から逃れられぬ『北斗の拳2 乱世覇王伝天覇の章』のしくじり物語。

元・店長カタギリ元店長カタギリのしくじり機種～歴代パチンコパチスロ事件簿～

スマスロ北斗も増台され、導入当初よりもやや稼働状況は落ち着いてきたものの、優良店では今でも朝イチから満台の光景も珍しくありません。現時点では間違い無くスマスロの代表格、ホールの看板機種の座を築き上げたといっても過言ではないでしょう。

そんな現在のパチスロシーンから遡ること16年前。多くのホール関係者が5号機のメイン機種となるであろうと大きな期待を込めて導入したのが、やはり北斗の拳のパチスロでした。その名も『北斗の拳2　乱世覇王伝　天覇の章』。

5号機初となる北斗の拳であり、初代、SEに続く北斗シリーズの第3作目。前回ご紹介したSEこそ初代からのスペックダウンにより大ヒットには恵まれなかったものの、本作は4号機が間も無く完全撤去となる直前に登場した5号機。それも満を持してのビッグタイトル、北斗の拳。新時代の幕開けを誰もが期待したのです。

しかしながら多くのしくじり機種がそうであるように、過剰な期待こそが大いなる失望へと繋がることは皆様ご承知の通り。本機を擬人化、かつ女子化させるとすれば乱世ちゃんもまた「そこまでアタシに期待されても困るんですけど……」と呟いたに違いありません。そう、盛大にやらかしてしまうのです。では、そのしくじり具合について語りましょう。

★今回のしくじり機種は『北斗の拳2 乱世覇王伝天覇の章（サミー）』

▲北斗の拳2 乱世覇王伝天覇の章

ホールデビューは2007年7月。繰り返しますが間もなく4号機が全国のホールから完全撤去される直前に導入された5号機初となるパチスロ北斗シリーズです。販売台数は実に11万台以上。同年のホール軒数が約13,600軒ほどだったため、パチンコ店1軒あたり平均8台が導入されていた計算になります。この数字を見ると改めて当時のホール関係者の、そして何よりユーザーの期待の高さを感じさせられますね。

しくじりポイント1：最も楽しいハズの時間が圧倒的苦行！

リプレイタイム（以下、RT）をパンクさせないためにユーザーが行う通称『リプパン外し』は、5号機初期の機種を語る上では避けて通れないキーワードです。

ボーナス終了後に突入するRTでメダルの枚数を現状維持させつつ、次のボーナス当選に期待するという、例えるならパチンコの時短のようなシステムです。そのRT中に成立する『RT終了条件となる小役』を意図的に外してRTを延命させるのが『リプパンハズシ』です。……私が塾講師なら子供たちは既に話を聞かずにニ◯テンドースイッチをいじくり始めていると思いますので、このあたりにしておきましょうか。

本機もまたRTが出玉増加のカギとなります。世紀末覇者・拳王が南斗五車星の面々をブッ倒してボーナスをゲット。その後に突入するRT中にケンシロウと戦いながら、再びボーナスを引いてメダルを増やすゲーム性なのですが、恐ろしいことに最低でもメダルを維持して欲しい、否、メダルを維持してくれなければ困るRTで、あろうことかメダルが減少していってしまうのですよ、奥様。

この残酷仕様によりボーナスが引けずにRTだけが延々と続いてしまい、RTの連チャン中に追加投資を迫られることも。RTが連チャンして軽快に音楽が流れる中でメダルを買い足す屈辱を味わいながら「こんなの北斗じゃねえ！」とか「二度と打つか！」と心の中で叫んだ人も多かったことでしょう。ええ、私もその一人です……。

しくじりポイント2：初心者にも年配客にも優しくない目押し必須のゲーム性

前述のリプパン外しには、RTのパンク回避のために特定の図柄を目押しする必要があります。本機の場合は音声と共に左リールの窓枠が赤、もしくは黒に変色したタイミングで指示された色のチェリーを目押しすることでパンクを回避できます。

ですが4号機の北斗で隣のお兄ちゃんが中押ししているのを理由もわからずに、真似してスイカやリプレイを取りこぼしていたような年配客や、目押しのおぼつかない初心者にはとてもついていけないゲーム性ですよ、こんなの。しかも1回の目押しミスでRTが消失して通常時に逆戻りなのですから、ミスした時のショックも特大級。一度でもやらかしたら「もう打ちたくないかな……」ってなりますよ、そりゃ。初心者や年配客に優しくない。中級者以上のユーザーでもチェリーを幾度となく目押しをせざるを得ないる上にメダルが減っていくゲーム性ですからね。

例えるならヒヨコのオスとメスを選別する作業をしているのに、何故か時間が過ぎる毎に時給がドンドン減っていき、一回でもオスを入れる箱にメスを入れたら罰金を払わされた上に懲罰房にブチ込まれるバイトをしているようなモンですよ、こんなの。そりゃお客さんも飛びますよね、懲罰房から出て来たら再び時給がスライドダウンしていくヒヨコ分け作業ですもの。ここでも「こんなの北斗じゃない」と思わせてしまうゲーム性だけが浮き彫りとなってしまったのです。

★元店長カタギリと『北斗の拳乱世ちゃん』

本機がホールに導入される直前、私は残酷なノージョブライフを克服して、パチンコ店のチラシを作る会社に契約社員として雇われておりました。パチンコ店の広告宣伝物を作成する会社ですから当然、机の上には資料となる雑誌やメーカーのパンフレット等が山積み。その中でも一際、目を引いていたのが5号機北斗でした。

今度の主役はラオウなのか。早く打ってみたいなあ。パチンコを打つのは楽しいが、パチンコ店で働くのはあまり楽しくないな、と考えながら仕事をしていたホール勤務時代でしたが、パチンコ店のチラシを作る仕事はホール勤務以上に楽しくない。そう考えながら日々を消化していた私は、せめて休日は楽しいパチスロを打ち狂いたいとウズウズしておりました。

そしていざ、乱世ちゃん導入週の週末。私は地元のホールに黒王号（ママチャリ）と共に見参、開店と同時にホール入り口の自動ドアを剛掌派でブッ壊すような気持ちで入店して周囲のザコ客を蹴散らしながら無事、シマの中ほどに位置する乱世ちゃんに着席。待ちに待った対決と相成った訳であります。

が、私の左隣に座ったのは懐に種モミでも忍ばせているんじゃないかと不安にさせられる高齢の男性、いわゆるスロ爺さんです。

もうこの時点で嫌な予感しかしません。ロト6とかは当たる気配すらないのに、嫌な予感だけは的中するのが私の人生。案の定、左に座っておられる震え系男子はピンク色の服を着た小娘が「狙って！」と赤チェリー目押し必須の発言を行っているにも関わらず、迷うことなく黒い方のチェリーを枠内にビタリ。違う、違う、そうじゃ、そうじゃないとラッツでスターなリーダー気分でスロ爺に語り掛けようかと思いましたが、説明したところで「じゃあアンタが代わりに押してくれ」と命令されるのが目に見えています。心を鬼にして無視です。

しばらくして再度、お爺さんの台はRTに突入。今度は小銭泥棒のような少年が「狙え！」と叫んでいるので左リールには黒チェリーを目押しすべきなのですが隣の爺さん、ショートフリーズ中。ここではさすがに無視できなかった紳士たる私は「えっと、ここでは黒いチェリーを……」とお爺さんに話しかけようとしました。が、その瞬間、私の視界に飛び込んできたのは赤チェリーが停止した左リール。そして視点カメラをさらに左へとパンすると、スロ爺は悲痛な表情を浮かべて私を見つめていたのです。

そして「お前、いま何か言おうとしただろ？」みたいな表情へと変化しましたが、説明したところで「じゃあ次からはアンタが目押ししてくれ」となるに決まっています。私も軽く会釈をしてその場をやり過ごすと、お爺さんはしばらく淡々とゲームを消化した後、メダルが無くなると同時に山へ芝刈りに行くようなムーブで席を立ち、二度と戻ってきませんでした。

その一方で私の台は立ち上がりから好調で昼頃にはドル箱満タンのメダルを頭上に掲げて意気揚々と遊技しておりました。スロ爺の事などすっかり忘れ、ボーナス開始時にラオウが黒いオーラをまとった後のRTが高継続率を射止めたようで10連、15連、20連とRTを継続させていったのです。

……ええ、もはやおわかりでしょう。私の台は好調に継続するRTとは裏腹に少しずつ、しかしながら確実にメダルを減らしていき「時は～、まさに世紀末～」と現状を如実に表現した歌詞の曲が流れる中で、実に嫌な気持ちでゲームを消化しておりました。

結局、このRTの連チャン数は70回近く継続したと記憶しているのですが、何より楽しい時間であるはずの連チャン中に追加投資を余儀なくされた辛い記憶の方が強く、スロ爺の何とも言えぬ切ない表情と相まって今も時々、思い出して悲しい気分にさせられてしまうのです。あれだけ楽しみにしていた5号機北斗、なんだかなあ……。

もうすぐ4号機も無くなったらパチスロはいよいよ終わっちゃうのかもしれないな……。店を後にしながら私は当時、パチンコ店のチラシ作りと同じぐらいの苦行だった本機のRTにすっかり意気消沈させられていました。事実、この後の2年ぐらいはパチンコメインで打っていましたからね。

★まとめ～北斗乱世ちゃん、その運命もまた宿命～

乱世ちゃんは設定1から4までの出玉率が全て100％以下の激辛スペック。5号機初期の台ゆえに仕方の無いとはいえ、大多数のユーザーにその実情を理解しろというのは無理な話です。

翌年にリリースされた『北斗の拳2　Next zone闘』ではリプレイタイムで出玉が微増する仕様へと変更され、同時リリースの『北斗の拳2　Next　zone将』はボーナス主体のゲーム性へと変貌を遂げ、特に『将』に関しては一定のファン層には響く結果となりました。ですが、5号機北斗といえばやはり2011年にリリースされた『世紀末救世主伝説』を思い浮かべる方が多数派。そう、乱世ちゃんは悪い方の記憶として思い出される機種なのです。

しかしながら乱世ちゃんもまた前回ご紹介した『北斗SE』同様、4号機の初代北斗があまりにも偉大過ぎるタイトルであったからこそ期待に応えられなかった感は否めません。もしも本機が北斗の名を冠していなければ……　いや、メダルの減るRTにしちゃった時点で私もフォローしきれません！　

やっぱりパチスロ北斗は覇王（ラオウ）ではなく救世主（ケンシロウ）じゃないとダメなのかもしれませんね。

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元・店長カタギリ: 代表作：しくじり店長

シルバ〇アファミリーみたいに小さなパチンコ店の責任者から一転、雑巾がけがメインの業務となってしまった事務員へとグレードダウン。そんな設定①のスランプグラフのような半生を、隔週水曜日に連載させて頂いております。タイトルは「しくじり店長」。パチ屋の店長が平社員へと降格していく逆サクセスストーリーを、海物語シリーズの泡リーチを見つめるような気分でお読みください。