日本一〝アレ〟なホール～ホール潜入調査①～

ラッシーパチスロワイルドサイド-脇役という生き方-

※はじめにお読みください
当エピソードは2015年頃のお話です。実話ではございますが、半ばフィクションとして捉えていただけますと幸いです。現存するホール・法人とは一切関係ございませんので、具体的な店舗名を挙げるなどの行為はお控えいただくようお願いいたします。

――「ったく、なにが地域唯一だよ」

ホールの隅にある無人のベンチに、ドスンと乱暴に腰かけた。チラリと腕時計に目をやると、まだ正午を過ぎたところだ。隠さず大きな舌打ちをしたが、絶えず流れる安いユーロビートに飲み込まれた。顔を歪め、シマの端の壁にあるポスターをギロリと睨んだ。

〝地域唯一の30Φ導入!!〟

ウチの近所には30Φの機種がなかった。ひと駅隣の街まで出ればいくらでもあるのだが、徒歩で気軽に行けるウチの街には設置がなかった。

しかし、某店がいよいよシマでの導入を開始。常々ハナハナを打ってのんびり暮らしたいと思っていた俺は、その新装を今か今かと待ち望んでいた。地域唯一なら、まずは固定客を根付かせようとチカラを入れるハズ。そう読んでいたのだが……

――「設備投資で限界かよ」

案の定、朝イチは満席だった。それが開店から3時間ほどで、ほとんど空き台になっている。

――「……ふん、プレイヤーなめんなっての」

時はすでに2015年だ。4号機時代とはワケが違う。もはや新装という理由だけで低設定のノーマルタイプを粘ってくれる客などいない。街で唯一の30Φなら、設定を使わずとも客がつくだろう。そんな浅はかな考えが透けて見えた。

「今日は終日稼働する」

家族にはそう告げて家を出た。まだまだ帰る気分ではない。とはいえ、こんなナメくさった店に金を落としてやる義理もない。ここにいても時間のムダだ。そう思い、両手をポケットに突っ込んで店を出た。

昼時だが、飯を食う気分でもない。こんなことなら他店の旧特定日を攻めたほうがマシだった。しかし、今さら旧特定日へ向かったところで、勝てるような台は空いていないだろう。ならば、いかに今日1日を楽しく過ごすかだ。

できればあまり負けず、夜まで趣味打ちを楽しめる店はないか……。

すると、ふと近所に住む先輩ライターとの会話を思い出した。

先輩「お前、〇〇〇って店知ってる？」

キナ臭い噂。

昼時の電車は空いていた。俺は車窓の外を流れる見慣れた風景を眺めながら、先輩との会話を思い出していた。

先輩「〇〇駅の裏にさ、小っさいホールあるだろ？」
――「ああ、角にありますね。昔、ラブジャグ打ちに行きました」

先輩「いやいや、角じゃねーよ。その隣の通り」
――「隣はラブホ街スよ？ホールなんてありましたっけ？」

先輩「それがあんだよ。小さいマンションの1階に」
――「んなバカなw そんなホール見たことねえwww」

先輩「そこがスゲーんだよ！」
――「なにがスか？」

先輩「ラインナップが全部古いの。新台とかなくて、名機だけ置いてるみたいな」
――「それ認定とかちゃんと取ってんスかね？」

先輩「さあな。たぶん大丈夫だと思うけど」
――「いわゆるALLバラエティーみたいな店ですね」

先輩「そうそう！」

近隣店との競争を避け、レア台ラインナップだけで細々と経営を続けているホールはたしかに存在する。そういった店は昔から嫌いじゃない。収録帰りなどに立ち寄り、お布施をすることもよくある。立ち回ることはできないが、遊ぶにはもってこいだ。

先輩「で、スゲーのがここからなんだ」
――「え？なんです？」

先輩「バリッバリに札(ふだ)が刺さってんだよ」
――「え？札ってあの…設定示唆的な？」

先輩「そうそう！ 4号機イベントみたいな」
――「いやまさか！アウトでしょ、それ」

皆さんもご存知の通り広告宣伝規制により、かつてのようなイベントは完全に無くなった。だから各店舗の特定日も、旧特定日と呼んでいる。仮に内容が昔と変わらなくても、昔のように派手に宣伝することはできなくなった。イベント札など〝もってのほか〟だ。

先輩「たぶん組合に入ってないホールなんだろう」
――「なるほど。破天荒っスね」

野良のホール。

そのホールがある街は、巨大なターミナル駅を有する大都市だ。当然ホール軒数は多く、その環境下で遊技業組合に属さないなど想像すらできない。組合に加盟すれば近隣店とも持ちつ持たれつの関係を築けるハズだが、それを放棄するということは……。

――「キナ臭いけど、少しソソりますね」
先輩「だろ？」

――「確認スけど、それ〝表〟のホールっスよね？」
先輩「バカお前！俺だってライターだぞ？闇スロなんて行かねーよ!!」

――「で、ですよね！失礼しました!!」

言うまでもなく闇スロは誰が遊技しても違法となる。もしも我々のようなライターが闇スロに行き、それが明るみになれば、PS業界を出禁になってもおかしくないほどのスキャンダルだ。立場上はフリーランスだが、おそらく所属媒体も監督責任を問われるだろう。

我々メディアの人間にとって闇スロとは、それほど近づいてはいけない禁忌の場所なのだ。

先輩「その店、ちゃんとホール検索サイトにも載ってんだぞ」
――「へ～、ならさすがに大丈夫そうスね」

先輩「この時代だし、台もひっくり返ってる(※)なんてことはないと思うし」
――「でしょうね」

※ひっくり返るとは？
裏モノになること。

この当時、ネット上では未だ裏モノの情報が出回っていたが、5号機以降にそれらしい台を直接確認できた例はナイ。実際、裏モノと噂される超マイナーメーカーの沖スロを打ちに行ってみたが、なんてことはないごく普通のボーナス＋RT機だった。

裏モノは絶滅したと思っていいだろう。この数年後に登場する某機種が裏かどうか、それはまた別の話……。

先輩「ヒマなときにでも様子見てきてよ」
――「え？行ってないんスか？」

先輩「入ってみたけど、怖くなってスグに出てきちゃった」
――「童貞の初ソープか！」

先輩「まあ、どうせガセ札ばかりだと思うけど」
――「でしょうね、確実に」

イベント札なんてそんなものだ。いかに客を騙し、より多くのカネを使わせるか。悪く言えばそんなアイテムだ。しかし、それでも打つ動機にはなるし、かつての俺はガセ札に埋もれた「ホンモノ」を探し当てるのが好きだった。

とはいえ2015年のこの時代に、本当に札イベントを実施するアウトローなホールなどあるだろうか？そういった怪しい噂を検証するのも、フリーライターの仕事のような気がする。

ジャーナリズムなどという立派な言葉は忘れて久しいが、それでも「フリーライターとは体を張って危ないネタを調べる者」という固定観念は腹の底に居座っている。

――「まあ言うてホールだろ。無認可じゃあるまいし」

昔通っていた通称〝ヤ〇ザの店〟だって、組合に属していたかどうかは怪しい。思い返せばファン感のクジを引いた記憶もない。しかし「組合でなければホールにあらず」というわけでもないだろう。なにか組合に属したくない事情があるのかもしれない。

言うなれば野良のホール。

時代は平成だ。そして非合法なわけでもない。怖いことなどあろうハズがない。少し覗いて、なにか身の危険を感じたらスグに出ればいいだけの話だ。

電車はスピードを緩めながら左へ大きくカーブした。車窓からは、さながら城のように聳える駅舎が見えていた。

日本で1番小さい店。

――「うっわ～、これほんとホールか？」

ホール検索サイトで調べた住所に着くと、たしかに「それらしいもの」があった。先輩が言っていた通り、小さなマンションの1階だった。それが巨大なタワーマンションなら話も分かるのだが、ごく普通の「メゾン〇〇」みたいな低層マンションである。

ギリギリそれと分かる控えめな看板に、のぼりは「絶賛営業中!!」の1本のみ。前を通ったとしても見落としてしまいそうな外観だ。辺りを警戒しつつ自動ドアの前に立つと……

――「ちっさ!!」

ドアが開いた瞬間、ホール内の全貌が見えた。向こうの壁、つまり最奥の壁が目視で確認できる。小規模店など数え切れないほど見てきたが、ここまで小さな店舗は記憶にない。内装は……なるほどホールらしい装飾だが、たしかにマンションの一室みたいなサイズ感である。

延べ床面積はウチとさほど変わらないか……。いや、バックヤードがあればウチよりは広いだろう。設置台数は50台もなさそうだ。入り口を入るとスグにカウンターがあり、「いらっしゃいませ」と店員の元気な声が飛んできた。

店員の男の風貌は小綺麗で、ニッコリと微笑んでいる。しかし、一瞬で察した。

〝ハシャいだら危ない系の店〟

昔懐かし大人の社交場の雰囲気だ。店員は一見ヒョロリとしているが、危険な臭いに敏感な俺にはハッキリ分かる。彼、ケンカめっちゃ強い!!

二コリと軽く笑顔を返し、店の奥に進もうとすると……

――「な、な、なんじゃこりゃ!!」

俺は目を見開き、その場に立ち尽くした。

クレイジーの向こう側。

カウンターからほど近い位置にある「パチスロ化物語」。午後2時にもかかわらず、その台が5箱も積んでいるではないか!! しかし、間違いは起こる機種だ。朝イチから倍々チャンスで事故れば、たとえ設定1でもこのくらいの出玉はあり得る。

そう、俺の目を丸くさせたのは出玉ではナイ。その台の上に刺さっている「札」だ。

『設定6挑戦中』

――「な、なんじゃそら…バカな…」

状況を理解できず狼狽していると、例の店員が声を掛けてきた。

店員「お客さ～ん、はじめてですよね？」
――「は……はい」

即座に一見さんだとバレた。こんなスタイルの店だ。客のほとんどは常連で、一見さんは珍しいのだろう。そして常連客の顔も漏れなく覚えている。それを悟った瞬間、さらに恐怖が倍増した。

店員「その台、今日は設定6に挑戦中なんですよ」
――「せ、設定6？そんなウs…」

「ウソだろ？」という言葉をギリギリで飲み込んだ……つもりだった。

店員「ウソじゃありませんよ」
――「は、はぁ……」

俺はどうリアクションすべきか分からず、「エヘヘ、エヘヘ」と力なく笑うしかなかった。この札が朝イチから刺さっているのだろうか？詳しく訊きたいところだが……

どうせウソに決まっている。

冷静に考えてみてほしい。設置台数が50台あるかないかの超小規模店だ。稼働状況も良いとは言えない。むしろ低稼働と言っていい。もしも設定6を投入し万枚など出されたら、その日の利益に甚大な影響を与えてしまう。いや、その月の利益にも影響しかねない。

小規模ゆえ使えるわけがない！
普通に考えて使えるわけがないんだ！

そんな反論などできるはずがない俺は、逃げるように店の奥へと歩を進めた。

あの頃のパチ屋。

ラインナップは本当に古く、ほとんどが2年以上前の機種だ。唯一「今の機種」と呼べるのは、例の化物語くらいか。言うまでもなく全台がバラエティーといった雰囲気で、どの機種も1台ずつ置かれている。

そしてそれら台の上には、漏れなく札が刺さっている。札の内容は「偶」・「奇」・「変」・「上」・「据」など様々だ。本当に2015年なのだろうか。俺はタイムスリップでもしているのか？幻覚を見ているような気分でゆっくりと歩きながら、今度はデータ表示器を見ていく。

ほとんどの機種は朝イチ0Gのまま。やはり普通に考えて高設定を使える状況ではない。つまり札も意味は成してないと思っていい。「変」くらいは実際に変更しておいてほしいものだが……。

妙な気分のままフラフラと歩いていると、店の奥で遂に見つけた。ホール検索サイトを見ていたときから打ちたかった機種だ。他店ではほとんど設置がなくなったが、今なお俺にとっては5号機屈指の名機―――

5号機新鬼武者の筐体

▲5号機「新鬼武者」(ロデオ)

どの機種も基本は1台ずつなのに、「新鬼武者」と「蒼天の拳」だけは小規模ながらシマを形成している。オーナーか店長かは分からないが、ちゃんと〝そういった感覚〟は持ち合わせているらしい。スロ打ちのツボをしっかり押さえているじゃねーか！

先輩から聞いていた話よりさらにヤバい。今すぐにでも逃げ出したい気持ちはある。しかし、おそらくこの店で打つのはこれが最後だ。実際に打って感触を確かめ、「やっぱり札はガセ」と断定できればそれでオサラバ。

それにこの雰囲気は嫌いじゃない。俺は客であるはずなのに、まるで店側から喉元を押さえつけられているような息苦しさ。昔のホールにあった、あのアブナイ雰囲気だ。いや、ホールなんて上等な呼び方は似合わない。

これぞ「パチ屋」だ！

少しだけ、ほんの少しだけでいい。札がガセだと、意味がナイものだと確認できればヤメて帰る。ただそれだけでいいんだ。

俺はゆっくりと新鬼武者のシマに近づき、全台の上にズラリと並ぶ札を睨んだ。

つづく

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ラッシー: 代表作：パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-

山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本＆DX」や「パチスロ極＆Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。