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俺とラインバレル
俺とラインバレル
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たれめさん
ストップボタン押すために仕事してる - 投稿日:2017/01/13 20:47
俺をパチンコパチスロに引きずり込んだi藤さんという悪友がいる。奴さえいなければ、今頃俺は会社を二つ三つ経営し、休日の昼は六本木の高層マンションでホームパーティー、夜は数人の美女と爛れた関係を持つ毎日を過ごしていたはずなのだが、その責任を彼に問うのは酷というもの。心の奥底の小さな箱に四つ折りにして入れて、決して見られることのないよう何重にも布を巻いて地中深く埋めておくこととする。
今回の台はそんなi藤さんも、勿論俺も大好きなあの台。大好きだった。少ない金を握りしめては何度も果敢に特攻した。設定なんて入っている訳ないと分かりきっていても、折れそうな心を必死で支えながらレバーを叩いた。だけども終ぞ、思うような大勝を収めることができなかった…そんなあの台。
勝利へのビジョンは見えている。大勝した時に高らかに叫ぶ言葉も決まってる。それは勿論…
「ナイスな展開じゃないか!」
i藤さんとの付き合いはもう10年近くになる。高校の部活で知り合ったのだが、卒業した後も暇な方が声をかけては何をするわけでもないのに取り敢えず会うという、都合のいい関係を続けていた。
その日も暇を持て余した俺たちは、目的もなくi藤家に集合することとなった。金は無かった。時間だけは無限にあるように感じていた。
最初はダラダラとアニメか何かを観ていたと思う。しかし、金がない時ほど打ちたくなるというもの。いや、金がないからこそ一発当てて増やしてやろうという気持ちになるというものだ。どちらから言い出すでもなく、駅前のパチンコ屋へ向かうこととなった。
人も疎らな店内で、最初俺は秘宝太陽を打っていた。ボーナスに当たれども当たれども入ることのない秘宝RUSHに嫌気がさし、ふとi藤さんの姿を探す。i藤さんは「不二子 〜100億$の女神〜」で箱を使っていた。
「調子いいじゃないi藤さん。」
「今日の不二子は俺に優しい…移動してよかった。」
「さっきまで何打ってたん?」
「真後ろのラインバレル。」
見ると200ゲーム程で止められている。
「俺あれ打ったことないや。」
「ボーナス後だから天井500ゲームの可能性あるよ。」
「じゃあ盛大にi藤さんのカマ掘ることにするわ。」
こんな動機で打ち始める運びとなった。
「鉄のラインバレル」
スパイキーのA+ART機である。純増1.9枚のART「鉄RUSH」を搭載し、指定された子役を引けば上乗せとなる「覚醒」・大量上乗せに期待ができる「オーバードライブ」が出玉の鍵を握る。
手探りで打ち始めると、i藤さんが隣に来てで解説を始めた。
「左は白7狙いで消化して。チェリーが中段に止まったら、中も白7狙い。スイカ蹴ったら右は3連チェリー狙って、チェリーが止まれば強チェ+強チェだから。3連で止まったら強チェ+強チェ+強チェね。」
「何言ってっかわかんねぇから日本語で頼む。」
「生まれも育ちも日本だよ俺は。…えーっとね、この台子役が複合で成立するんだよ。弱チェリー+強ベルとか強チェリー+弱スイカとか。」
「あぁ、なるほど…そういうことか。」
「取り敢えずチャンスゾーン目指して頑張って。」
チャンスゾーンである「認証モード」を目指し黙々と回す。何度目かのレア役の後、ようやくパシリでカレーパンを買ってくる演出に成功し、認証モード突入となった。すかさずi藤さんを呼びに行く。
「認証モード入ったよ。」
「まじか。おっ◯い揉めたらARTだから頑張って。」
「大丈夫か?病院行くか?」
「医者の世話なるほど耄碌してないよ。そういうチャンスゾーンなのよ。ベルの10%で当たりだから。」
席に戻り打ち出すとなるほど、押し順ベルがナビされ、揃える度に主人公がヒロインの胸元に手を伸ばしている。BETボタンを押すとヒロインが「まだ心の準備が…」と顔を赤らめる。
ふんふん…悪くないねぇ!恥ずかしがる少女の胸を強引に揉もうとする。なんとも男のS心を刺激する演出じゃないか。これで揉めたらARTなわけか。
何度目かの押し順ベルから無事ヒロインの胸を揉みしだき、巨大ロボを召喚する。喜びを噛み締めながらARTを消化する。何事もなく駆け抜けそうになった継続バトル中にi藤さんが隣に来た。
「どうよ?」
「音速で駆け抜けそう。」
そう弱音を漏らした時、チャンスリプレイが揃う。大きな不安と若干の期待を込めレバーを叩く。ボタン連打演出から無事復活し、ART継続となった。
ホッと一息つき、画面を見ると「ディスィーブ参戦」と書かれている。
「うおっ!リプ覚醒入ってんじゃん!」
横のi藤さんの興奮している様子から、何やらチャンスだと悟る。どうやら継続バトル中のチャンスリプレイから上乗せゾーンである「覚醒」に当選したようだ。今回の場合、チャンスリプレイからなのでリプレイを引けば上乗せとなるリプレイ覚醒だ。純増1.9枚のART機でリプレイを引くなんて、煙草に火をつけるよりも容易い。
気持ち良く上乗せを続けていると再びチャンスリプレイが揃う。画面には「ディスィーブ大覚醒」の文字。
「まじかっ!やべえ!」
i藤さんが思わず中学生男子のような口調になるほどには薄いところを引いたようだ。
合計で150ゲーム程の上乗せをし、徐々に俺にも興奮が遅れてやってきた。これでなんとかトントンまでもっていければ…。そんな淡い期待が、雨後の筍の様にニョキニョキと芽を出す。
するとその思いが台に届いたのか、「鉄」の文字とともにリールロックが発生した。なにか引いたか?そう思う間も無く、「ナイスな展開じゃないか!」と2段階目のリールロック。
熱い…良く知らなくてもそれだけは解る。俺の興奮が高まりつつあるその瞬間、「あなた、最低です‼︎」と台に罵倒されることとなった。
生まれてこの方警察のお世話になったことがない、悪いところと言えば顔と頭と性格ぐらいしかないこの俺の、一体全体何処を指して最低だというのだ。遺憾に思う俺を尻目にi藤さんが叫ぶ。
「まじかっ!確か3段階目まで行ったらフリーズだったはず!」
そう告げるi藤さんは、まるで我が事のように満面の笑みを浮かべていた。この笑顔が見れただけでも、ラインバレルを打った甲斐があるというものだ。フリーズの恩恵は赤7BIG+OD+ART複数セットストック。
準備は整った。後は一発ぶちかますだけだ。未だ興奮冷めやらぬi藤さんへ、勝利宣言の代わりに言い放つ。
「ナイスな展開じゃないか!」
レア小役から上乗せをする。ナイスな展開じゃないか。
さらに覚醒にぶち込む。ナイスな展開じゃないか。
白7BIGを引く。ナイスな展開じゃないか。
JAC INでBARラッシュを引く。ナイスな展開じゃないか。
レバーを叩く。レア小役を引く。隣のi藤さんと顔を見合わせ、「ナイスな展開じゃないか!」と言い合う。そんな下らないやり取りが妙に面白かった。結局、ARTは2000枚弱の獲得で終了。思ったよりも伸びなかった結果以上に、濃密な時間を過ごした手応えがあった。
その日以来、3日間に渡ってi藤さんの家に泊まり込み、一台しかないラインバレルに競い合うように座り、千枚前後の大きくはない勝利ではあるが連勝し続けることとなった。
その後もi藤さんと打ちに行く店にラインバレルがあれば座り、互いが引いたボーナスに一喜一憂し、自分達以外の人間がODを引けば「何故俺たちには引けないんだ…」と落ち込むこととなる。
ラインバレルの魅力は複合役の存在抜きには語れない。中でもチェリー+リプレイは引けばチェリー連状態へと移行し、2分の1でチェ+リプが成立。認証モードの抽選を行う。ART中は4分の1でチェ+リプが連続する。もし仮に、チェリー覚醒とリプレイ覚醒に同時に入ったとしよう。チェ+リプを引けばその両方の上乗せ抽選を受けることができる。更に、次のレバーで転落しなければ、再びチェ+リプが降臨、上乗せの坩堝となる。
また、チェリー覚醒時に強チェ+強チェ+強チェを引いたとしよう。この場合、3回分の強チェリーによる上乗せ抽選を行うことになる。
複合役による上乗せの連鎖反応。一見厳しい様にも思うが、バッチリと嵌った時、最上級の快感を運んでくる。
BIGが重く、やっと入った認証モードでも一向に揉みしだけないというありがちな地獄を見ることもあった。それでもあの日、i藤さんと打ったラインバレルの楽しさが輝かしい思い出となって頭から離れない。
下らない理由で打った台が、その後忘れがたい一台となる。そんな巡り合わせがあるから、スロットは辞められない。
5
たれめさんの
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このコラムへのコメント(2 件)
ワクワクする瞬間に事欠かない素敵な台でした…
なかなか勝てなかったけど笑
が、私の中で重複を…!!
ラインバレル…ごくり…