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もしも村上春樹がホール実践レポートを書いたら
もしも村上春樹がホール実践レポートを書いたら
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マグさんさん
初めての20スロはクレアちゃん2でした。クレアちゃんの可愛さを知れました。いやあ、クレアちゃんかわいいですよねえ。 - 投稿日:2018/07/27 01:14
「金持ちなんて・みんな・糞くらえさ」
ピエロはいつもそう言っていた。さながら、資本主義に溺れた現代社会を憂うかのように。
あるいは、自分自身を戒めるために言ったのかもしれない。
哀しげなパチンコ・ホールだった。十二月の雨に濡れた三本足の黒犬みたいに哀しげだった。世界には僕とピエロしかいない。
「それで、今日は?」彼は目を瞑ったまま、邪悪な笑みを浮かべる。「それで、今日は?」さながら失語症にでもなってしまった僕に繰り返し聞いた。
「うん、そうだな。これは一つの参考意見として聞いてほしいんだけど-----150枚でどうだい?」「150枚。」
フォア・ローゼスのロックを飲みながら、アメリカンハットをかぶっている男を軽蔑した目で見ながらそう答える。こいつは、もともとそういうやつなんだ。残忍で、醜悪で、金の香りがするものが大好物な豚だ。
「君はメダルをベットし、レバーを叩いてもいいし、叩かなくても良い。あるいは、ボクのもとを去って、黄色のビギニを着た彼女の元に行ってもいい。」ニヒルな笑みを浮かべたまま、この世のすべての欲を見てきたかのように言った。
相変わらず目を瞑ったままの男だ。不気味で醜悪で下賤でお金を巻き上げることしか考えていないような男だ。
「せっかくだけど、それは遠慮しておくよ。」僕はそう言い、メダルをベットしレバーを叩いた。
*
スロット・マシーンは1秒間に0.78秒の周期で1周する。これは地球が誕生する前から決まっていることだ。アダムとイブが出会ったように、そして、禁断の果実を食べてしまうように。
1分間にはリールは76.9回転する。この話を聞いている君にとって興味深いものだとは言えないだろう。僕たちが興味あるのは、いつGOGO・ランプが光るか、それは僕が死ぬまでの人生の一部になる。僕のつまらない人生の中で、ただ、LEDのランプが点灯することだけを心待ちにしている。
「どうだい?今日はいけそうかい?」ピエロはそう問う。「もう少し。」と僕は返した。
リールは回っていたが、時間は止まっていた。しかし、世界は回り続けている。僕も彼も時間は止まっていた。人間としての時計が、長針も短針もピタッと止まってしまっているのだ。
僕と彼は仲は良くない。対面に座っているが、一緒にバーでくだらない酒を飲み、くだらない女をナンパし、くだらない女とセックスするような安っぽい青春を歩むような仲ではない。
"対峙"。この言葉で形容するのが正しいだろう。対峙こそが僕と彼とを結ぶ絆だ。僕は彼からコインを搾取することを目的に、また、彼は僕から現金を巻き上げることを目的に僕たちは対峙するのだ。
*
何十回、何百回とメダルを入れ、レバーを叩くという動作を繰り返しただろうか。もし、オリンピックの競技に”同じ動作を繰り返す”という種目があれば金メダルを手に入れることが出来る程にゲーム数を重ねている。
「諦めちまいなよ」僕と彼しかいないこの場に、隣から子どもの声が聞こえた。
隣を見ると、羊男が椅子に座り、自分の台を打つわけでも無く、僕の方をじっと見ていた。四足歩行ではない、二足歩行の羊が座っていたのだ。君たちに分かりやすく説明すると、大きな羊のきぐるみのようなものを想像して貰えればいい。正確に言えば、きぐるみではない。なぜならば、羊男からは獣臭さがするからだ。
・・・
「諦めちまいなよ。その勝負は君の人生を賭けてまでやるものなのかい?」羊男の獣臭さはさらに強まった。「君のどうしようもない人生において、今、その瞬間がオイラにはとても大切なことのようには思えないね。君ははたして、こんなスロット・マシーン相手に鼻息を荒くして、今にも感情が爆発しそうになっている場合かい?君の人生において、もっとやらなければならないことがもっとあるんじゃないかい?」羊男は子どもの声で、ときおりケタケタ笑いながら僕を罵る。
「それでもね、僕は彼と戦わないといけないんだ。こんなことが僕の人生において糧にならないことなんて百も承知さ。」自分を落ち着かせるために、胸いっぱいに深呼吸をしてみた。肺には、獣臭さが満ちて、絶望の味が全体に広がった。
「踊るんだ。」「踊る?」「君はもう踊るしかないんだ。」羊男は、回転式チェアーに立つと、その場で器用にタップ・ダンスを踊ってみせた。
「君の人生は絶望そのものだ。誰からも憧憬されることも、尊敬されることもないだろう。
だからこそ踊るんだ。器用な生き方は出来ない、君らしい生き方さ。」
ピエロは舞台で踊る。観客に見られるために、笑ってもらうために。僕は、いままで悪魔のピエロを憎悪していたが、実際はそうじゃない。僕も彼なんだ。
「そうかようやく分かったよ。こうすれば良かったんだね。」僕は羊男にお礼を言うと、回転式チェアーに立ち、コサック・ダンスを踊りながらレバーを叩いた。
その瞬間、GOGO・ランプが点灯した。ピエロは相変わらず目を瞑ったまま笑っていた。僕と彼と羊男しかいない暗闇の空間は次第に光が満ち、また、光が満ちると共に彼らが霞んでぼやけ始めた。開放されるんだ、僕は本能的にそう感じた。
*
「-----お客様、お客様!」
光が満ちたホールは、飽きもせずスロット・マシーンやパチンコ台から、まるで戦争の中心地にいるかのような爆音がしていて、女店員の声があまり聞こえなかった。
「他のお客様のご迷惑になりますので、退店を願います。」僕は回転式チェアーの上でコサック・ダンスを踊りながらフォア・ローゼスを飲んでいた。しかし、これの何が悪いのだろうか。僕はピエロなのに。
「やれやれ」と僕は言い、店を後にした。
投資 500枚
回収 0枚(ボーナスを消化する前に退店したためだ。)
終
14
マグさんさんの
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このコラムへのコメント(10 件)
書いててすごく面倒くさかったですw色々な方に評価されて嬉しかったです。
ボクDC兵マツバさんの「もしも 奈須きのこ がスロット実践レポートを書いたら」好きです。
他の人ももしも~シリーズ書いて欲しいなあと思ってますw
あれ?村上春樹さん?
ああ、違った藤原さんだった!すみません、文体似すぎてて思わず間違えました
しかし、この文体…もしやハルキストさん…?ちょっとうれしくなりました、ありがとうございます!
書いてて何度も「コイツ何言ってんだろ…」と思いながら「春樹っちゃんなら書きそう!」で押し通してましたw
ありがとうございます!書いてて楽しかったですw
もれなく出禁を喰らいますからねw
村上春樹ゴトだけはオススメしませんw
今年こそ村上春樹センセー受賞しますし!
ブックメーカーでも良い倍率してますし!
否、面白いものは必然性を持っている。それは断じて、つまらない過程を通り越しているから面白いのだ。
最高です!
でもね、いいかい、君に続きを書いてもらおうとしてコメントした訳じゃないんだ。
僕の言いたいのはこういうことなんだ。一度しか言わないからよく聞いておいてくれよ。
僕は・このコラムが・好きだ。
あと10年も経って、このコラムや、打ったスロットや、
そして僕のことを覚えていてくれたら、僕のいま言ったことも思い出してくれ。