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5、ある二人の再会(終)

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5、ある二人の再会(終)

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おにぎり煎餅さん
ちょっとしたお話を書いていけたらなと思います。よろしくお願いします。
投稿日:2017/11/30 03:43

この物語はフィクションです。実際の人物、団体とは一切関係ございません。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

朝が来る。
太陽が昇って、朝が来る。
少し前の私ならここで少し格闘をしただろう。
太陽VS私。
勝てるわけねーな。

いや別に降参を認めたから、
格闘しないわけではなく。
ここ最近の朝は、気持ちよく起きられる。
いつ以来だろうか、
思いを巡らせる。

寝起きに関して意識したことはないけれど、
確実に覚えているのは
一年前の、あいつと居た日々だ。
浮気くそ男。
一年という時を経て、
私の傷はだいぶ和らいだ、ということなんだろうか?
一年という時を経てもなお
思い出してしまうのは、あいつが気になるのだろうか?

私にもわからない。
でも、最後に別れて以来、
連絡は取っていない。

そんな弱い女じゃないの。

誰だよ、私。
はるなだよ、私。

さてさて、今日は休みだ。
最近パチンコに行く頻度の増えた私。
立ち回りも何も分からない。
浮気くそ男に教えてもらったのは、
打ち方と、オカルトと、回る台を打つこと。

そう、回る台。

ちょうど去年の今日、
繁華街の人が集まるホールの
昔のイベント日?というやつだった。

浮気くそ男に連れられて、
二人で行って、
並んで打った。

そんな日が、あった。

そして、
クリスマスを迎え、年を越し、
浮気を見つけた。

今年の一月末くらいだったかなぁ。
あいつのケータイにラインが来て、
知らない女とのキスの写メが
目に入ってしまったのが。

うげぇ。
やっぱり、今でもそれは吐き気がするな。

くそ、最近調子よかったのに。
くそ。

違う、違う。
そんな日があったんだ、イベント日。
そう、昔のイベント日なのだから、
今年も変わらないでしょう。
だから、今日はパチンコに行くと決めていた。

あいつに会うかも。

なんて考えてしまうけれど、
別に気にしない。
近所のおばさんよろしく
どうもーって言ってやる。

それより私は勝ちたいんだ。
勝って、楽しみたいんだ。

だよね?はるな。

自分に言い聞かせる。

そして布団から出た私は
いつものパーカー、
いつものデニム、
いつものニット帽、
いつもの眼鏡をかけ、

今日はダウンをさらに装備し、

玄関へ向かう。
下駄箱の上に、あいつがくれたブレスレットが置いてあった。

こんなところにあったんだ。

ドアを開けた。
顔を刺すような冷たい風が
私の目をしっかりと目覚めさせた。




ホールに着く。
時刻は11時。
朝並ぶとか無理っしょ。
寒いし。
まぁまぁ私はスロット狙いじゃないし
問題ない。
朝並ぶ人ってみんなスロット行くんでしょ?
にわか知識を振りかざす。

ホールはいつも以上に人が居た。
そういえば、去年もこんなだったなぁと思い出す。

お目当ての台は
海物語 IN JAPAN
ミドルスペック。
1/319。
沖海4もいいけれど、
私はこの台のジャパンモードが好きだ。
四季折々の風景に合わせ、
四季折々の曲がアレンジされている。
この曲がたまらなく好きだ。

でも、最近、座ってない。
自分でも分からないけど、
なぜかずっと避けていた。
久しぶりに打ちたくって、
この台と決めていた。

台数は去年に比べ減ってしまったけれど、
まだまだ台数としては多い。
でもやっぱり、新機種じゃないからか
人はまばらだ。

安心して、中ほどの台に座る。
ボタンを押して、ジャパンモードに設定した。
一万円を入れて、ハンドルを捻る。
玉がどんどん弾き出されていった。

お馴染みの図柄が横スクロールで泳いでいる。
あぁ、曲にも風景にも癒される。
リーチになったり、先読みしたり。
何よりもうれしいのが

回る。

すごく回る。

え、こんなに回るもんだっけ?
今までのパチンコってぼったくり?

と、思ってしまうほど回る。
ストレスがない。

画面背景は春から夏、秋、冬
そしてまた春に戻る。
この繰り返し。



あいつと桜を見に行った。
近くの大きな公園に、ライトアップされた夜桜を見に行った。


あいつとお祭りに行った。
夜空に浮かんだ、大輪の花火を二人で見た。


あいつと紅葉を見た。
京都まで行って、赤く染まった山をバックに金閣を見た。


あいつとイルミネーションを見た。
夜空を照らす程の幾多の光に二人で感動した。

液晶の風景が変わるたび、
私の中の記憶が呼び起こされる。
そうだった。
好きな台なのに、打ってなかった理由。
あいつをどうしても思い出すんだ。

去年もこの機種打ってたんだ。

自分の心の奥の方に閉じ込めていた記憶が
今、浮かび上がってくる。

でも不思議と、吐き気はしない。
懐かしむように、
二人のアルバムを眺めるように、
今、私は回顧している。
海物語を通じて。

まぁ、色々あったよね

とつぶやくと

二つ隣の台から、けたたましい音が聞こえた。
画面では役物が回転し、
「寿」という文字が浮かんでいた。

いいなぁ。
私も早く当てたいなぁ。
回転数を見る。

現在150回転。

うん、まだまだこれからだよね。
視線を液晶に戻す。
まだ熱いのも来てない。

図柄は回り続ける。
背景も回り続ける。

けれども当たりは来ない。
魚群も来ない。

さっきの二つ隣の台では、
後ろに箱が三箱積まれていた。

嫌だなぁ。
あのおっさんのよしよしって頷くの。
いやでも目に入る。
気持ちは分かるけどさぁ。

すると、間に一人座ってきた。
すみません、すみません、と頭を下げながら。

よかった、これであのおっさんが視界から消える。
と、一安心したのもつかの間。
視界に入って来たのは、



浮気くそ男だった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――


僕がもう会えないと思っていた人、
もう一度会いたいと思っていた人。

もう一度戻りたいと願った時間、
もう一度帰りたいと祈った場所。

そこに、君は居た。
そこに、あった。

去年の今と同じように、
そこに在る。

僕が望み続けてきたもの。

でも、すぐに逃げ出したくなった。
ここには居てはいけないんだと思った。

でももう遅かった。
分煙ボードを挟み、ちらっと
君を見る。

薄い化粧、よく見たニット帽、メガネ。

あの時電車で見た似た人とは違う。
正真正銘、僕が求めていた人がそこにいる。

去年と違うのは、
分煙ボードが間にある事だけだ。
でも、それが
すごく遠く感じさせる。

しまおうか?
このボードしまうか?
いやいや、どのタイミングで?
彼女は気づいているんだろうか?
声をかけるべき?
しれっとコーヒーを差し入れするか?
微糖が好きだったよね。なんて言って。

ぼくの心臓は高鳴っていた。
別に魚群が出たわけでもなく、
祭りモードの祭囃子にテンションが上がったわけでもない。


隣に彼女がいる。


何気ないふりをして、
彼女の台のデータランプを見る。
当りは0。
回転数は200を超えたところだった。

いや、これ以上は望んではいけない。
自分の液晶に目をもどす。

画面では先ほどまで担がれていた神輿は無い。
今はマリンちゃんが浴衣を着て
縁側で涼んでいる。

ふと、彼女の浴衣姿が重なる。
二人で花火を見に行ったなぁ。
君は浴衣姿で来た。
僕は私服で行った。
風情がないと言って君は少し怒った。

そんなことがあった。

隣の君に聞いてみたい。
花火を二人で見たこと、今でも覚えてる?
僕は覚えてる。

またも気づかれないように
ちらっと右を覗く。
彼女は画面にくぎ付けになっていた。

覚えてないんだろうな。
と、自分の台に向き直ろうとした瞬間。
視界の右側で彼女の台が見えた。

彼女が釘付けになっていた理由。


スーパー咲乱舞!

彼女の目の前で、
図柄が、何度も停止する。
図柄が順目で何度も高速で停止する。

そして、8図柄がテンパイ。
リーチ先は豪華絢爛リーチ。
背景で泳ぐ魚群。

固唾を飲んで見守る。
彼女も、
僕も、
二人で。

泳いでいく。
上下に挟まれた
中の図柄が
必死に泳いでいく。
泳いで、
泳いで、

キュイン

図柄が揃った。

僕は思わず、やった!と叫んだ。
彼女の方を見る。


彼女もこちらを見て
やったよ!と返してくれた。

あの時と同じ。

あの時と違うのは分煙ボード越しということだけ。

そして、大当り消化が始まるまで、

分煙ボード越しに、

僕らは見つめ合っていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

はしゃいでしまった。
何をやってるんだ。
私は。

近所のおばさんよろしく
どうもーって言ってやる予定が、
近所の少女よろしく

やったよ!

とか言ってしまった。

うぅ…
消化せずに帰ろうかな。
もうここでやめて、電源落としてもらおうかな。
さすがにもったいないな。

消化して、
終わったらやめよう。

このまま打っていたい気持ちも、
ある。
未練がある。
この台に。
時短を抜けてもまだ打っていたいと
思っている私がいる。
でもそれは
あいつが隣にいるからじゃないよね?
だよね?はるな
この台が回るから。
だよね?はるな

決めた。
何も言わず、立ち去るんだ。
ここから、彼から。

台に思いが通じたのか、
昇格は無し。
マリンちゃんが夕日をバックに
こちらに手を振っている。
そして、
マリンちゃんのセリフと共に浮かび上がる。

「チャンス」

なんだ。
これが最後のチャンスってか。
何のチャンスだ。
なんの機会だ。

彼にあの時の真相をしっかり聞くチャンスか。
あなたのその話は聞きたくありません
と、突っぱねた、
彼の話を。

それとも
チャンスを彼に与えろというのか。
今更。
第一、彼にも新しい彼女がいるだろう。
あの写真の女とか。

画面では時短の消化が始まった。
百回。
この百回が終わったら、
私はこの店を出る。
この百回が終わったら。

この百回が終わったら、
すべて終わりにしよう。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

一瞬だった。
ほんの一瞬だった。

だけれど、あの時に戻れた気がした。
大当りが始まると、二人とも自分の台に視線を戻す。
何もなかったかのように。
何もなくなったかのように。

彼女の台で時短が始まった。
彼女は時短を抜けても打ち続けるのだろうか。
それとも、この台を辞めてしまうのだろうか。

そのことばかり考えてしまう。
その間に僕の台が当たったら、
彼女は喜んでくれるのだろうか。
さっきみたいな笑顔を向けてくれるのだろうか。

彼女の台。
時短、残り70回。

僕の台ではウリンちゃんが
保留を変える以外
何も起こらない。

彼女の台。
時短、残り50回。

リーチはかかれども、
スーパーにも発展しない。

彼女の台。
時短、残り20回。

何も起きはしない。

彼女の台。
時短、ラスト。

彼女のチャンスタイムは終わった。

彼女がハンドルから手を離す。

同時に
僕に与えられたチャンスタイムも終わったようだ。
溜まった保留が消化されるのを確認し、
彼女は呼出ボタンを押した。

声をかけることのできる距離。

僕には何も言わず、
こちらを一度も見ることなく、
店員に促され、計数機へ向かう。

追いかければ間に合う距離。

でも、
僕は、
何も言えなかった。
何も動けなかった。

彼女は僕の隣から離れていった。
彼女は進んでいった。

僕はまだ台に座っている。

当たらなかった。



思わず、涙がこぼれそうになった。
自然と上を向く。
ふと、データランプの上に貼られた
ポップが目に入った。

海物語 IN JAPAN
ミドルスペック
大当り確率 1/319

この確率が引けなかった。
この確率を引けていたら、
何かが変わったのかな。
何かを変えられたのかな。

ふと気づく。
今日は12月中旬、
別れたのは1月末。

いや、引けていたんだ。
およそ1/300の確率。

僕は
かけがえのない
他のどんなことよりも望んだ
大当りを引いていたんだ。



今日という日を。



笑みがこぼれた。
海物語のシマで
涙を浮かべながら、
微笑む僕は変人だろう。

それを活かせなかったんだな
負けだ、負け。
単発。
これで、おしまい。

僕は、
ハンドルから、
手を離した。



彼女がさっきまで座っていた
隣の台のデータランプは、
大当り回数が
「0」から「1」へ
変わっていた。






―――――――――――――――――――――――――







13時。
繁華街。
パチンコ屋。

私は
僕は

去年、そこにいた。

私は
僕は

今年もそこにいた。


私は進んでいたつもりだった。
僕は進むことが出来ていなかった。


私はこれから進んでいくよ。
僕もこれから進んでいくよ。


もう二度と会うことはないけれど。
もう二度と会えないだろうけれど。


あなたのことは忘れないよ。
おまえのことは忘れられないよ。


いやでも思い出してしまうから。
いつでも思い出してしまうから。



ハンドルを、握った時に。
ハンドルを、握った時に。



12

おにぎり煎餅さんの

※本記事はユーザー投稿コンテンツです。

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このコラムへのコメント(6 件)

プロフィール画像
とよぴ〜
投稿日:2017/11/30
いいっすね、本当に心にきました(´∀`*)
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ひろし
投稿日:2017/11/30
漫画や小説の話なら良いんだけどなって思ったら、誰も浮気してないんすね。めでたしめでたし
一本で何回転回るんだ?そこが知りたいんだよなぁって思ってました。
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ポリンキー
投稿日:2017/11/30
ちょっと朝から泣いてしまった…。


色々書きたいこともありますが、もうほんと面白かったとしか言えません。

ありがとうございました。

また作品見たいです。
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元職長
投稿日:2017/11/30
数十センチ隣しか離れていないのに
数十キロ離れているような二人
パチに絡む恋愛は切ない事が
多すぎる
あたしの思い出ボロボロもね
次、おかわりです。まってます
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あきうめ
投稿日:2017/11/30
うわぁ……うわぁ……。
全身震えて泣きそうだから
ちょっと泣いてきます。


ふぅ。
この二人の確率は、1/319よりも重かったんだと思いたい。

だってワンチャンスあるかもしれないじゃない。

プレミア級の確率じゃないと辛くて胸が痛くて泣きそうなんでちょっと泣いてきます。




ふぅ…。

重複になりますが、時間を空けてもいいのでまた書いて貰えませんか。
ぜひお願いします。
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佐々木 真
投稿日:2017/11/30
なんか、志村正彦くん(夭折のミュージシャン)を思い出しました。

君と並んで乗ったブランコ今はないんだ
僕らなんか手に入れては離しちゃって

ソラで書いてるので、変換とか違ったらすみません。

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