嵐の後

皆様台風による被害はありませんでしたか？
この話を紡いでいる今、東北地方を奴は北上しております。
つい先日近所の川が氾濫し、寝てる間に玄関浸水でお気に入りのスニーカーがおしゃかになったばかりですので、二の矢三の矢は勘弁してほしいなと思う今日この頃・・・

さて、今回はそんな嵐の日の思い出話。
あれは、5年程前でしょうか。
台風ではなかったと記憶しておりますが、爆弾低気圧がやってきた。
そんな初夏の出来事でした。

ﾌﾟﾂﾝ・・ﾌﾞｳﾝ・・・・・・・・ﾌﾟﾂﾝ

その日の深夜、我が家では停電と復旧が短いスパンで繰り返されており、ガタガタと窓ガラスは揺れ、私の不安を煽ります。

どれだけ不安で眠れなくても朝はくる訳で、
どれだけ睡眠不足からくる疲れがあっても始業時間は変わらない、世の常ですね。

『どんだけ〜〜』と叫んだ所で、出勤からは逃れることは出来ない社畜な訳で。
眠い目を擦りながら出勤致します。
出勤中に目に入る町の風景は普段と異なり、まだ緑の濃い葉っぱが吹き荒び。
商店街の老舗のシャッターが壊れ、
トタン屋根は剥がれかけ、
時計屋さんの看板が地面に突き刺さる。

東日本大震災を経験した後でしたから、非日常の光景に多少は抗体が出来てましたが
『ヒドいな・・』
と、自然に口から出たのを記憶しております。

店舗に到着し、電気系統の無事を確認。
分電盤も漏電関係の発報はなく一安心、何事もなくその日の営業は始まりました。

暴風は治まる事なく吹き続けており、常連様の足を遠ざける。
早く治まってくれねえかなあ・・・
稼働上がらないなあ・・・
そんなヤキモキしたお昼前。

『一応、上も見てくるか。』

前述した通り、この話は東日本大震災の後なのですが。震災の際に何機か屋外の監視カメラが故障しまして、稼働の低下から閉鎖していた立体駐車場屋上の監視カメラは故障したままで放置されておりました。

事務所から確認することが出来ない不可視エリアに足を踏み入れると、



私を絶望が包み込みます。



『平和の象徴』というコラムで触れた立体駐車場スロープ凍結防止の小さなロードヒーター設備室。

設備室のアルミの屋根は7割程剥がれ、雨ざらしとなったボイラー部分からは灯油が駄々漏れてレインボーのコントラストを描き、
閉まる事を忘れた扉は『波二乗レ』と言わんばかりに上の蝶番を切り裂いて
『後は下だけだ！』と
蝶番という名の鎖を振り切って今すぐ飛び立とうとノッておりました。

ええ、店舗のすぐ近くには線路が走っており。線路を挟んですぐに住宅街。
もしそこへ、この扉や屋根というリフボードが飛んで行ったら・・・

考えるより動くが早い、屋上を閉鎖するために使っていた虎ロープを全てほどき設備室をぐるぐる巻きにし補強します。

しかし、絶対的に長さが足りない。
扉を抑える事がギリギリの長さ、屋根はどうしようも出来ない事が明白。

助けを呼ぼうにもインカムは通信範囲外、もしも助けを呼びに現場を離れてる間に限界を迎えたら・・・

ロープでカバー出来ない屋根に登り、全体重をかけて押さえ込みました。雨足は強まり、ビシャビシャになる体。

『屋上の様子見てくる』

その言葉をなんでスタッフへ伝えなかったかな・・・
報連相を徹底するように、と朝礼で伝達する私がそれを出来てないじゃないか・・・
自業自得だな・・

2、30分が過ぎた頃でしょうか。風は治まりませんが私を飛ばすほどではない為。耐え続けていれば他に被害は出ないんだ。そんな悟りを開き始めた時。







『ゼロぽん何してんの！？マジウケる！』

私と同期入社のOの登場です。

『いや、笑ってないで助けてよ・・・』

同期ではありますが、一応上司の私。
ただ、この会話の感じでどんな関係だったのか察する事が出来るかと思いますが・・

『ブルーシートとあるだけロープ持ってきて』

『了解wwwwwwwwww』

Oの参加により、設備室全体にブルーシートを被せ。
その上から虎ロープでがんじがらめにして被害を抑える、そんな作戦を敢行する事が可能となりました。

『ホントに・・ありがとな・・』

ブルーシートにロープを巻きながらお礼を伝える。

『サボってるなって思って探しに来たら死にそうな顔してんだもん、マジウケるwwwwww』

この野郎という言葉を飲み込み、作業を続けます。
ブルーシートによる補強も進み、ちょっとやそっとじゃびくともしない程にロープを絡めていきます。
雨風はさらに強まり私とOの髪のセットは総崩れ。
私は既に精神的にも満身創痍・・


『こんな時はあれ言いたくなるなー！』


Oがテンション高く話し掛けてきます。


『ねえ、ゼロぽんあれやろうよ！』


私には『あれ』がなんなのかわからない。


『あれだよ！あれ！絶対わかるって！』


いや、だから『あれ』ってなんなのさ。


『じゃあ、俺から言うよ！続けてね！』


人の話聞けよ、お前・・・


















『ファイトぉぉぉぉぉぉぉぉぉ！』







『いっぱあぁぁぁぁぁぁぁぁつ！』






恐らくそれまでの人生で最大の力を発揮しロープを思いきり引っ張る。
CM以上に息の合った二人の共同作業。
パチ屋の従業員二人が近隣住民を守ろうと振り絞ったそのチカラ・・・






『ベキベキベキッ』





ブルーシートがひょうたんのような形にへこみ、
設備室の外柱にトドメを刺したことを理解した・・・

ビシャビシャに濡れた二人は大笑い。

『やっちまったな！』

『でも、平和は守ったよ！』

ゲラゲラと笑い転げる二人。
ドラマのように、雲の隙間から日差しが二人を照らす事はなかったけれど
今でも思う、始末書を書きながら
思い出し笑いを噛み殺したあの日は本当に嬉しく、楽しかった。

入社からずっと良きパートナーだったOは今年の春に退社。
今は毎日違う窓から見てる空だけど。
お互い休みに行く店は同じ。
二人で勝ったらまた、
『雨上がりの夜空に』を歌おうか・・





皆様が普段何気なく接しているホールスタッフ。この話では伝わりにくいかもしれませんが裏側では普通の人間です。
最近、嫌がらせの仕方などをまとめているサイトを見る度に悲しくなります。
お客様から見ると、腹立たしく感じては笑顔に悪意を覚えるかもしれません。
ハマりを喜んでいるかのように見え、嫌がらせをしてしまう。


そのスタッフは、お客様が当たるように心の中で応援していたにも関わらず、応援していた方の嫌がらせの後始末をしなければならない。


もしも、嫌がらせがしたくなったら。
このコラムを思い出してください。
ホールスタッフは悪魔でも、ロボットでもなく、人間です。


１つでも嫌がらせが減ることを願っております・・・

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