『壁』～高難易度の複合ビタ

ラッシーパチスロワイルドサイド-脇役という生き方-

「ねぇ～ラッシー、一緒行こ～よ～」

ブンちゃんはソファに座り、拗ねた子どものように唇を尖らせた。甘えた声を出してはいるが、オネエではない。むしろ少し心配になるほどの女好きだ。

ブンちゃんはバイト先の社員で、年齢は24歳。俺の4つ年上になる。中学卒業後からこの店で働いており、ほかの社員からは弟キャラとして可愛がられていた。ブンちゃん最大の特徴は、その呆れるほどのフレンドリーさ。新たに社員やアルバイトが入ると、2日目にはブンちゃんからニックネームが授けられる。かく言う俺の誌上ネーム「ラッシー」も例外ではなく、ブンちゃんが名付け親だ。「なんでラッシーなの？」と訊いたところ、「だってイガラシだし、顔が犬っぽいじゃん？」とのこと。ああ、イガラシだからね…い、犬っぽい!?

俺「ドン2なら近所で打てばいいでしょ」
ブンちゃん「やだよ！近所じゃ設定入ってないもん」
俺「（たぶんドコ行っても設定1だけど…）」

ドン2とは言わずもがな、かの名機「ドンちゃん2」のことだ。

ドンちゃん2――
2000年にアルゼからリリースされた、ハナビ・大花火に次ぐ花火シリーズ第3弾。シリーズ初の液晶搭載機で、通常時の演出は青ドン・赤ドン・緑ドンから選択可能。緑ドンはスイカ割りで小役ナビ、青ドンは金魚すくいで小役ナビ、赤ドンはバトル演出でボーナス告知……と、選んだドンちゃんにより発生する演出が変化する。仕様はハナビ同様、プレーンなノーマルAタイプだ。

【ドンちゃん2のスペック】
設定	BIG確率	REG確率	出玉率
1	1/297.8	1/585.1	98.9%
2	1/282.4	1/528.5	102.3%
3	1/264.2	1/512.0	106.5%
4	1/252.0	1/468.1	109.6%
5	1/244.5	1/409.6	113.3%
6	1/240.9	1/364.0	115.6%

※出玉率はフル攻略時のもの
※獲得枚数はBIG400枚前後、REGは約127枚

ブンちゃん「この前朝イチからD店に行ったら、設定変更っぽい台がいくつかあったの！」
俺「たまたまチェリーが落ちただけじゃ…」
ブンちゃん「いや、あれは間違いないって」

【編注】
設定変更後はチェリーが成立しやすい小役高確率状態へ。　
朝イチから10G以内に2枚(中段)チェリーが2回以上成立すれば設定変更と予想出来た

ブンちゃん「ラッシーと並んでドン2が打ちたいの！」
俺「ええ…なんで？イヤっスよ」
ブンちゃん「へ～、あれだ。目押しに自信ないんだ？」
俺「い、いや、そんなこと…」
ブンちゃん「BIG中の複合14枚、知ってるよね？」
俺「はぁ…攻略誌で見ましたけど」

ドン2のBIG中には大きな技術介入要素がある。定番のリプレイハズシだけではナイ。払い出し10枚の提灯成立時、ビタ押しで提灯と角チェリーを複合入賞させれば14枚を獲得できる。詳細は追って紹介しよう。

ブンちゃん「やっぱ後輩の目押しレベル見たいじゃん？」
俺「見なくていーよ！」
ブンちゃん「ハナビ世代(笑)っての？その実力見たいよね」
俺「クッ…」

スロ歴6年以上のブンちゃんからすれば、ハナビ世代などつい先日パチスロを始めたばかりの赤子も同然。完全にナメられていた。もちろんブンちゃんはハナビ世代を心底バカにしているわけではナイ。こうやって職場の後輩と遊びに行くのが好きなのだ。

俺「分かりましたよ、行きましょう」
ブンちゃん「やったあ！飯ならお兄ちゃんが奢ってあげるからさ」
俺「ありがとうございます(お兄ちゃんて)」

――30分後
時刻は17時を少し回ったころ。D店はいつも通り繁盛していた。バイト先の2駅隣にある小さなホールで、近隣では珍しい非等価店だ。繁盛している理由は2つある。1つは等価店に比べ僅かながら良好といえる設定状況。そしてもう1つは、その独特な機種ラインナップだ。

他店ではほとんど撤去されているバーサスやサンダーVが現役で、山佐のテトラシリーズも完璧に取り揃えてある。少々古めの機種や珍しい機種を求め、遠方から打ちに来る客も珍しくない。そんな店だから、まだまだ現役のドン2には客が少なかった。

俺「ボーナス合算が比較的マシなこの台にします」
ブンちゃん「じゃあお兄ちゃんはその隣」
俺「お、おう…ありがとうございます」
ブンちゃん「ラッシーは何ドン派なの？」
俺「青ドンすね」
ブンちゃん「か～、これだから素人は！通なら赤ドンでしょ」
俺「だって金魚すくいのチャンスパターンが面白いんだもん」

20分後――
俺「なかなか当たりませんね」
ブンちゃん「大丈夫。確実にウチの店より設定使ってるから」
俺「コラ！大きな声で言っちゃダメ！」
ブンちゃん「ハハ…おっ、コレは！」

ブンちゃんの液晶にトラックが現れ、赤ドンが飛び乗った。

ブンちゃん「今見た？荷台に火炎放射器あった」
俺「マジすか！アツいじゃないすか！」

そして赤ドン1人の打ち上げ演出に発展。ドンちゃんはサングラス姿で火炎放射器を構え、背景にはイナズマが走っている。

俺「おお、マジでチャンスだ」
ブンちゃん「チェリーと涼をフォローしつつ…こうだ！」

王道の小役狙いは左リール枠上・上段付近BAR狙い。しかしブンちゃんはそれに飽きたらしく、左リールに七・チェリー・七付近を狙っている。たしかにココでもチェリーと涼を同時にフォロー可能だ。第1停止でチェリーを否定し、第3停止で涼も否定。液晶には見事に大きな花火が咲いた。

俺「見慣れない出目ですけど…」
ブンちゃん「BR共通だけどリーチ目だよ」
俺「へー、そこを狙うとそんな出目がね」
ブン「おっ、BIGだ。まあ、見てな少年」

ブンちゃんが慣れた手つきでドンを揃えると、ハナビや大花火とは一味違う、軽快でポップなBGMが流れ始めた。

ここで少しばかりBIGの基本事項を紹介しよう。

○小役ゲーム中は液晶の花火の種類で成立役をナビ
①緑花火…JACイン、②青花火…提灯(ベル) 、③プチ花火…ハズレor提灯、④三連花火…涼(スイカ)

○リプレイハズシ難易度はハナビと同等
逆押しするとリプレイは中段にテンパイし、左リール枠上・上段にチェリー下の七を狙えばOK。2コマ目押しなので、難易度はそこまで高くない。なお、ハズシに成功すれば葉月ちゃんがキスで祝福してくれるぞ。ハズシを実践しない小役狙いと比べれば、攻略効果は＋45枚前後と言われている。ちなみにハズシ戻しゲーム数は残り10Gだ。

○提灯成立時が複合14枚獲得のチャンス
BIG中の提灯とチェリーは同一フラグ。下記のどの形でも獲得可能。
①角チェリー(4枚)、②中段チェリー(2枚)、③提灯(10枚)、④提灯＋角チェリー(14枚)

【編注】同一フラグと同時成立の違い
4号機では1つのフラグで獲得枚数や役割の異なる複数の入賞パターンが認められていた。
例…チェリー(2枚)or提灯(10枚) ←フラグは1つのみ

ちなみに5号機は全く同じ性能(払い出し・RT終了条件・ART抽選確率など)のフラグ同士であれば、同一フラグにすることが許されている。

また、4号機は1Gにおいて成立するフラグは1種類のみで、5号機のような同時成立は許されていなかった。
同一フラグ…フラグとしては1種類　　例：チェリーor提灯
同時成立…2つ以上のフラグが重複して成立　　例：チェリー＋提灯

提灯対応の花火が発生したら中→右の順に押し、提灯が上段or右下がりにテンパイしたら複合14枚獲得のチャンスとなる（複合チャンス）。なお、提灯が中段にテンパイした際は複合14枚を獲得できないので、左リールにBAR下の提灯を狙い10枚で獲得する。

ブンちゃんにはBIG開始後スグに複合チャンスが訪れた。左リール中段に下にチェリーが付いている七をビタ押しすると…見事成功！

俺「うまっ！」
ブンちゃん「まあ、朝飯前っすわ」

このビタ押しによる複合14枚獲得手順にはリスクもある。

■2コマ早い…角チェリーのみ入賞で4枚
■1コマ早い…中段チェリーのみ入賞で2枚
■1コマ遅い…取りこぼしで0枚

ミスすると払い出し枚数が減ってしまうのだ。ビタ押し成功率が70%未満であれば、左リール第1停止で提灯を揃えた方がいいらしい。

のちにカラ回し→自動停止による複合14枚獲得法も発覚。しかしこれを実際のホールでやると、シマ中の視線が痛い。まるで「このチキン野郎」という声が聞こえてくるようだ。そのプレッシャーがイヤで、俺はまだハナビのシマから出られずにいた。

結局ブンちゃんは、このBIGで6回訪れた複合チャンスを全て成功。「まあこんな感じだね」と、得意げに笑ってみせた。

それから15分ほど経つと、今度は俺にチャンスが訪れた。
ここで少しだけ金魚すくいのルールを紹介しよう。

金魚すくいのルール
①金魚は左or右・両方から飛ぶ→右から飛べばキャッチ確定
②金魚の色は成立役ナビ→キャッチした色の対応役否定でボーナス確定
　赤…中段チェリー、黒…角チェリー、青…リプレイ、黄…提灯
　緑…涼、白…ハズレ　※金はキャッチ＝ボーナス確定
③ドンちゃんが壁に激突したり、キャッチできなければ失敗

黒金魚が右から飛んだので角チェリー確定…のハズが、左リールにBARを狙ったらズルッとスベって涼・リプレイ・涼が停止。「キャッチ失敗か」と思ったら、右リール下段にチェリー付きの七が停止した！中リールにはチェリー・涼・チェリーが止まり、伝統的な美しいリーチ目を形成。もちろんドンちゃんは黒金魚をガッチリキャッチしていた。恐る恐る1枚掛けでボーナスを狙うと、中段にドンちゃんが揃ってBIGがスタート。

ブンちゃん「さて、見せてもらいましょうか」
俺「ちょ、プレッシャーかけるのヤメてくださいよ」

投資はすでに18000円に達している。ホントは慎重に順押しで提灯を揃えるか、カラ回しで確実に複合14枚を獲得したい。しかし、ここで降りるわけにはいかない。目押しが上達した実感はある。ブンちゃんに見せつけてやろう！ハナビ世代だってヤレるってことを!! 1回目の複合チャンスは、BIG開始後スグに訪れた。チェリー上の七だ。コレを中段にビタすればいい。4周ほどタイミングを取り、意を決してストップボタンを押すと…それはそれは綺麗に七・チェリー・七が止まり払い出しは2枚に。

俺「くうぅ～」
ブンちゃん「ドンマイドンマイ」

1度目のJACゲームを終え、2度目の複合チャンスが到来。しかしコレも1コマ早く払い出しは2枚に。

俺「ダメだ。全然できない」
ブンちゃん「いや惜しいよ。1コマ早いだけ」
俺「すでに16枚損してるんですが…」

2コマ目押しのリプレイハズシは難なくこなせるのに、なぜビタとなるとこんなに難易度が跳ね上がるのか…。迎えた3度目の複合チャンス。祈るようにストップボタンを押すと、上段に角チェリーが止まって4枚の払い出し。つまり2コマのミスだ。

ブンちゃん「さっきよりヒドくなってんじゃん」
俺「いや、もうムリっすわ…」
ブンちゃん「ふはは、落ち込んでんの？」
俺「もうチンパンジーのほうが上手いっすわ」
ブンちゃん「い、犬ぅぅぅ、チンパンジーに負けんな(爆笑)」
俺「いやもう笑ってくださいよ」

結局、このBIGは380枚ほどの獲得で終了。6回訪れた複合チャンスは全て失敗に終わった。その後もブンちゃんとドン2を打ち続け…

ブンちゃん:BIG7回　複合チャンス：40回中ミスは2回のみ
俺　　　　　:BIG5回　複合チャンス：29回中成功は3回のみ

ブンちゃんには40回の複合チャンスが訪れ、失敗は僅か2回のみ。対して俺は…。実力の差をこれでもかと見せつけられた。

ブンちゃんはジョッキに半分ほど残ったビールを一気に飲み干し、俺の顔を覗き込んだ。

ブンちゃん「落ち込んでんの？」
俺「いや、もうドン2無理っス」
ブンちゃん「まー、複合ビタは難しいよなぁ」
俺「いや、あなたほぼミスってナイじゃん」
ブンちゃん「まーね。でも俺も最初はラッシーみたいな感じだったよ」
俺「マジすか？」
ブンちゃん「昔はリールの幅がもっと狭くて、今よりずっと難しかったの」
俺「はぁ、そうなんすか」
ブンちゃん「それでもビタとか要求されるから、できないと悔しくてね」
俺「はぁ…」
ブンちゃん「それでもずっと打ってたら、いつの間にかできるようになってた。目押しなんて慣れだよ」
俺「慣れですか…」

ブンちゃん「ラッシーもドン2諦めるんじゃなくてさ、しばらく打ってればできるようになるって」
俺「今のところ、全く気配ないですが…」
ブンちゃん「俺、ラッシーと行きたいホールあるんだ。だから早く上手くなんなよ」
俺「マジすか!? どこのホールですか？」
ブンちゃん「まだ内緒。今の仔犬ラッシーは連れていけないし」
俺「ぐぬぬ…頑張ります」
ブンちゃん「よっしゃ、その意気だ！奢ってやるからなんでも好きなもん頼め！」
俺「いや、アンタも負けたじゃないスか」
ブンちゃん「2千円負けなんて勝ったようなもんだろ」
俺「ふはは、ごちそうさまです」

すっかり「できるつもり」になっていた目押し。しかし、実際にはまだまだ初心者の域を出ていなかった。ドン2はそれを教えてくれた思い出深い機種である。昔の俺のように、目押しの上達に壁を感じている人は多いだろう。ブンちゃんが言う通り、俺も「目押しは慣れ」だと今になって思う。上達のコツは「しつこく打つ」こと。そして目押しの練習になるような機種に出会うことだ。この日以来、俺はしばらくホールとアルゼ王国6でドン2を打ち続けた。

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ラッシー: 代表作：パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-

山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本＆DX」や「パチスロ極＆Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。