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インタビュー・ウィズ・スロッター(稀にパチンカー)

インタビュー・ウィズ・スロッター(稀にパチンカー)

2017.01.09

こんな面白いものがあったのか! 実戦術ライター『貴方野チェロス』さんとパチンコの運命的な出会い前編!

あしの あしの   インタビュー・ウィズ・スロッター(稀にパチンカー)

チワッスあしのっす。 新年一発目の人間設定推測はこの方、ドン! 


『貴方野チェロス』さん!


今更説明不要かもしれませんが一応事前情報をブチ込んどきますと、古来よりパチンコ系のライターとして大活躍されている方で、現在はガイドワークスの『パチンコオリジナル実戦術』にてブイブイいわしておられるパツキンの兄貴です! 元エロマンガパンチさん、というとピンと来られる御仁もおられるやも。そう、あの人です。着床ッ!

いつもこの連載でインタビューする時はお相手と居酒屋かバーで膝ッ詰め状態で語りあう事にしてるのですが、今回は色々ミラクルが起きまして、編集長といっしょに、なんとチェロス氏のご自宅に伺ってお話を聞かせてもらう事に。なんじゃこれ! まずはその辺の話から行きましょう。

ちなみに今回は年明けスペシャルといたしまして、インタビューウィズスロッター初の前後編分割形式で行きます! それじゃ早速いくぜインタビュー! ヒア・ウィー・万枚&万発! あ、ちなみに今回普段とちょっと作風変えてます。 理由は後編にて。
 

 

★ほにゃららの名所

某日某所。 編集長と駅前で合流して目的のチェロスさん邸に向かうつもりだったのだが、予定の時間よりだいぶ早く到着してしまった。

知らない駅。知らない街である。折角なので何となく出そうな感じのスロ屋に入って2千円ほどジャグラーを打つもペカらず。つまらない気持ちで出口付近の喫煙所でタバコを吸っていると、目の前の自動ドアの方から名前を呼ばれた。

珍しくノー・マスクだったので一瞬誰だか分からなかったが、我らがパチ7編集長がきょとんとした顔で此方を見ている。


「あ、打ってたんすか」

「うん。勝ったよ」

「ああ……。おめでとうございます……」


自分もこの店で打ってました。とは敢えて言わず。 待ち合わせより早く到着しても連絡などせず、予定の場所の近くのパチ屋でギリギリまで時間を潰す。 いかにもギャンブラーの習性らしくてすこし恥ずかしかった。 無言で肩を並べて歩く。

編集長は普段から口数が少ない男なのだが、今日はいつにもまして薄暗い。


「なんか編集長、顔色悪くないですか」

「昨日めっちゃくちゃ飲んじゃってまだ二日酔いでさ。やたら具合悪いんだよね」

「なんかすいません……ついて来て頂いて……」

「いやぁ……流石にねぇ。今回は僕も監督しとかないと……」


なんせこれから会う相手は大御所である。

今回のインタビューは編集長経由でオファーして実現した経緯がある手前、放っといて自由にやらせるわけには行かないのだろう。大人の判断である。というか何気に緊張しぃな自分としては非常にありがたかった。


「てか、あしの君、なんでスーツなの」

「昼間別の仕事してたんですよ……。編集長も今日はマスクつけてないんですね」

「人んち行くのにマスクつけてたら危ない人だろ……」


駅前にてしばし立ち尽くす。 二日酔いでロボットみたいな動きになってる中年と、出張帰りで足がバキバキになってる中年。 疲れきった表情でしばし虚空を睨む。

やがて車道の向こうから白い車がやってきた。 運転席には金髪の男性が一人。思わず息を飲む。当たり前だけど、知っている顔だった。雑誌や動画で何度も見たことがある。エロマンガパンチさん。否。貴方野チェロスさんその人である。なんだか背中に冷たい汗が流れるような気がした。緊張とは少し違う。畏れに近い。

これは──佐々木真さんに初めて会った時にも感じたアレだ。と思った。

自分が好きなジャンルについて、自分がそれを知るより遥か以前から携わっていて、そして自分よりずっとずっと研鑽を積み、知識と技術を研ぎ澄ませ続けてきたファンタジスタ。 この人から嫌われる事はイコール、パチンコ・パチスロから嫌われる事だと、冗談のようだが本当にそう思った。

停車した車の助手席に編集長。後部座席に俺。乗り込んでまずは挨拶を交わす。 はじめまして。よろしくお願いします。こちらこそ。今日はよろしくね。そんな会話だったが、ICレコーダーも回してなかったしメモもとってないので詳しく覚えていない。ふわふわと現実感を喪失していく中、この会話だけ覚えてる。


「ほら、そこの団地。知ってますか? 自殺の名所」

「……え。なんすかそれ」

「◯◯団地っていうんだけども、昔そこ飛び降り自殺の名所だったんです。今はフェンスが設置されてて飛び降り出来なくなってるけど、何年か前も女子高生二人が屋上の──給水塔の所で並んで首吊ってたって」

「えぇ……マジすかそれ……」

「ホントだよ。ネットで調べたら出てきます。◯◯団地っての」

「自殺の名所……」

「呪いだ呪いだって騒がれてたけど、あれはね、呪いじゃないんです。自殺の名所って名前に誘われて、そういう人が来るわけだからさ。富士の樹海も……華厳の滝も、東尋坊も、みんなそう。呪いじゃなくて、そういう場所だ! っていうイメージとか、名前とか──マジックだね」


自殺者は自殺者を誘う。 呪いなどではなく、自殺者が多いという情報がある種の安心感を生むのだろう。 要するに、ここなら安全に死ねる。あるいは、仲間が沢山いる。 人は死に際においてすら、何かしらの同類項や、公約数に入りたがる生き物なのかもしれない。

車内の同類項。 三人の日本人。あるいは三人の中年男性。もしくは三人のギャンブラーを乗せた車はやがて、華奢な門構えの一軒家に到着した。貴方野チェロスさんの家。 ──通称「パチンコ博物館」である。
 

 

★博物館学概論

「おじゃましま……うぁッ! なんじゃこりゃ!」

「うわ、すげえ。何ですかこの家……!」


玄関口の鴨居を潜り、三和土で靴を脱ぐより前に、我々は思わず感嘆した。 向かって奥のリビングらしき部分に続く廊下に、堆くパチスロやパチンコが積まれたり並べられたりしている。あるものは機種名が記載されたダンボールに入れられた状態で。あるものは今まさにホールから切り出してきたように剥き出しのまま──。
 


「うおぉぉ。噂には聞いたことがありましたけど……こりゃあ尋常じゃないですね……」

「ヤバイ。あしの君、なんか変なゲームがあるぞ……パチンコサッカー……!?」

「ゲェッ! エコトーフがある! うわ、打ちたいッ!」

「こっちイレグイあるよ!」

「楽園か!」
 


子供のようにはしゃぐ我々を笑顔で眺めながら、チェロスさんは満足そうに頷いて、なにか打ちたい台があったら用意するから言ってね、と呟いた。

しばしの間キャッキャウフフと子供のようにはしゃぎながら屋内を物色していると、チェロス氏が畳み掛けるようにこう言った。


「ちなみに、二階にもいっぱいあるからね」

「二階ッ!? ちょっと、行きましょう編集長!」


意気揚々と階段を登ると、二階は更にすごい事になっていた。 部屋というよりもはや倉庫である。どこもかしこも、隙あらばパチンコ台やパチスロ機をねじ込んでやろうという気迫すら感じられる。

物色しながら、一番奥の部屋を覗いた時、何故だかぞわり……と、二の腕が粟立つような感触がした。

部屋の両脇に、数多の──果たして何台あるのかすら丁寧に数えないと分からないほどのパチンコ台が積み上げられ、そのいちばん内側の台が、壁面の如く内側に向けて、斜めに立てかけてあった。

この形はどこかで見たことがある。 暫く考えて俺は膝を打った。 これは中世のローマ教会建築様式──ヴォールト造りの側廊にとても似ている。 ああ、神殿だ、と思った。 ここはチェロス氏が作った、チェロス氏のための神殿なのである。

パチンコで作られた中央通路。 その奥の最も神聖な場所には一台のパチスロ機がうやうやしく掲げられていた。 まるで聖櫃や、聖母のピエタや、あるいは苦悶するイエス像のように。 チェロス氏の神殿の聖体。それは──。
 


「ハナハナ-30」(※パイオニア)である。

何かを感じ取って立ち尽くす俺と編集長。 背後からチェロス氏の声がした。


「ああ、これはね。特別な台なんです」

「……ハナハナが、ですか?」

「そう。これは、パチテレの『マニアの遺言』の初回に打った台なの」

「マニアの遺言……」


チェロス氏がまだエロマンガパンチと名乗っていた時代から連綿と続く長寿番組である。 聞けば、目の前の祭壇に掲げられし聖なるハナハナは、その初回放送時にピックアップされた伝説の台らしい。
 



「ランプが割れてるでしょ?」

「ああ……割れてますね……」

「これね、大切にしてた台なんだけど、マニア初回のロケがイマイチ面白くならんくてさ。なんとかしよう思って、一緒にやってるマスクドモリタさんに道端で倒して貰ったのよね。 そしたら予想以上の衝撃でランプが割れちゃったの」

「大事な台なのに!?」

「そうだよ。でもね、そんな大事にしとる台を傷つけてでも盛り上げてやろう! って気持ちがスタッフ全員に伝わった結果、ああ、こいつはそこまでこの番組に賭けてるのかと。だったら皆で力になってやろうやないかって、そういう意思疎通が出来たんよね。結果、その番組が今でも続いてるの。──だからね、このハナハナには本当に感謝してるの。本当に、特別な台なんです」


特別な台。 パチンコやスロットの台で出来た神殿に掲げられる、上ランプの割れたハナハナ。 功労者として。あるいは恩人として。定期的にメンテナンスを行い、いつでも、誰が来てもすぐに打てるように。遊べるように──。

味わい深いエピソードである。 思えば、俺が初めて触ったパチスロ機もまたハナハナであった。

厳密に言うと他にもチョロ打ちしまくってたが、初めて当たって、ちゃんと景品交換できた台はこれが初めてである。 当時パチンコしか知らなかった俺とスロットとの出会いの一台。 言い換えれば、俺もまた、ハナハナで人生が変わったと言っていい。 合縁奇縁。 ランプの割れたハナハナ──。

このハナハナのハイビスカスは、あの頃のまま輝くのだろうか。 十六年の時を経てもまだ、俺はこのハイビスカスを、美しいと思えるのだろうか。 このままレバーを叩けば、廻るタイムマシンに乗って、あの青春時代に戻れはしないだろうか。

何となく感動して、台の表面を撫でている俺の耳に、編集長のこんな言葉が耳に入ってきた。


「ふーん。チェロスさん、これ、何バージョンすか?」


──貴方野チェロス氏のインタビューは、こうして始まった。
 

 

★幼少期の話

しばし後、リビングにて。

テーブルを三角に使って座りながら、ICレコーダーをセットする。 手前は何もお礼を持ってきてないクセに頂いたお茶を飲みつつ、まずは挨拶。


「えー……此の度は……すいません手ぶらで」


とりあえず謝る俺。編集長もバツが悪そうに頭を下げる。 迂闊で礼儀知らずな中年二人に苦笑いを浮かべつつ、チェロス氏は頷いた。


「まあ、それはいいとして……いつもお酒とか飲みながらやってない?」

「インタビューっすか?」

「うん。毎回飲んでるよね」

「ああ……はい。確かに。あれ? なんで知ってるんですか?」

「全部読んだもん。てかあなたの作品全ッ部読んだよ」

「ええ!? 恐悦! マジすか!」

「ホントに読んでるよ。なんならセブンラッシュの頃から読んでる。ホントだよ? だからこのインタビュー受けることにしたんだもん。俺、あなたの事天才だと思ってるからね」

「……!?」


そう言えば、以前マスクド・モリタさんのインタビュー記事をアップした時、チェロス氏は間髪入れずにTwitter上で記事を褒め、そして拡散してくださった。

その流れがあったからこそ編集長経由でダメ元でオファーをし、そして今回のインタビューが実現しているのだけれど、いくらなんでも全部読んでくださってるとは全く思わなかったので、いきなり腰が抜けそうになった。

顔を真赤にしながら照れ笑いする俺を尻目に、編集長が首を振る。


「ダメですよチェロッさん。こいつあんまり褒めないで下さい。調子乗るんで」

「なッ……編集長……! 俺がいつ調子に……!」

「今乗ってるじゃん。めっちゃ乗ってる顔だよ。褒められて当然くらいの感じでしょそれ」

「クッ……昨日の酒抜けてねぇのか……!」


ちなみに事前情報ではチェロスさんはあまりお酒を飲まない人、という事だったので敢えて何も用意しなかった部分もあるのだけれど、ついでにそこも聞いてみた。


「チェロスさん、お酒飲まれるんですか?」

「飲むけど、そんなに飲まない。俺は飲めば飲むほどつまんない人間になるから」

「オウフ……」

「飲まなきゃダメな時は飲むよ。あと淫乱な女が来た時も飲む」

「チェロスさん……ご存知かとは思いますが、全部そのまま書きますからね……」

「いいよ全然。全ッ部そのまま書いてください。つつみ隠さず」

「了解ッス……。じゃぁ……淫乱な女……と。メモまで取りましたよ……。オーケー。そうっすね。では、つつみ隠さず……子供時代の話から聞いていいですか?」

「なんでも聞いてください」
 


「生まれはどこですっけ? イントネーションは関西ですよね」

「関西っていうか中部だね。愛知県の岩倉市って所。そこに19歳まで居ました」

「ご両親はお元気ですか?」

「セツコ(母)は元気だよ。父はだいぶ前に死にました」

「……ああ、なんかすいませんホント」

「いやいや。全然いいよ。てか父の記憶ないんですよね。セツコと父は俺が一歳の時に離婚してるから」

「あ、そうなんすね。ああ……そりゃあ、記憶ないですねぇ」

「うん。記憶……ん。ちょっとまった。ある。ああ、あるよ父の記憶。あのねぇ、えーっと──」


暫く何かを思い出すように顔を顰めるチェロス氏。 それから遠くの──我々には見えない何かを見つめるようにして語り始めた。


「あのね、夜です。アパートに帰る途中でさ。車の中なんだけども、俺は母に抱かれてて──。夫婦の会話なんにもなくて、静かでさ。運転席に父が座ってるんだけども、月明かりが逆光になってて、シルエットだけ見えるの。見上げるようにして、影だけ。影だけです──。それが唯一の記憶ですね。父の。顔も分からんし、声も分からんけど、シルエットだけ」

「それ、一歳の時……ですよね」

「そうなりますね。下手したらもっと前かも」

「すげえっすねそれ……。それから、お父様とは……」

「全く。なんもない。25か26の頃、いきなり死んだって聞かされて。なんか法的に遺産を受け取る権利があるからって母に連絡きてね。向こうの親族から『放棄してくれんか』みたいな……」

「……どうしたんですか?」

「いらんって。セツコにも相談されたけど『母さんが要らんならええんちゃう?』って。そして放棄したら向こうの親族から、お礼だって幾らか貰って。俺も30万くらい貰ったんだけど、できるだけくだらねぇ事に使ったろうって決めて──」

「何に使ったんですか?」

「歌舞伎町のトランプ出る機械。できるだけ価値がない事に使ったろうって。もう負ける気まんまんで行ったよ。やった! 30万も負けられる! って。ホント。一晩か二晩くらいで全部使ってやった。──父のエピソードはそれくらいだなぁ……ごめんね、薄くて」

「いや、ポタージュスープ並みに濃いです。ありがとうございます──。お母様はどんな方ですか?」

「どんな方──。凝り性だね。俺もなんだけども、これって決めたらずっとやってる。ボンバーマンとかチャンピオンシップロードランナーとか。ホントひたすらやってましたね。天才プレイヤーですよ。一機も死なずに三周くらいするんだもん。あとは──」

「あとは?」

「競馬。馬が好き過ぎて北海道までサラブレッド見に行った事もあるって。俺が産まれる前ですけど。それからセツコは……そうだなぁ……セツコは──」


チェロス氏はそこでお茶を飲んで、小さく息を吐いた。 セツコはね、と呟く。


「育児放棄してたんですよ。俺を」

「……なんと」

「放棄は言い過ぎかなぁ……。当時は親族五人で生活してたんだけども。一緒に住んでた親族の一人が、俺の面倒をすごく見たがる人で。育ての親みたいな役をやってくれていて。俺も最初はそっちに懐いてたの。母親としては面白くないよね。この子なに、可愛くない。って」

「ああ、そりゃロードランナーばっかりやるかも」

「でしょう。そんで、その育ての親みたいな人もね、すごく過保護というか、面倒見が良い人で、全部やってくれてて。最初はそれで良かったけど、ある時に子供ながらに『これは違んじゃないかなぁ』ってなって。なんだろう。育ての親は──。なんていうんだろうなぁ。レールに乗っけようとするんですよね」

「レールって言うと……勉強して、いい大学行って……みたいな感じですか?」

「ちょっと偏ってる人だったんだよね。自分の思うように育てようとしたんだと思う。この子はこういう風になればええって。それに俺はなんか違うんじゃないかって。反発して、それからちょっとおかしくなったんです」

「おかしく……?」

「そう。おかしく。ドロップアウトしていくわけです。それを見てセツコは反省したそうです。この子はこのまま放っといたら、重大な犯罪を犯すんやないかって。この子はこのままこの家にいたらイカンって。それで俺が19の時、セツコが思い切って貯金を叩いて、マンションを買って──俺を連れて育ての親の所を出るんです」

「おお──。いきなり母性が発露するわけですね」

「そう。私がどうにかしてあげんといかんって。俺を連れて──。19でいきなり母と二人暮らしですよ。でもね、一緒に住んでた親族からすると面白くないよね。手の掛かる所だけ他所に任せて、手が掛からんくなってから、二人で家を飛び出してるように見えるわけだし。だから、風当たりはとても強かったんちゃうかと思うのね」

「──ディープ過ぎてなんも言えねぇ……」

「セツコは逆風の中、何言われても、この子はもう他に任せておけんと。私がこの子をちゃんとした人間にしてあげないといかんって。そして実際にそうしてやらせてくれたんです。俺がやりたい事を、言いたいこともあったかも知れんけど、やらせてくれたんです」

「自由……」

「そう。自由です。迷惑も掛けてしまったけど、そうやって好きなことをしてるうちにだんだん精神的にもマシになってきましたね。それまではホントにクソみたいな人間だったんですけども──」

「どんなクソみたいな感じだったんでしょう」

「なんていうかねぇ……人の温かみが分からない人間になっとったね。自分だけ楽しかったり、気持ちよかったりすればええみたいな。それが一年、二年するうちに段々と、人間らしい、温かみみたいなものが、ちゃんと分かるようになってきて」

「リハビリ、みたいな感じだったんでしょうか」

「そうだね。リハビリでしたね。──それから、誰と接する時も互いにウィンウィンに……あぁ、いや、これはちゃうな……相手かな。何をするにも、相手がまずハッピーでいる事を第一に考えるようになったの」

「相手っすか」

「そう。相手だよ。自分が気持ちよくなりたかったらまず相手の気持ちよさを考えるの。性奴隷とかと一緒よ」

「性奴隷……!」

「ある時それに気づいて──。一気に優しさに片寄った。そう。優しさ。俺優しいんだよ!」

「うぉ、どうしたんですか」

「ホントに俺優しいから。そういえばまだドロップアウトする前の、小学校の頃とかも、俺イジメっ子大嫌いでさ。イジメられっ子と仲良しだったもん。そんで俺、小学校で権力あったから──」

「スクールカースト……!」

「そう。カーストの上位だったからね。俺と仲良くしとると、イジメられっ子もいつのまにかイジメられんくなってたからね。それはそれで片寄っとるのかも知れんけど、基本的に優しいんだよ俺……でもその優しさの表現の仕方とか、表への出し方が、良く分かっとらんかったのだろうね……」

「な、なるほど……」

「さっきの、育ての親もね。八年くらい絶縁しとったんよ。ずっと俺の考えを辛抱強く話してても何も分かってくれんから。もうダメだと思って。でもね、ある時、決してそういう事をいう筈がない人なのに、向こうが謝ってきてたんです」

「なんて言われたんですか?」

「私が悪かったねって。あんたを、自分の枠に嵌めようとしてたって。あんたのことを第一に考えてなかったのかも知れんって」

「和解……!」

「ね。人は何歳になっても変われるんやと思いました。それからは、育ての親をしてくれていた人とも凄く仲良くさせて貰ってます。向こうも変わったし、俺も変わった。人間何をするにも、遅すぎる事はないんです。大事なのは相手のことを第一に考える事。愛すること。仲良くする事なんです!」

「──めっちゃいい話!! ラブ・ザ・ワールド!」


思わず拍手しそうになる俺。 横で聴いてた編集長も自分の顎を撫でながらうんうんと頷く。 そしてこのタイミングで俺は気づいた。 パチンコのことを何も聞いてないことに。
 

 

★パチとの邂逅

「チェロスさん──。あのぅ。いきなり話が変わってアレなんですけども、聞いていいですか」

「もちろん。なんでも聞いて」

「この流れで聞くのもどうかと思うんですが、パチンコを初めて打ったのはいつですか」

「中3の頃だねぇ。友達がめっちゃパチ打ってて、そいつに連れてかれました」

「やっぱ早いっすね……何打ちました?」

「栄駅の近くのパチ屋だったけど、最初何打ったのかなぁ……。なんかオレンジ色の台やったと思う。友達はスーパージャンプ(※京楽)で6000円勝ったんだけども、俺は光の速さで2000円くらい負けてめっちゃキレた」

「キレましたか」

「めちゃくちゃキレたよ。日本中のパチ屋燃えろと思ったね」

「優しさどこいったし……! いや……まだリハビリ前か……。それからパチにハマった感じですか?」

「いや、ハマんない。キレ過ぎて二度と打つかと思ってたね」

「ホント怒ってますね……。一体その状況からどうやってパチに目覚めたんでしょう」

「うんとねぇ、高1の夏だね。あのねぇ、これ凄くいい話だから心して聞いてね」

「はい。わかりました」

「俺ねぇ、エロいんだよ」

「……はい」

「小学校の頃からドスケベだったのね。……あのさ、小学校の女子の洋服って、ワキの所からオッパイ見えるじゃないですか」

「……編集長、これ書いてオーケーすか」

「審議かなぁ……。うーん。まあ、いいんじゃない?」

「ゴーサイン……! はい。見えますね。オッパイ見えます」

「ね。見えるでしょう。俺、学年の女子のオッパイほぼ見ましたからね。いや、ほぼじゃないね。全員見ました。コンプリートですよ」

「ワキからのオッパイをコンプ……!」

「そう。達成したなぁ……。で、そんなだから、高校にもなるとエロビデオ見たい欲がえげつない事になってて」

「ああ……分かります。とても良く分かります」

「あしの君の時はもうインターネットとかあったの?」

「いや。俺の高校時代はギリギリまだですね。やっぱエロビデオを仕入れるのには苦労してましたよ。ラッキーな事に友達の兄貴がウラビデオをガッツリ持ってて、それ借りて凌いでましたけど。ちなみに友達の名前ウラ君って言うんですよ。嘘みたいなホントの話」

「ああ、恵まれた環境だ……。俺の周りにはそういう人は居ませんでしたから。もう創意工夫ですよ。どうにかして年齢を偽ってビデオ屋の会員カードを作るしかないから。工夫です。今思っても天才的な発想だと思うんですけども、こう……保険証をコピーするじゃないですか」

「……ええ」

「でね、生年月日の所をホワイトで消すんです」

「……はい」

「で、当時のカセットテープには、文字とか数字とかのシールがついてたの覚えてます? あれをこう──」

「……編集長、これ書いて大丈夫?」

「いいよ……」


ともあれ、こうして、19歳の高校1年生、チェロス少年が誕生する。 念願のビデオ屋の会員カードをゲットし、意気揚々と自宅に戻る氏。


「その時借りたエロビデオのタイトル覚えてますか?」

「覚えてますよ。『まるで乳の人』でしたね」

「ゲフッ。やばい鼻からお茶出た……。ああ、ピンクなタイトルですねぇ……」

「ロマンあるよねぇ……」

「てかパチンコの話っすよね」

「パチンコですよ。こっからです。こっから。あのね、『まるで乳の人』を抱えて家に帰ってる途中に、パチ屋のネオンが見えたんですけど、気づいたの。あ、俺今19歳だ。って。高1だけどね実際は。でもビデオ屋のカードも持ってるし、なんか大人なんです。気分が」

「おお……!」

「梅島センターって名前のパチ屋だったけど、なんかもう運命に誘われるようにふらっと入って初代マジックカーペットの7&13の方に座って──。ほんとたまたま選んだだけだったんだけど、ここで800円が1500円になったのね!」

「うわ、勝った!」

「もう、世の中にこんッなに面白いものがあったのか!! って。衝撃やった。めっちゃおもろかった」

「負けた時あんなキレてたのに!」

「そうなの。たぶんね、その負けがあったからこそです。初っ端だったらそんなに感動してないんですけど、負けてキレて二度と打つかくらいに思ってる所でようやく乗り越えたというか──なんかその日、たったの一日で、俺はエロとパチンコの両方を手中に収めたんです」

「うわすげえ。今のキャラが一日にして突然!」

「ええ。あの日は本当に、人生が変わった一日でした……」


──そしてその直後、母セツコから受け継ぎし異常な凝り性の血がチェロス少年の中で炸裂するのである!

次週! インタビューウィズスロッター「貴方野チェロスさん編」後編! 怒涛の展開に乞うご期待──! シー・ユー・ネクスト・万枚&万発、だ!
 

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あしの
代表作:インタビュー・ウィズ・スロッター(稀にパチンカー)

あしのマスクの中の人。インタビューウィズスロッター連載中。元『セブンラッシュ』『ニコナナ』『ギャンブルジャーナル』ライター。今は『ナナテイ』『ななプレス』でも書いてます。

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