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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2023.08.15
魔力を纏いしマシン~パチスロ蒼穹のファフナー①~
天国のゾーンを抜け腕時計を確認すると、すでに開店から7時間が経っていた。頭上のデータ表示器を睨みつけながら、ポケットから取り出したガムを一粒、口の中へと放り込んだ。
感触としては悪くない。最低でも中間はあるハズだし、まだ設定6の可能性も無くはない。それでも追加投資が続いているのは、単純に俺が〝ヤレていない〟からだろう。
極めて難しい機種。
▲5号機「パチスロ蒼穹のファフナー」(SANKYO)
2014年の末ごろにSANKYOがリリースしたART機。リアルボーナスは搭載しておらず、ARTのみで出玉を増やすタイプだ。
ART「蒼穹作戦」は純増約2.2枚/Gのゲーム数管理で、レア役による直乗せや特化ゾーンによる上乗せもアリ。なお、ART中のレア役成立時は擬似ボーナスや特化ゾーンの抽選も行われ、それらと直乗せの重複当選もある。
この機種において特筆すべきは2点。
1つ目は筐体上部の巨大な回転体役物で、これが作動すればいかなる状況下でも期待度約55%超の大チャンス。ゲーム内では大量上乗せを期待できるシーンなどで作動する。
2つ目はMB中のみ成立の可能性がある同化ベルだ。同化ベル出現もレア役扱いとなるため、ここぞの局面でMBが入賞すると「次ゲームで同化ベル来い!」とアツくレバーを叩けるわけである。言うなれば狙ってレア役を引ける感覚に近い。
また、アーティスト「Angela」が歌う楽曲の数々も大きな魅力の一つ。というか、それら楽曲なしには本機を語れないほど、BGMが演出面にもたらす影響は大きい。このBGMを聴きたいがためにファフナーを打っていたプレイヤーも多いことだろう。
極めて難しい機種だ。
内部システムが難しいという意味もあるが、シンプルに勝つのが難しい。そもそものART性能が、現役の他機種に比べ低めだと感じている。もちろん爆裂トリガーも複数備えてはいるが、トリガー非経由のARTを大きくのばすことは難しい。
純増は約2.2枚/G。
加えて上乗せ性能もそこそこ。
キツい言い方をすれば時代遅れ。
市場に北斗転生やスーパービンゴネオといったAT機が登場し、5号機では難しいとされていた万枚も珍しくなくなった。ライターの先輩・後輩から「2万枚出た」と報告を受けることもたびたびある。
そんな時代なのに、この機種はどうか。導入以来打ち続けているが、万枚の〝ま〟の字すら見えやしない。『信じられねえ! 今日の俺どうしちまったんだ!?』みたいな無双状態に入っても、せいぜい3,000枚~4,000枚という機種である。
当然「そんな機種打たなきゃいい」で済む話なのだが、コレが悔しいかな面白い! なんと言うべきか〝玩具としての性能がケタ違いに高い〟のである。もはや出る・出ないとか、勝てる・勝てないの話ではナイ。
他機種では味わえない興奮を与えてくれるのである。
回転体の魔力。
『ピピン、ピピン、ピピピピピン♪』
隣の台から聞こえてきた〝この音〟。これが俺を狂わせた元凶。自分の台に向いたまま横目で見ると、高齢の男性が拳を握りながら筐体上部の役物『回転体』を食い入るように見つめていた。
『バキーン、チャンス!!』
高齢男性「行け! 行け行け!!」
第1段階はクリアしたらしい。あとは〝表面上〟1/2を突破すれば……
『ぐああっ、くっ…』
台から登場人物の苦悶する声が聞こえた。少し暗くなった液晶画面を睨みつけた男性は、スゥーッと大きく息を吸い、拳でガツンガツンと回転体を殴った。そして、その勢いのまま頭上の呼び出しボタンをも殴りつけた。
――「………(いやいや、ヤメとけよジイさん)」
30秒ほど経つとバイトと思しき店員がやってきた。
店員A「お客さま、どうされましたか?」
高齢男性「Vに入ったけど当たってねえんだよ!」
店員A「えっ?」
高齢男性「だ~か~ら、このVに玉が入ったのにハズれたんだよ!!」
店員A「しょ、少々お待ちください」
店員は自分では処理できないと判断したらしく、インカムで応援を呼んだようだ。ほどなくバイトと思しき店員とは違う制服を着た2人の男が駆け付けた。
店員B「お客さま、本当にVに入ったんですね?」
高齢男性「入った! 確実に入った!」
店員C「失礼ですが、見間違えではないでしょうか?」
高齢男性「んなわけねえ! この距離で見てんだぞ! 間違いなく入った!!」
店員BとCは互いに顔を合わせ、目でサインを送りあっている。
店員C「お客さま、この役物は〝演出〟でして…」
懸命に仕様を説明し、納得してもらおうと頭を下げる店員C。この機種には、たびたびこういう客がいるのだろう。その対応から、少し慣れているようにも感じられた。
店員C「……ご納得いただけませんか?」
高齢男性「できるか! Vに入ったんだ! 保証しろ!!」
店員BとCは諦めたように頷きあい、ゆっくりと立ち上がった。
店員B「それでは事務所までお越しください」
高齢男性「あったりまえだ! この野郎!」
強気な口調とは裏腹に、高齢男性の足はブルブルと震えていた。ウソをついている自覚はあるが、もうあとに引けないのだ。Vに玉は入っていない。そう認識していながらも、ゴネれば金が返ってくるとでも思ったのだろう。
あの高齢男性も、この回転体に魅せられてしまったのかもしれない。しかし、知識がないゆえに過ちを犯した。おそらく、かの男性をこのホールで見ることはもうないだろう。
回転体の正体。
高齢男性に勝ち目はない。
回転体役物は二重構造だ。回転体の右に位置するルガーランス役物から放たれた玉は、まず外側の大きな回転体に入る。その中には「NEXT」と「ハズレ」の穴が交互に配されており、「NEXT」に入れば第一関門突破。玉は内側の回転体へと移動する。
内側の回転体も同様で、「V」の穴と「ハズレ」の穴が交互に配されている。そこで「V」の穴に入れば、晴れてARTの大量ゲーム数を獲得…というわけだ。つまり、まずは外側の1/2(50%)を突破し、その後に内側の1/2(50%)を突破する必要がある。
ここで矛盾に気付く人も多いハズ。既述の通り、役物作動時の期待度は約55%以上。しかし、外側50%⇒内側50%なのだから、普通に考えれば役物作動時の期待度は一律25%でないとおかしい。
加えて外側の回転体をすっ飛ばし、いきなり内側の回転体に玉を投じるSPルートも存在する。その期待度は約80%。物理的には50%でないとオカシイが約80%なのだ。
要するに回転体役物は〝演出〟。
悪い言い方をすればヤラセ。
一見するとパチンコのハネモノの回転体と変わらないが、これはあくまで演出用のギミックにすぎない。単純な話だ。
当る際は「NEXT」を通って「V」に入るタイミングで玉を射出し、逆にハズレる際は「ハズレ」穴に落ちるタイミングで玉を射出すればいい。しかし、玉が通るのは液晶内のバーチャル空間ではなく、物理的な役物の中だ。
射出タイミングだけで完璧に入る穴を制御することはできず、意図せず「NEXT」や「V」に玉が入ることもあるだろう。当然、そんなイレギュラーを防ぐための策も講じられている。
〝入ってはいけない穴〟の前に、人がギリギリ気付けるか否かの透明な〝薄い板〟を出すのだ。いくらタイミングよくV穴の前に玉が来ても、レバーで「当り」を引き当てていなければ薄い板が邪魔をしてV穴への入賞を阻むわけである。
その逆も然り。レバーONの時点で「当り」と決まれば、玉がハズレ穴に入るのを〝薄い板〟が防いでくれる。要するに役物のカタチをしているが、その実は液晶演出となんら変わらないのである。
予想通り、導入当初この回転体はSNSで話題になった。
「役物ヤラセかよ、がっかり」
「ただの演出かよ」
「ヤラセならあんな役物付けんなよ」
否定的な意見が目立ったが、そういった意見が消えていくのは思いのほか早かった。単純にヤラセだと失望して去った人も多かったのだろうが、同時にこの回転体のアツさに気付いた人も多かったのだろう。
そう、俺もそのアツさにヤラれた1人だった。
伝わる熱量。
開店から9時間が経過した。
ずっと差枚数プラス域をキープしていたが、いよいよ大ハマリを食らい総投資は3万円に達している。調子がよかった共通ベル出現率も低下し、もう高設定と言い張るには無理がある状況だ。
ここから安いARTを当てたところで状況は変わらない。何かトリガーを引かなければ、チャラのラインに浮上することさえ難しい。ともなると、狙うは上位CZ「Vバトル」だ。
ファフナーの通常時を説明するのは少々難しい。
規定ゲーム数到達時は、上位CZ「Vバトル」かART「蒼穹作戦」が約束される。もちろんVバトルはCZのため、ARTに入れられる保証はナイ。ならばART直行のほうが良さそうに思えるが、単純にそうとも言い難い。
VバトルのART期待度は、均せば約40%と少々厳しい。しかし、クリアすればARTの150G以上スタートが約束される。これがファフナーにおいて最も現実的なトリガーだ。
対して下位CZ「乙姫覚醒」や規定ゲーム数から射止めたARTは、初期ゲーム数決定ゾーンからスタートするが、保証はたったの30G。言わずもがな30Gスタートからロング継続まで育てるのは難しい。
ゆえに総投資が大きくなると、どうしても150G以上スタートを期待できるVバトルに〝すがらざるを得ない状況〟になるわけだ。Vバトルで敗北すれば何も残らない。それでも…
奥歯をギュッと噛み締めたまま打ち続けると、800G台で前兆挙動がスタート。そして、ほどなく…
――「行けっ! 行ってくれ頼む……行ったーーー!!」
ファフナー特有の前兆演出「出撃クライマックス」に発展。出撃クライマックスは1フェーズ4G継続で、4G目のPUSHボタン押下で成功すれば次のフェーズへと継続する。そして3フェーズ目のPUSHボタンを乗り越え4フェーズ目に到達すればVバトル確定だ。
言うなれば最大16G継続する連続演出で、成功しても出てくるのはCZ。これを長くてウザいという人もいるが、ファフナー打ちにとってはこの演出こそが堪らない!
Vバトル確定の4フェーズ目。意を決して機体に跨り出撃する少年パイロット! そして、同時に流れてくる美しいAngelaの楽曲。開発陣の行き過ぎともとれる原作愛がひしひしと伝わってくる。ART確定でもないクセに、気分は文字通りクライマックスに達するのだ!
――「頼む! Vバトル行ってくれぇ!!」
唯一無二の確定パターン。
緊張の3フェーズ目最終ゲーム。PUSHボタンを押すと、無事に突破して4フェーズ目へ。そして待望のVバトルに突入! ちなみに規定ゲーム数はVバトル失敗時もリセットされるため、また通常時を0Gからやり直す羽目になる。まさに背水の陣。
Vバトルのルールは簡単。味方のエナジーは5個で、通常リプレイ入賞時に減算抽選が行われる。そのエナジーが尽きる前に役物でV入賞されれば150G以上のARTが約束され、逆にエナジーが尽きれば敗北⇒通常時へ…という流れを辿る。
役物はリール上でV図柄が揃うと作動する。カットインが発生すればV揃いのチャンスで、V揃い出現率は1/16.7。平均継続ゲーム数は分からないが、リプレイによるエナジー減算は頻繁に起こるため、あまり長くはもたない。
早めにV揃いを引いて役物によるV入賞をキメるしかない! すると、開始早々にカットインが発生! しかし、残念ながらVは揃わず!!
――「ぐうぅ~、クッソが~」
その後、2G立て続けにリプレイを引いてエナジーを2つ失ってしまう。
――「ヤバいヤバい! マジで敵だけ簡単に攻撃当ててズルいって」
少し間をとり呼吸を整えレバーを叩くと、期待通り2度目のカットインが発生! が…
――「ぐぅ~、揃わねえ!! 頼むってマジで!」
そしてリプレイを引くと、容赦なくエナジーを削ってくるフェストゥム(敵)。
――「マジで攻防のバランスが釣り合ってねんだよ」
一方的にボコられてあっという間に終了ということも珍しくない。並みの機種ならそのバランスに愛想をつかすところだが、報酬が150G以上のARTともなれば、多少の理不尽も我慢できる。
ついには残りエナジー1まで追い込まれ、いつ負けてもおかしくない状況に。これで負ければ、ここまで約10時間が無に帰す。いや、むしろマイナス! 37,000円の大敗だ。全額返せなんて言わない。せめて一矢だけでも報いたい。そう思いレバーを叩くと……
――「きたー! 強カットイン!!」
強カットインのV揃い期待度は約86%。ちなみにV図柄がダブルラインで揃えばV入賞期待度 約80%のSPルートとなるのだが…
――「いや、シングルでもいい! 頼むっ!!」
恐る恐るリールと止めると、なんとかシングルラインでVが揃った!
――「おっけおっけ! で、ルガーランスは…」
役物作動時は忙しい。見るべきポイントが多いのだ。まずは玉の射出タイミング。これまでの実戦上、外側の回転体の「NEXT」が真下に来たタイミングで射出されれば第一関門突破の可能性が高いが…
――「よし、タイミングどんぴ!」
予想通り玉はNEXT穴に吸い込まれ、内側の回転体へ。そして…
――「あ、ああ…き、きた! 薄い板キター!!!」
ハズレ穴の手前に音もなくスーーーッと〝薄い板〟が出現!! それを目視で確認した瞬間、脳内に何かがジュワーっと広がるのを感じた。
玉はハズレ穴の前でさり気なく立ち往生し、次いで流れてきたV穴へと吸い込まれた。
「デューーーーン、バキュキュキュキュ~ン!!」
液晶にデカデカと表示される+150の文字。
――「くぅ~、SANKYO~! 天才かよっ!!」
音もなくひっそりと現れる、視認できるかどうかギリギリの透明な〝薄い板〟。それの登場に、これほどまでアツくなれるとは!! ヤラセだからこそ生じる異端の確定パターン。ガチンコ抽選ならこうはいかない。
――「っしゃ、せめてチャラまで…いや、半分は取り戻す!!」
約20分後―――
ART終了画面に表示された「406枚」の文字を見て頭を抱えた。
――「いやぁ…ファフナー、ムズすぎるってマジで」
この日は残念な結果となったが、このわずか数日後、何気なく打ったファフナーがドラマを生むこととなる……
つづく
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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大学生時代10スロのファフナーを連日シバキ倒していた思い出(泣)
相当打ったけど最高記録は最強特化のフェストゥムRUSH2回で4,000枚程度でした、、。