最遅デビューの魔法おじさん～SLOT魔法少女まどか☆マギカ～【前編】

ラッシーパチスロワイルドサイド-脇役という生き方-

右手のパーカーの袖を中指と薬指でギュッと掴んだ。そのまま呼び出しボタンに手を伸ばすと、右腕は産まれたての小鹿のようにガクガクと震えていた。隣の席で遊技している後輩の編集Yは、心配そうに俺を見つめている。

店員「はい、どうされました？」
――「大変申し訳ないのですが、この〝ひざ掛け〟を1枚貸していただけませんか？」

台間に貼られた「貸出グッズ一覧」のブランケットを震える指で差した。パチスロを打ち始め十余年。雪国でパチスロを覚え、雨の日も雪の日もパチスロを打ってきたが、寒さに耐えかね〝ひざ掛け〟を借りるなど初めての経験だった。

店員「ブランケットですね？寒いですか？エアコンの温度も上げましょうか？」
――「………いえ、エアコンは結構。ぶ…ブランケットがお借りできれば」

エアコンの設定温度を上げることは憚られた。俺1人の都合で室温を上げることなどおこがましい。

店員「分かりました、お待ちください！」

ガタガタと震える身体を、両腕でギュッと抱きしめた。店員が去ると、間髪入れず後輩Yが俺の顔を覗き込んだ。

編集Y「ほんと大丈夫スか？今日はもうヤメます？」
――「な、なんでだい!? ぜ、ぜ……全然平気よぉ!!」

ここまでの時間と投資額をムダにするなど冗談じゃない。

編集Y「いや、どう見ても平気じゃないんスけど」
――「ちょ、ちょ、ちょっと寒いだけだっつーの！」

編集Y「いやでも今、真夏ですし」

そう、日本は夏の真っ只中なのである。

異常体質。

東京は飽きもせず今日も猛暑日らしい。自宅からやや離れているものの、数え切れないほど通っている店だ。空調が強いことくらい知っている。そのため長袖パーカーを持参したが、それを着てもなお耐え難い寒さだった。

――「いや、気温じゃないのよ」
編集Y「え？」

俺は知っていた。この異常なまでの寒さは〝物理的要因〟だけでナイと。

――「さ、寒い。負けすぎて寒い!!」
編集Y「フハハハハハwww」

そう、なぜか俺は負けすぎると寒く感じる体質なのだ。興奮すれば暑くなるのは概ねみんな一緒だろうが、俺の場合しっかりとその逆もあるのである。

編集Y「とりあえず飯休憩にしてもいいスよ？」
――「い～や、ヤだね」

朝イチから打ち始め、4時間が経過してもARTナシ。こんな惨状で飯が喉を通るわけがない。それに、良さげな台が空いたらスグに移動しなければならない。そのためにもシマを離れるわけにはいかなかった。

――「腹減ったら気にせず行ってきていいからね？」
編集Y「いや、僕は全然平気っスけど」

店員「お待たせしましたブランケットです」
――「あ、ありがとうございます」

ブランケットは薄いビニールに包まれていた。ちゃんと業者によって洗濯されているようだ。

店員「お帰りの際、カウンターに返却願います」
――「わかりました。お借りします」

編集Yはニヤニヤと笑いながら、下半身にブランケットを巻く俺にシャッターを切り続けている。

編集Y「お爺ちゃんみたいでワロタ」
――「笑い事じゃねっつんだよ。だからイヤだったんだよ」

そう、俺はこの機種を避け続けてきた。しかしこの時は、打たざるを得なかったのである。

避け続けた理由。

実戦日の2週間ほど前。

編集Y「なんでそんなに打ちたくないんスか？」
――「いや、打ちたくないわけじゃない」

編集Yは俺の誌面企画の担当編集で、この日は次の誌面企画でどの機種を打つかの打ち合わせをしていた。

編集Y「今どき打ってないのラッシーさんぐらいスよ？」
――「知ってるわ、そんくらい」

5号機SLOT魔法少女まどか☆マギカの筐体

5号機「SLOT魔法少女まどか☆マギカ」(メーシー)

2013年の冬に登場し、説明不要なほど大ヒットを記録した5号機屈指の名機。ARTのみで出玉を増やすタイプで、擬似ボーナス・ART「マギカラッシュ」ともに純増は2.2枚/G。

ART「マギカラッシュ」は1セット50Gのセット数管理で、消化中はゲーム数上乗せ抽選や特化ゾーン抽選が行われる。また、ART中も通常時同様にボーナス抽選が行われるのも大きな特徴。ARTとボーナスを絡めてロングATを目指すゲーム性となっている。

――「今さら俺が打ってもね」
編集Y「出た！ライターの変な意地」

――「意地じゃねーよ。ライターにもそれぞれ役割があんの」
編集Y「もう聞き飽きましたて、その話」

誤解なきよう書いておくが、SLOT魔法少女まどか☆マギカ(以下、まどマギ)は嫌いではない。それでも積極的に打たなかったのには、ライターならではの理由があった。

まずは機種の見た目で出遅れた。現代であればどんな筐体デザインとて驚かない自信があるが、当時であの白ベースの可愛らしい筐体は着席を躊躇わせた。導入前からゲーム性が素晴らしいことは知っていたが、とはいえ俺には縁がない機種だと思っていた。

そして新装時期を過ぎ解析が出るにつれ人気が高まり、気付けば誌面も動画も〝まどマギ〟一色。前にも当コラムで書いた通り、超人気機種の企画・番組に我々のような前時代的ライターが出る幕はない。

我々が一流の演者と同じ機種を打ったとて、話題にならないのである。

読んでもらえず視聴もされないのであれば、もはや超人気機種を追究する理由がない。少々イヤな書き方になるが、一流の演者・ライターが見逃すような機種こそ、俺ら攻略ライターの主戦場となるわけだ。

よって『まどマギを打つ暇があるなら担当機種打つわ!』という考えに至るのである。また「流行に乗りたくない」という理由だけで、頑なに人気機種を打たないライターもいる。だらだらと言い訳を連ねたが、単純に〝あまのじゃく〟と捉えてもらっても構わない。

編集Y「じゃあ今回の誌面でデビューしましょうよ！」
――「なんかここまで来ると恥ずかしいなぁ」

編集Y「いやいや、仮にもパチスロに詳しいハズのライターが、歴史に残るような機種を打ってないほうが恥ずかしいっスよ」
――「……ほう、一丁前なことを言いやがる」

編集Yの言う通りだ。パチスロ界隈は、とっくにまどマギを避けて通れない状況になっている。食わず嫌いで逃げ回るのも限界だろう。

――「じゃあ打ってみっか」
編集Y「よし！じゃあ僕詳しいんで実戦は任せてください!!」

かくして導入から約1年半後、いよいよ「まどマギ」デビューを果たすことになったわけである。

針に糸を通すがごとく。

開店から6時間経過。

――「だ、ダメだ……さ、寒い」
編集Y「もうギブしましょうか？」

――「誰に言っとんじゃい！退かぬ!!」
編集Y「もう見てらんないっスよ」

開店から5時間を迎える直前でBIG中の〝ほむら揃い〟から初ARTを射止めたが、単発駆け抜けで即終了。そこからまた200G台でボーナス、400G台でボーナス……を繰り返す時間が始まった。

編集Y「今いくら入ってます？」
――「ん～、53Kか63Kか…あとで計算する」

編集Y「もう分らなくなってるじゃないスか！」
――「いやメモってるから計算すれば分かるって」

もはやいくら使っているか考えたくもなかった。これほど投資することは他機種でもよくある。しかしここまで出るビジョンが見えないと、さすがの俺でも精神的に追い詰められる。せめて少しでもビジョンが見えれば元気に投資できるのだが……。

――「自称〝まどプロ〟のYくんよ。これ予想設定いくつ？」
編集Y「断定はできませんが、上はあってもおかしくないかと」

――「いや、これで上だと逆にイヤなんだが」

弱チェリー出現率は設定1相当だが、スイカからのCZ当選率は設定5相当。直撃ARTやART引き戻しは未確認だが、通常A・Bからの天国移行率は概ね設定4程度で推移している。つまり……

――「まったく(設定)分らんな」
編集Y「……そこもまたイイんですって」

玄人の僕ですら分からないのに、今日始めたばかりのアナタに分かってたまるか。編集Yのそんな本音が聞こえた気がした。「分からない」とは言ったものの、俺は内心〝1〟だろうとすでに結論付けている。

――「これ……ここから逆転あるか？」
編集Y「それがあるんですって！穢れくらい知ってるでしょ？」

――「一応、動画とか観てるから知ってるよ」

穢れシステム
レア役間ハマリやCZ失敗・ボーナス間ハマリなど、プレイヤーがイヤだと感じる様々なタイミングで内部的に〝穢れポイント〟を蓄積。そしてMAXの100ptに達すると、次回ボーナスがエピソード or 裏ボーナス(上乗せ特化ボーナス)になる。

編集Y「ラッシーさんの台、もうメチャクチャ貯まってるハズなんで」
――「ホントかよ？」

編集Y「さっき中モヤ出たじゃないですか？」
――「ああ、ソウルジェムのとこね」

編集Y「あれ91pt以上示唆なんで。100まであと少し」
――「ほ～。でもエピボ当たってもなー」

編集Y「なに言ってんスか！ラッシーさんですよ!?」
――「は？いやいや煽るな！」

編集Y「1番ド高めの裏ボか〝まどエピ〟来るに決まってます！」

まどかエピソード(まどエピ)
当選時点で上位特化ゾーン「アルティメットバトル」への突入が約束される最上位エピソードボーナス。

――「いやいや、もう笑ってんじゃねーか！」
編集Y「いやマジで来ますって！ (攻略誌)Hのライターですよ!?」

――「関係あるかい！スターと一緒にすなよ」
編集Y「いや、気持ちだけでもスターのつもりで」

――「気持ちだけでもって言っちゃってるじゃねーかよ」
編集Y「ふはは」

編集Yなりに、どうにか俺のメンタルを保とうとしてくれているらしい。彼があれだけ強く推した機種なのだ。少しは責任も感じているのだろう。

まどマギ初心者の俺でも、パチスロ歴は十余年だ。実戦日時点で「穢れMAX時のボーナス振り分け」は判明していないが、裏ボや〝まどエピ〟がどれほど薄いかは想像がつく。針に糸を通すようなものだろう。

おそらくは動画で散々観てきた安めのエピボが出てくるハズ。それは受け入れるとして、そのあとが勝負だ！ ARTとボーナスを絡め、その人気の理由を少しだけでも体感したい。

このままだと、もう2度と〝まどマギ〟を打つことは……

虎の子の穢れ。

サンドの残高が尽き、何枚目かの1万円札を投じた。

後輩Y「それ何枚目スか？」
――「さあ、6か7。あとで計算する」

後輩Y「もうヤケになってるじゃないっスか！」
――「だって200・400Gでボーナス当てるゲーなんだもん」

後輩Y「いや、言うてCZからも当ててるほうっスよ？」
――「でもプチボ出てくんだもん。3個貯めてBIGにしてくれ」

後輩Y「もう、文句しか言わねーな」

そんな話をしていると、液晶にマシンガンの弾痕が現われた。その次ゲームも小さな予告音を伴い、まったく同じ演出が続いた。前兆の初期段階「予兆」でよく見られる演出である。

――「キテるな」
後輩Y「キテますね」

2人同時にデータ表示器を見上げると、400Gを少し過ぎたところだった。また通常Aか。編集Yは「上はあってもおかしくない」などと言っていたが、どうにも俺には下にしか見えない。

――「ここ抜けたらツラいな～」
後輩Y「いいやもう、ここで当たって穢れ放出っスよ」

――「マジ？」

その後、前兆ステージである「円環の理」に発展。仲間が集まるほど本前兆の期待が高まるが……

――「っしゃ、杏子きた！」
後輩Y「ああ、これはイケますね」

フェイク前兆は3人以下がほとんど。4人目の杏子が出現すれば、一気に本前兆の期待が高まる。そしてラストの連続演出は期待度の高い「委員長の魔女」。タイトルこそ青だったものの、チャンスアップが絡んで無事に勝利した。

編集Y「さあ、ここっスよ！」
――「ちょ待って！ボーナス揃えるまでエピボかどうか分からない？」

編集Y「基本はそうスね。揃えたあとの指を離すと……って感じで」
――「そもそも穢れMAXまで貯まってんのか？」

疑いつつMAX BETを押してレバーを叩くと……

――「ちょ、見て見て！」
編集Y「おぉぉぉ、エピボっスよ！」

液晶にエピソードボーナス確定の白7揃いが表示されているではないか！

編集Y「規定ゲーム数到達からのエピボなんで、たぶん穢れっスね」

ゴクリと喉が鳴った。強めのエピソードを逃したとしても、このエピボから総投資の半分くらいは回収したい。高望みはしない。1,500枚から2,000枚くらい。それだけでいい！

編集Y「いいスか？揃えたあとの第3停止を離したあとですからね」

そう言いながら、スマホを構える編集Y。俺はコクコクと小さく頷き、慎重に白7を狙った。

つづく

314

ライター・漫画家を『面白かった』ボタンで応援しよう！
面白かったボタンを押すには無料会員登録およびログインが必要です。

会員登録・ログイン

★面白かった

共有する

URLコピー
Twitter
LINE
Facebook

ラッシー: 代表作：パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-

山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本＆DX」や「パチスロ極＆Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。