あなたの人生を変えた機種『主役は銭形』：その後、佐藤は介護福祉士になった（岡井モノ）

岡井モノ：ライター兼パチ7編集部員(別館) 私の人生を変えた機種：ライターリレーコラム

【ライター情報】
書き手：岡井モノ年齢：30代後半パチンコ・パチスロ歴：19年初めて打った機種：ゴージャグSP

往々にしてパチスロをはじめるきっかけというものは、家族や友人に誘われてホールに入ることであり、その騒音と眩さに面食らいながらも幾許かのメダルを手にしたという成功体験からその道に入ることが多い。そうでない場合も、気に入ったタイアップ機の演出がみたいとか、パチスロ仲間との人間関係を円滑にしたいとか、パチスロを打つことで何らかの得があるからという理由がほとんどだ。同級生の佐藤は「お店がピカピカ光ってキレイだったし、楽しそうな音楽がかかってるからやってみた」と4歳児みたいな理由でパチスロをはじめていたが、こういう例は稀だ。

パチスロに夢とかは特にない

私の場合は残念ながら成功体験も得もなかった。暇な大学仲間に誘われるままさびれたホールに入り、ものの数十分でわけもわからぬまま3千円を失った。これが私のパチスロデビューの全てである。今でこそパチスロの3千円など準備運動にもなりゃしねえぜと強がれる私だが、時給750円のアルバイトをしていた当時の感覚ではそれなりの金額だ。もっとも今の感覚でも簡単に無くしていい金額じゃないが。

そしてその日は自分以外の全員が勝っていた。4人でゴーゴージャグラーSPを並び打ちし、自分だけが当たりゼロだったのだ。ヤメた後に佐藤が「ジャグラーは1万円入れりゃ必ず光るぞ」と言っていたが、もし追加で7千円入れて当たり無しだったらコイツを殴ってホール横の川に放り込んでしまうかもしれないとその日は撤退した。後に知ったことだが、普通に一万円でもスルーすることがあるので佐藤は危なかった。あとパチスロではガセ情報に警戒すべきことを学んだ。

帰宅して自室に入ると、姉が奇声をあげながら血走った眼でPS2を振り回して真・三国無双2をプレイしていたので、もうこの世に安らぎは無いと思いながら布団をかぶった。この時考えたのはパチスロが面白いとかつまらないとか、姉を麻酔銃で狙撃したいとかそういう話では無かった。その時私はいつかテレビでみた、パチンコ・パチスロで生活をするパチプロと呼ばれる人がいることを思い出していた。

別にパチプロにあこがれたわけではない、その日から考えていたことはひとつ。パチスロは運だけのゲームじゃない、勝つための方法があるはずだということ。私は勝てるから、得になるからパチスロを始めたわけじゃない、勝てなかったから挑んだのである。

学習パチスロ『銭形』

翌日から暇をみてはパチンコ店をのぞくようになった。とにかく情報が無ければ戦えないと考え、様々な店を自転車で巡回しながらパチスロコーナーをつぶさに観察していった。店内にいるのに全然打たない、かといってハイエナ狙いというわけでもない。箱を積み上げているスロッターの背後にいつしか出現し、ただじっと見つめる不気味な私はこの時ほとんど嫌な浮遊霊みたいな存在だった。

次に目を付けたのは攻略雑誌だった。今よりももっとずっと雑誌という媒体に活気があった時代だったので、コンビニにも10誌くらいは常にパチンコ・パチスロ関係の雑誌が置いてあり、とりあえず機種情報について詳しく説明していそうなものを数冊買ってみた。開いてみるとそこは「残りRTゲーム数」「シフト持越し」「モードBからの天国移行率」みたいな用語が飛び交う修羅の国であった。当然初心者である自分には意味不明の内容を謎の言語で説明している理解不能な誌面であり、「初打ちもこれで安心だゼ!!」みたいなフキダシと共に親指を立てているイラストキャラに向かって、どこが安心なんだよと吐き捨てページを閉じたものである。

そこからたどり着いたのはインターネット。当時は匿名掲示板でやりとりされる情報の他、個人サイトがパチスロ攻略情報を掲載しているものも複数あった。ネット検索という力強い味方もできたため、雑誌上では意味不明だった用語も次第に理解できるようになった。そして古文書を読み解くように北斗の拳のモード解説記事を翻訳した結果、「地獄モードって鬼の哭く街カサンドラに入るモードじゃないんだ」と誰もが知っていることを2周遅れくらいで理解していった。

▲主役は銭形（2004年/平和）

・ボーナス後181Gまでがチャンス
・無理に追う必要は無いが565Gまでは濃いゾーン
・999G以降のボーナスはBIGのみ
・最大天井は1490G
・高設定ほど大ハマリしにくい

これは私がはじめて覚えたパチスロ攻略情報である。機種名は『主役は銭形』、パチスロを「意味不明に3千円失う遊び」から「勝てる勝負」に変えてくれた機種だ。

ルパン逮捕しちゃうぞ

銭形はゲーム数管理タイプのストック機であり、711枚を安定して獲得できるBIGとそれを連打できる3G連をシステムとして搭載していた。タイアップもあの人気作のルパン三世シリーズであり、大量獲得機でありながらある程度遊びやすさも兼ね備えている。

ただ当時はあの北斗と吉宗が絶対的エース機種として現役稼働していた時代であり、決して不人気ではなかったものの、銭形はホールでは3番手4番手となる存在であった。主役どころかむしろ脇役は銭形だったのだが、そこが初心者の私にとっては都合が良い環境でもあった。人気がそこそこであるため台選びがしやすかったこと、なにかとモノモノしかった当時の店内では比較的平和なコーナーだったこと、1000G以上ハマってのREG単発が無いことも際限なく投資してしまう可能性が少なく助かった。

はじめの頃はまだ半信半疑の状態であり、初めて999Gを超えてボーナス確定画面になった時はここでREGが揃ったらどうしようなどと不安になったものであるが、打ち込んでいくにつれ情報が確かなものだと確信していった。「この情報(ノート)、本物だ!!」とデスノートを使った夜神月みたいに驚いては、「計画通り」と悪い顔でほくそ笑んだりもした。表情豊かなパチンコ店の浮遊霊である。

イベントでは真っ先に埋まる人気機種を横目に銭形のリセット台を狙う。ライバルの少ない銭形に設定が入りやすい日をおぼえる。前日565Ｇヤメの台が200Gほどで空き台になっていたらチェックする。ボーナス後181G未満や天井近くの台見つけたら確保する。

これらは何も特別なことではなく、当時ある程度パチスロに知識があった人ならば誰しもやっていたことだろう。しかしこうした立ち回りが周囲の環境がガッチリと噛み合った私は、かなり安定して勝つことができるようになっていった。

そして銭形には181Gという明確なヤメ時が存在したことが大きかった。パチスロの怖いところは高モード示唆が出たから、高設定っぽい気がするから、と好展開に気を良くしていつの間にかメダルを飲ませてしまうことだ。

当時から今までずっと私の基本スタンスになっているが、パチンコ店は意味もなく高設定台を置いたりしない、今自分が座ってる台もこれから座る台も、ほとんど設定1だと思って打っている。だからよっぽどの確信がなければ粘らないし、過度な期待も持たない。そういう意味でも銭形はパチスロにおける重要ポイントのひとつ、ヤメ時をキッチリと教えてくれた台であり、こういった点も収支の安定に貢献してくれた。

それからの私はいわゆるマイホを持たず、特に強い日だと認識している数日を除いては、行動範囲にあった20数件のホールをふらりと訪れては2～3000枚をさらっていく、まさにパチンコ店の浮遊霊であった。いつしかパチスロ仲間も広がったが、銭形メインというのは自分くらいで、やはり話題の中心は北斗と吉宗いった人気台。なかでも上手い人は南国育ちやノーマルタイプといった高設定が安定するタイプを好んでいた印象であった。ちなみに北斗にハマっていた佐藤は「俺は北斗神拳の伝承者だぁー」と原作では悪役の方が多用していそうなセリフを叫んではホールに突撃し、見事に負けて帰って来ていた。北斗神拳の前には死あるのみという原作設定の完全再現である。

就職面接の日もスーツで銭形を打っていた

パチスロをおぼえたことで学業がおろそかになり……などという話はこの世界では珍しくはないが、私の場合は時給750円のアルバイトを続けながら、大学もキッチリ4年で卒業した。やはりそこは過度な期待をせず、しっかり辞め時を見極めるというとっつあんの教えが影響していたのかもしれない。

『主役は銭形』で動いた私の人生にはここからもパチスロが大きく関わってくることになる。大学卒業後には日本全国を転勤し続ける営業マンになるが、どこでも打てるパチスロに心を支えられる。上司に裏切られて人間不信になった自分を救ってくれるのもパチスロだった。打ち続けた結果、パチ7という変なサイトに出会ってライターにもなった。

人生に深く刻まれたパチスロ『主役は銭形』。今でもチェリー後のBETで銭形マーチが流れる気がするし、もう使うことのないチャンスゾーンG数も忘れていない。あと佐藤がパチスロの打ち過ぎで留年した結果、ラオウみたいなお母さんとバトルボーナスに突入、めちゃくちゃ怒られて泣いてたのも忘れていない。

★同一テーマお題帳への投稿お待ちしてます！

▲『あなたの人生を変えた機種』お題帳への投稿はこちらから！

2022年～2023年年末年始企画としてお題帳を実施します。今回はちょっと変わってましてパチ7ライター陣も今回のお題と同じテーマでリレーコラムを執筆・公開します！

そう！ ライターもユーザーの皆様も同一のテーマ『あなたの人生を変えた機種』で作品を作って、公開・投稿しましょう！ という1度やってみたかった企画です。

機種数にも制限はありませんし、人生を変えたの観点・切り口も自由。パチンコでもパチスロでも可。文字数制限もなし。テーマだけは統一してあとはフリー。もちろんマンガ形式でも問題ありません。

投稿はコチラから！また受付期間は2023年1月31日中になります。皆様の投稿、お待ちしております！

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岡井モノ：ライター兼パチ7編集部員(別館): 代表作：オカイ☆サロン

学生時代友人に連れられ、はじめて『ジャグラー』を打って負けたその日、悔しくてなぜか『サバンナパーク』のゲームを買った異端の猛禽。パチ７自由帳において「何か変なヤツがいるな」と思われていたが、何か変なヤツのまま編集部に捕獲されたトリックプレイヤー。日本全国を旅する渡り鳥としての経験を活かしたコラムを、旅情たっぷりに綴るかと思わせながら特にそういうコラムを書いたりはしない。今日も今日とて奇策縦横。