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元・ホール店長カタギリのしくじり店長
2016.02.24
しくじり店長・第12話
平成13年、都内・某歓楽街。
雑多に建ち並ぶ数々の店舗と、そこに群がる心満たされぬ人々は、
その猥雑なネオンサインの明滅に誘惑され、一夜限りの夢を見る。
パチンコ店、居酒屋、キャバクラ、パブ、ラブホテル、アダルトグッズ販売店、
テレフォンクラブ、ソープランド、ピンクサロン、ストリップ劇場…
酒も、博打も、束の間の色恋も、一人遊びも、
騙し合いの疑似恋愛も、桃色の肉欲に溺れるのも、やりたい放題の選り取り見取り。
浦安ネズミ王国もビックリの「大人の夢と魔法の世界」である。
男は一時の快楽を求めて、目を血走らせながら品定め。
女は将来の夢や大切な家族のため、あるいは自らの借金返済のために身を削る。
労働で得た金で泡まみれの夢を見る男と、その指先を駆使して魔法をかける女。
男は吐き出した欲望の対価として金を支払い、
女は打算と駆け引きの中で擦り減った心の代償として受領する。
夢の時間の代金は右へ左へと流れ、
そして、下から上へと吸い上げられて行くのだ。
そんなネオン街の一角にある、薄汚れた小さな雑居ビル。
階上は無許可営業のファッションヘルス、階下は裏メニュー有りの個室ビデオ店。
ワケ有り店舗に挟まれた３つのフロアは、小さなパチスロ専門店になっていた。
「まるで、性欲とギャンブルのハンバーガーだ…」
それが、職場に対する第一印象。
そう、私はこの低俗かつ品性のカケラも感じられぬ建物の中で、
20代後半という貴重な時間の大半を擦り減らした結果、
数年後に店長として夢見るギャンブラー達から金を吸い上げる立場になるのである。
が、それはもう少し先のお話。
まずはそのスロット専門店のホールスタッフとして、人生を再スタートした所からはじめます。
長期に渡った「平均月収マイナス5万円パチプロ生活」を終えた私は、
学業、就業、失業、この世界からの卒業（尾崎）といった人生の紆余曲折を経て、
都内にある某・パチンコチェーン店の社員として無事に採用が決定。
台の運搬やら取り付けやら他店調査など、リハビリのような研修を終えて、
最初の勤務地として命じられたのが、この繁華街にある小さなパチスロ店だった。
隠れキリシタンのような気分でファッションヘルスの入り口へと繋がるビルの階段を登ると、
タイル貼りの内壁に貼られた、パチスロ台の筐体写真が目に飛び込んでくる。
それらは正に垂涎の、珠玉の名機たちばかり。
ディスクアップ、キャッツアイ、ルパン三世、ハイパーラッシュ、グランシエル、
アステカ、バーサス、ホットロッドクイーン、タロットマスター、コングダム、大江戸桜吹雪…
文字通り、ヨダレを垂らしそうなラインナップ。
これらのマシンがズラリと並んでいる光景を想像するだけでオラ、ワクワクしてきたぞ！！
どんな小僧ども… じゃなかった、
若者たちが打っているのかな、 私もここが職場じゃなければ一緒に打てるのに、
ああでも仕事だから台パン小僧にスリーパーホールドをキメなきゃ。
ああもう、面倒くせえ、でも早く見てみたい！！
そんなマイ・ときめきメモリアル（意味不明）な第一歩を踏み出しましたよ、店内へと。
…ところが、なんということでしょう。
私の初恋・乙女夢想（またもや意味不明）は、無残に打ち砕かれるのです。
閑古鳥すら気絶しそうな程に閑散とした店内には、たった２名のお客様。
推定年齢40代後半の男性の目は、まるで一様に水面に浮上した金魚のように見開いて、
リールでも自分の内面でも無い、別世界にある井戸の深淵を覗いているように見えた。
もう1名のご老人はイスに座ったまま昇天、といった風情でピクリとも動かなかったので、
見なかったことにして設置機種をチェック。
そこに鎮座されていたのは、
チェリーキューブ、ソードバトル、デカナナ、リズムボーイズといった、
上手に説明するのが難しくて頭が「ひっくり返り」そうな、
食べ物に例えるならば「Ｂ級グルメ」のような機種ばかり。
壁に貼られていた機種はなんと、１台も置いていなかったのである…。
「…ディスクアップは、ホロＱは、アステカは、そして先程の老人の運命は？」
頭にハテナマークが30個ぐらい浮かんだ状態で事務所に入ると、
そこには長身で顔色の悪い茶髪野郎が待ち構えていた。
そして先程の私の姿を監視カメラで注視していたのであろう、
「お前がカタギリか？ 店ン中ジロジロ見る前に、まず俺に挨拶するのが礼儀だろ？」
と、鋭い視線と共に丁寧な先制攻撃を仕掛けてきたのだ。
が、これは想定の範囲内の出来事。
パチンコ店のスタッフが曲者揃いなのは、とっくの昔に体験済みなのだ。
本職も顔負けのパンチパーマでおなじみのヒロタ店長や、実写版・拳王様みたいなツチダさん。
かつての上司たちの恐るべき怒鳴り声を、虎の咆哮に例えるならば、
売れ残ったトウモロコシみたいな茶髪兄ちゃんの威嚇なんて、仔猫ちゃんの鳴き声に等しい。
「あ、スンマセンした、今日からこちらでお世話になりますのでヨロシクっす…」
と、
投げつけられたゴミを片手で払うような挨拶を交わして、荷物を床に投げ降ろしたのだ。
おそらく、この態度がマズかったのだろう。
私と1つしか年齢は変わらないものの、一応は会社の先輩。
そして何よりも、このモロコシ野郎こそが店舗責任者だったのである。
この日から始まった、彼の私に対する高圧的な言動の数々。
それは自分自身の礼節の欠如が原因であったに違いない。
正に自業自得なのだが、年長者や先輩に対する敬意を払えなかった自分と、
いきなり高圧的な態度で接してきた茶髪野郎。
どちらに対しても、未だに腹の虫が治まらないのである…。
ちなみに後日、
「階段の所に貼ってある台はウチに1機種も置いてないのに、
何でそのままにしてあるんスか？」
と、目付きの悪い腐れモロコシ野郎に質問したところ、
「アレに釣られて店に入ってくるヤツがいるから、に決まってんだろ馬鹿」
という裏拳を喰らわせたくなるような返答が飛んできました。 と同時に、
「何としてもコイツにだけは負けたくない！」という対抗心が強烈に芽生えたのである。
こうして私は、根無し草のような暮らしから一転、
再びパチンコ店のホールスタッフとして、ネクタイを締め直すことになったのだ。
そこに至るまでに様々な葛藤があったのは言うまでも無いが、
それでも貴方を大きく突き動かした感情は何なのか、と問われれば、
「私は、パチンコ・パチスロが大好きだから」という、
小2女子の書いた初めての恋文のように、単純明快な答えに辿り着いてしまう。
仕事中ですらパチンコ・パチスロの事ばかり考えているのであれば、
逆にその事ばかり考えられる仕事をすればいいだけの話である。
そして「パチンコで負けた遊技客の懐から出た銭で飯を食べて、
自身の懐から出た銭で他店のスタッフの生活を支えて生きて行こう」
という、自分なりの矜持も胸に秘めていた。
他人が聞けば、負け犬の戯言と笑うかも知れないが、
それこそが結果的に、この仕事を長く続けられた最大の理由なのである。
もう一度、強く宣言するが私はパチンコ・パチスロが大好きなのだ。
そして、これからもずっとそうあり続けて生きていくのだろう。
…だがしかし、この時点ではそんな熱い気持ちを胸に抱きつつも、
顔を見ただけでも虫酸の走るモロコシ野郎の下で、日々の作業に忙殺され続け、
ただ汗を流すだけの毎日を過ごしていたのである。
カタギリ・今週の1枚
デジタルに敏感に反応するのが、パチンカーの正しい反応である。
近所の工事現場で撮影したコレを見るの、大好きなのです私。
パチ屋でも毎日「高設定の台数」や「店長のヤル気指数」を表示すればいいのに。
編集長の一言
ちょっと前まで「オマエハナニモノダ」状態だったカタギリ氏がモロコシ野郎に強い態度で接するくだりを拝読するにあたって、あぁ、この人、心が鋼の人なんだな、と。
それにしても欲望バーガー以外のホールで就職出来なかったのかね。まぁカタギリ氏のことですから、自ら望んで欲望バーガーのピクルスあたりを狙いに行ったのでしょうよ。
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- 元・店長カタギリ
- 代表作：しくじり店長
シルバ〇アファミリーみたいに小さなパチンコ店の責任者から一転、 雑巾がけがメインの業務となってしまった事務員へとグレードダウン。 そんな設定①のスランプグラフのような半生を、隔週水曜日に連載させて頂いております。 タイトルは「しくじり店長」。 パチ屋の店長が平社員へと降格していく逆サクセスストーリーを、 海物語シリーズの泡リーチを見つめるような気分でお読みください。
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デカナナ、残念ながら私は打ったことが無いのですが、
文字通りにデカい7がズドンと停止する快感、
アレを味わったらヤメられないだろうな～w
ベルコの台、ただでさえ中毒性が高いのにw
次回更新楽しみにしています
おっしゃる通りです。
昔は特にそうでしたね。
最近はすっかり頑張れない人になってしまいましたがw
まだまだ強烈な人たちが登場しますよ！
当時の混沌としたホール事情にふさわしい、
ネジ不足系の人たちばかり出てきますw
今になって考えてみると、マニアにとっては垂涎のラインナップだったんスよね。
ただ、当時はメジャーなB(変な表現だなw)しか打っていなかったので、
「なんじゃこりゃ…」としか思えませんでしたw
そのせいで、他にもたくさん設置してあったハズなのに、
他の機種が思い出せませんでしたからねw
負けられないって気持ちは結構頑張る原動力になりますよね
次も気になります。楽しみじゃ～
後欲望バーガーわろたw
その設置機種すごい打ちたいですね、チェリキューは打ったことなかったなぁ。
クライマックスは絵柄もパネルもカッコ良かったのになぁ…
やはり「慣れないことはやるもんじゃない」という事なのでしょうか？
私も打ってる最中に「ん… 私がアルゼに求める感じはコレじゃないな…」
と目が覚めて、気付いたらタロットマスターに座っていました。
いや、
座っていたんデ～～～ス！！
（強引なまでのタロマスオチ）
近所の某店にも「本日の使徒撃破数」というデジタル表示がされておりますが、
エヴァ10だけなのか、それともヱヴァ全体の大当り回数なのか、
サッパリ分かりません…
ホールはもっと親切かつ、わかりやすい表示をしなければいけないと思うのですが、
それが射幸心を煽る行為とみなされてはダメ、という厄介な問題もかかえているのですよね…
お！
なんか今日の私はマジメだｗ