カーディガンSENZIN in 鹿児島

タイルまん SENZIN伝

鹿児島県。

様々な名所があるが、その中でも有名なのは、古代から噴火を繰り返している複合活火山……桜島だろう。まさに鹿児島県のシンボルとなっている。

鹿児島県は他にも屋久島、縄文杉、西郷隆盛像、数々の温泉など名所は沢山ある。あぁ……観光したい。屋久島は無理でも桜島に西郷隆盛像、美味しいお酒を飲みながら薩摩揚げや黒豚料理に舌鼓をうちたい。鹿児島が私を呼んでいる……あの目の前に見えるものは桜島と縄文杉ではないか！雄大……逞しい……素晴らしい！

縄文杉の下で、美人が一升瓶抱えて手招きしている……！素晴らしいご馳走も並んでいる。なんて幸せか。

「大丈夫？」

白いオ○Ｑみたいなマスクを被った女性に声をかけられた。目の前に見えるものはパチンコ屋。そしてミニスカートに網タイツを履き、プロポーション抜群なのに、全てを台無しにするマスクを被っている嬢王ますくという名の女性が、手招きしている。

良い女に奇怪なマスクを被せてはいけない。無論、そこには一升瓶もご馳走も無い。鹿児島を1つも堪能する事なく……今日も私はホール調査隊である。

唯一堪能したとすれば、ホテルのテレビで観た鹿児島限定地方CM位である。

ホール調査隊の当日。

胸に痛みが走る咳と、鼻水が止め処なく溢れてくる。私はこんなにも鹿児島を堪能したいと思っているのに、どうやら鹿児島は私を拒絶しているらしい。

鹿児島が拒絶というか、単にホテルの空調が合わなかったせいなのだが。仕事なので体調不良などと言ってもいられない。

幸いな事にこのホールの常連様方は、調査隊が何度も来ているせいか、マスクマン馴れしている。普通のSENZINなら我々マスクマンを初めて見た時はギョッとして、気味悪がって避けていく。

しかし、ここのSENZIN達は日陰で涼みながら「あれ？また来たの？暑いでしょう？」などと、平然と世間話を繰り出してくる。

わざわざ咳をゲホゲホとしながら絡まなくても声を掛けていただけるのが、なんとも嬉しい。

ホール調査隊名物のステッカーを配り、何打つかどれ打つかと話をしているとあっという間に開店時間となった。

午前中はピエロと戯れ、昼休憩を挟み、午後はデジパチでもゆっくりと打つかとホール内を散策して回った。

すると、この暑さの中、長袖にカーディガンを羽織ったトキオプレミアムを打つ女性のSENZINが散策する私をジーッと遠くから観ていた。

私は近づき、調子はどうか聞くと「ぜーんぜん駄目」と、カーディガンSENZINは首を横に振った。

カーディガンSENZINはステッカーを求めてきた。私は快く渡すと後ろには『激アツ』と書かれていた。ステッカーの裏はおみくじとなっている。他にも『大吉』『鉄板』『虹色』などなど、おみくじ結果がある。

カーディガンSENZINはステッカーを貰い、喜んで台の脇に私のステッカーを飾った。飾った瞬間である。私の目の前で右のSPルートを経て見事当たる。更に16R獲得。

「このシールのお陰だ！貴方凄い！ありがとう！」

タイルーますくのステッカーは大当たりを呼び込む素敵なステッカー。

全くもってそんな事は無く、偶然だ。もし大当たりを呼び込むならステッカーを大量に常備している私は今頃大勝している筈である。2万近く負けていない筈である。

喜ばれているし、いいか。カーディガンSENZINを祝福して、その場を去ろうとするとズボンのポケット付近をグッと掴まれた。

16Rを消化中のカーディガンSENZINに掴まれたのである。

「打っている台あるの？」

特に無いと答えると

「私の隣で打ってよ？」

逆ナンパされた！

まさか人生初めての逆ナンパが鹿児島のSENZINだとは……。

軽く自分の運命を呪った。

SENZINの隣の台はなんだろう？

サンダードラゴン……。

私が最も苦手とする羽根モノだ。

巷では、某パチンコプロがサンダードラゴンの攻略法…いや攻略法というより、止め打ちなどを駆使してSPルートに入りやすくする打ち方を紹介していたが、私は苦手過ぎて触るのを避けていた。

何故苦手か。当てた事がない。当たる気がしないのだ。

しかし、この人生初の逆ナンパを断るのも忍びない。覚悟を決めて、私はサンダードラゴンと対峙した。螺旋状のギミックに玉が吸い込まれる。ギミックの出口の先にはヘソ。そもそもヘソの上にこのギミック必要だったか？

苦手な機種ほど、細かな部分に文句をつけたくなる。そんな事を考えていると、隣のカーディガンSENZINが話しかけてきた。

「私ね、これ好きなんよ。」

自分の打っているトキオプレミアムを指差した。

「東京タワーが綺麗よねぇ。右の自由の女神やろ？あとこの下のヒヨコが可愛い。」

ヒヨコ？あぁ、ブンブン丸か。

他には？と、聞くと「ここに入れば当たるって簡単やろ。いつまでも打ってられるわ。」

単純明快。最近の海シリーズもモードによってはゴチャゴチャしてきたが、羽根モノは今も昔も変わらない。当たりの穴に銀玉をぶち込めば当たるのだ。

「お兄ちゃんの打ってるの面白いの？」

え？あなたが打てと言ったから打ってるんですけど……。

「それ私嫌いやわ。」

衝撃のカミングアウトだ。

「可愛くないもの。」

嫌いな理由が可愛くない……。

女性とは、幾つ歳を重ねても思考を読み取れない難しい生物である。その様な理由で嫌われるサンダードラゴンに哀れみを感じてきた。

「なんで犬なのに銀色なの？」

犬？犬……？確かに『うちのポチーズ』という羽根モノは、私の右隣に設置されてある。因みに私の左隣にカーディガンSENZINが座っている。

しかし……うちのポチーズは銀色ではない。肌色、もしくはクラシックモードにして赤になる。

犬ってなに？と、聞くとカーディガンSENZINは不思議そうな顔でサンダードラゴンを指差す。

うむ。ドラゴンである。犬ではない。

読者の皆様は嘘だと思うかもしれないが、SENZINとは我々が普段見ている物体を別な角度から見て、予想外の答えを出してくる者が多い。以前、このSENZIN伝で紹介した私の祖母は、父方の祖母である。

母方の祖母はまだご存命なのだが、こちらの祖母が良く言えば独創的な感性の持ち主なのだ。

サンリオで有名な体重が林檎3個分という猫らしきキャラを知っているだろうか？

誰がどう見ても猫だ。猫を擬人化したキャラだ。

母方の祖母は、幼かった私の妹にそのキャラを見せながら「ほらー？ウサギさんだよー？」いや猫だっ！ウサギではないっ！母と小学生の私がツッコミを入れると、どうやら大真面目にウサギと思っていたらしい。

どこにウサギの要素があるのか？

「ヒゲ生えてるべ。」

猫にもある。

「耳の中が白いのはウサギだべ。」

理由が分からない。

そもそも耳に着眼しているなら耳の長さという決定的な違いがあるではないか。そこを伝えると「ウサギだって短い耳の種類もあるべっちゃ。」決して自分の非を認めない。

「大体、猫は二足歩行で歩かない！」

ウサギも二足歩行で歩かないのだっ！

そんな祖母を幼少の頃から見てきたので、カーディガンSENZINのドラゴンと犬を見間違えている事に関しては、私にとって日常茶飯事の事なのだ。

カーディガンSENZINの自尊心を傷つけない為に、私はソッとしておいた。

「ところでお兄ちゃん。フランプールって知ってる？」

フランプール？カーディガンSENZINの口から横文字が飛び出すとは……。

フランプールという英語の意味か？分からないぞ。私の知っているフランプールとは音楽バンドだけだ。

「音楽やってる人達なんだけど。」

今若者に人気のフランプールは、SENZINウケする為に演歌でも歌っているのか？そうでなければ、SENZINの口からフランプールなど出てくる筈がない。

もしくは、このSENZINは音楽が物凄く好きで、若い世代に人気のアーティスト達の事も網羅しているのか？

「私の叔父の孫がフランプールのボーカルなの。」

まさか鹿児島のパチンコホールでフランプールのボーカルの親族とお会いするとは……。

ただ……遠いなっ！血縁関係的に遠いなっ！

「今若い人達に人気あるでしょ？あの子も立派になったなぁって。」

確かに人気はある。映画の主題歌なども歌っている。一応どんな子だったか聞いてみた。

「会った事ないの。」

会った事がないのに何故立派になったとしみじみ言えたのかっ！今の口ぶりだったら、昔から知っていなければ辻褄が合わないぞ？

「うちの叔父って大阪でしょ？」

知らんっ！

「遠いしねぇ。かなり前に叔父も亡くなったじゃない？」

知らん知らんっ！全部初耳である。

「若い人ならフランプール知ってるかなぁと思ってね？やっぱり有名なんやねぇ。」

多分だが、色々な人にこのカーディガンSENZINは自慢しているのだろう。私の親戚の子供は立派なアーティストなんだぞ！と。会った事は無いけどなっ！と。

もし万が一、億が一、これを読んでいる読者の中にフランプールのボーカルさんと繋がりがある方がいたら伝えていただきたい。鹿児島の親戚の方が、大いに自慢していたと。親族から連絡先を聞いて、是非連絡をしてあげて欲しいと。

私なんか親族から煙たがられ、一族の恥の様にぞんざいに扱われている。

鹿児島で出会ったカーディガンSENZIN。彼女が、会った事もない親族を自分の事の様に嬉しそうに自慢している姿を見て、私も親族にここまで自慢される人間になろうと決心した日であった。

決心したのはいいが、私のサンダードラゴンは1度も回る事なく、カーディガンSENZINの台は絶好調であった。有名になる前にサンダードラゴンを1度でも当てよう。