しくじり店長・第38話『全台設定456』

元・店長カタギリ元・ホール店長カタギリのしくじり店長

パチンコ店の責任者として、最も大切な仕事って何なんだろう？

『押忍！番長』で7万円キッチリ負けた帰りの電車の中で、哲学者のような気分でそんなことを考えていた。

質問に対する答えは、人によって全く違うものになるだろう。

営業責任を負うという、カツカレーのカツを真っ二つに切っただけのようなザックリした回答や、人の管理といった、これまた3コマ目押しみたいなアバウトな返答。あるいはロボコップみたいな口調で「キカイノチョウセイ」と呟く人もいれば、パチンコを通じた社会貢献の実現を真顔で語り出す、新世界の教祖みたいな人もいるかもしれない。

そして出題者が誰なのかによってもまた、答えが変わるに違いない。

会議の席でスナイパーのような目つきをした社長から質問されたら、即座に業績向上と言わざるを得ない。飲みの席で赤保留フェイスの部下から尋ねられたら、お前を成長させることが俺の仕事だとキメ顔でそう言うに決まっているし、これまた飲みの席で向かい側に座った深田恭子に似た女子からキョトンとした表情で聞かれたら、「地域のお客様に愛される、夢いっぱいの空間作り」と答えて、ますます不思議そうな顔をされるだろう。

だが自問自答してシンプルに答えを出すのならば『集客』、この一言で全てが片付いてしまう。

お客様を集めるために何をすべきか、実現には何が必要なのか。前進するために知恵を絞るのが、自分にとって今、一番大切な仕事なのだ。しかしながら、現実はどうだろう。行動しない理由と、目標が達成できなかった言い訳を考えることに時間と知恵を費やし、おまけに7万負けちゃって明日からの生活をどうしよう、みたいなことばかり考えている。

誰か助けて下さい、こんな私を。具体名を出すなら大都技研さん、私を助けて下さい。

そんな状況下で私の救いとなったのが、他ならぬ2人の助っ人だ。突然やってきた年配の中国人・マネージャーのチョウさんと、台湾からの留学生みたいな顔をした日本の若者、コジマ店長。このアジアンテイスト漂う2名によって、店の雰囲気が一変したのである。

チョウさんが片言の日本語でコジマ店長に話しかける。

「コジマ君、今日ハ随分ト顔ガ白イケド、ダイジョブ？」

そのツッコミにコジマ店長がすかさず、こう返す。

「僕はもともと色白なんですよっ！！　何年の付き合いなんですかっ！！」

まるでコントのようなお約束のやりとりで事務所が笑いに包まれ、空気が温まる。

彼らの明るい雰囲気と気持ちの前向きさが、既存スタッフの冷めかけていたテンションに再び火を付けたのである。誰かと一緒になって盛り上げたいという気持ちを実現させる方法。それは、私には真似の出来ない手段だった。

そして、コジマ店長は動き出した。

私とトオヤマさんが年初にCR猪木を導入した際、大失敗した派手な広告宣伝活動。あの原因がパチンコの新台入替だったならば、今度はパチスロに切り替えよう。そう考えた彼は素早く各方面との連絡や打ち合わせの数々をこなして、頭の中で描いた計画を実行に移したのである。それもまた、私には真似の出来ない行動力であった。

間もなく『全台設定④⑤⑥』と具体的なイベント内容を前面に打ち出した自店の広告は、専門誌の裏表紙、電車の中吊り、駅貼りの宣伝ポスター、街頭で配布される小冊子と、あらゆる場所で目にするようになった。情報収集能力、そして行動力に長けた若いパチスロユーザーをターゲットにした、徹底的に販促費用を投じた営業戦術は、結果として大成功となった。

パチスロコーナーの全台が設定④⑤⑥という、最高かつ最強の殺し文句。

イベント当日の店頭、いや、店舗全体を取り囲んだお客様たちの横顔には皆、「今日は万枚」や「お金を稼ぎに来ました」という気合満点の文言が、黒マジックでデカデカと書かれているように見えたのは、決して私の目の錯覚ではないだろう。

その日を境に、週末のパチスロコーナーは同イベント目当ての客で埋め尽くされた。

イベント対象機種は『北斗の拳』と『吉宗』、そして『押忍！　番長』の3機種だったが、それらに座れなかったお客様も他の機種でひと勝負してくれる、という夢のような状況で、私が数々のしくじりによって常連客を減らしてしまったパチスロコーナーは、コジマ店長の手によって再び息を吹き返したのである。

しかしながら、イベントの実情はどうだったのか。

皆さんも「稼働マジック」という言葉を聞いたことがあるかもしれないが、この時の設定状況はまさしく『看板に偽りアリ』であった。もちろん数台の高設定台は用意していたものの、残る大半は最低設定台。それでも稼働が落ちなかった理由は、まぎれもなくユーザーの信じる力があってこそ、だった。

極端に言えばパチスロの設定が全台①であっても、満席であれば活気がある。その活気でユーザーは優良店である、と錯覚してしまうのが稼働マジックの正体だ。つまり出している店ではなく、出ているように見える店に人が集まるというのが答えであり、その実現に必要なのは還元ではなく、広告宣伝費に資金を投じることだったのである。

業績の向上。

具体的に言うならば『利益目標と稼働目標の達成』を成功させたコジマ店長。その傍らで私は、自らが成し得なかったことを容易くやってのけた彼の手腕を目の当たりにして、己の無力さを痛感させられていた。

しかしながら同時に、羊の肉の匂いに釣られてやってきた人間が、代わりに犬の肉を食べさせられ続けた結果がどうなっていくのか。

そんなすぐ先に待ち受ける未来を思い描けぬ己の無能さまでは、この時はまだ感じていなかった。

カタギリ・今週の1枚

先週末から3日間、またまた行われておりましたパチンコ・パチスロファン感謝デー。

今回も『パチンコ・パチスロ不安感やでー』と揶揄しつつも抽選だけは受けるという、好きな娘にイジワルをしてしまう小学生のような気分でパチ屋に赴きましたが、やはり抽選はドハズレ。そろそろ何か当ってくれないとブチ切れてハンマーを振りまわしたくなりますが、今回はそんな自分を戒めるため、正月に引いたおみくじの結果を発表します。

今のところ、何かが思い通りになってる感はゼロなんスけどね……

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この記事へのコメント（12 件）

元・店長カタギリ: 投稿日：2017/02/24; ままどおるの神さま。

私、ファン感のくじ引きで1回も当たったことがないんすよね……。

あれはもはや、ヤクルトファン感謝デーだと解釈しております。

トリオレの三男: 投稿日：2017/02/24; ガセイベントありましたね…
ガセ札に幾度となくやられた記憶がw
稼働マジック。今でもこれはありますね。特にバジ絆w。
ファン感謝デーは50kでお菓子二袋とヤクルト一本ををGETすることができました(涙

元・店長カタギリ: 投稿日：2017/02/23; たけださま。

この先はもう、幻滅するようなエピソード以外は出てこないと思います。

この当時のことを思い出すと、今でも胸が痛みますね。

111: 投稿日：2017/02/23; 普段はマンガ版しか見ませんが
引きの強いタイトルに釣られ読みました。
456じゃなかったのか…

元・店長カタギリ: 投稿日：2017/02/22; はらいそさま。

自分も当時はいろいろな店で幾度となくガセ札の犠牲になりましたが、そういった店は漏れなく淘汰されました。

今は設定示唆要素のある台が多数ありますが、繁盛店からはきちんと確定画面報告が上がっていますからね。

駄目な店から潰れていくのは、今も昔もこれからも変わらないでしょうね。

はらいそ: 投稿日：2017/02/22; 昔は今みたいに設定示唆であふれていませんでしたからね。
ガセイベントでもヒキ弱でしたねで済まされることも多かったでしょう。
それも設定公開アリだったりの何でもアリな時代だったからなのでしょうが。

元・店長カタギリ: 投稿日：2017/02/22; あっきさま。

評価されるのは結果ですからね。

今では通用しない手法ですが、この時代にはマッチしたやり方だったのでしょう。

沖ドキは怖くて私には手が出せませんよ(笑)。

元・店長カタギリ: 投稿日：2017/02/22; 元店員ユイリィさま。

今の時代に同じことをやったら一発でしょうね。

1でも何台かは万枚オーバー。
そんな時代だからこそのお話ですね。

元・店長カタギリ: 投稿日：2017/02/22; すろさま。

この時代はまた、ガセイベント全盛時代でもありましたからね。

私も幾度となく騙されてきた故に、自分の店では絶対に同じことはやらないようにしたかったんですけどね。

大風呂敷の結末は、次回へと続きます……。

あっき: 投稿日：2017/02/22; 凄い手腕ですな、その店長も。
そのあとまさか、本末転倒したとかですか？笑

私は、仕事の合間にかなちゃんを打ちにいきましまが、最初に諭吉さん５枚が旅立ちましたが、なんとかザオリクで５枚復活しましたよ笑

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元・店長カタギリ: 代表作：しくじり店長

シルバ〇アファミリーみたいに小さなパチンコ店の責任者から一転、雑巾がけがメインの業務となってしまった事務員へとグレードダウン。そんな設定①のスランプグラフのような半生を、隔週水曜日に連載させて頂いております。タイトルは「しくじり店長」。パチ屋の店長が平社員へと降格していく逆サクセスストーリーを、海物語シリーズの泡リーチを見つめるような気分でお読みください。