しくじり店長・第34話

元・店長カタギリ元・ホール店長カタギリのしくじり店長

「お正月と言えば福袋ですよねっ、フ・ク・ブ・ク・ロ！！　パチンコ屋でも福袋を配ればお客さんも喜ぶと思うんですよぉ～、だからカタギリさぁん、明日は朝から買いに行って下さいよぉ～、よろしく頼みますよ、ムハハハッ！！」

2004年、大晦日の夜。今年最後の営業を終えて、間もなく新年へのカウントダウンを迎えようとする頃に、私は受話器を握りしめながら、すっかり呆れ果てていた。当店のコンサルタントであるトオヤマさんがハイテンションで電話をしてくる時は、間違いなく麦焼酎を飲んでいる。こんな夜に酒の勢いを借りて現場に無茶な指示を出すなんて、何て面倒くさい男だろう。

「いや～、さすがに無理ッス！アルバイトも帰省する子が多くて、人数ギリギリの営業ですよ！都内まで福袋を買いに行かせるだけの人員も、時間も足りません！」

アンタ馬鹿じゃないのか、こんな時間によくそんなことが言えるな！　そう怒鳴りつけてやりたいのをグッと堪えて、ここは大人の対応を。

「そこを何とかするのが、店長の仕事じゃないで……」

コンサル野郎の声を途中で遮るように受話器を叩きつけて、大人の対応は終了。馬鹿の思いつきに踊らされるぐらいなら、私は大人じゃなくてもいい。おそらく自宅で酒を飲みながらテレビを観ていたら、大型デパートの初売りで福袋を準備する光景でも流れたのだろう。まったくいい気なもんだ。こっちはタバコの煙まみれの狭い事務所で新年を迎えて、明日も朝から仕事だっつーの。メインイベントの、店頭での餅付きの準備までしなきゃなんないんだっつーの。そんなにパチ屋で福袋を配りたいんだったら、アンタが買って来ればいいじゃないの。さ、とっとと調整を終わらせて帰ろうか……。

「トオヤマさんも、酒が入っていない時はマトモなんだけどね。　……ま、今年もお疲れ！　　また6時間後には戻って来るけどな！」

調整を終えて店のシャッターを降ろす頃には、とっくに新たな年が始まっていた。今年最後の仕事を終えた私は、共に職場で新年を迎えたハシダ班長に愚痴をこぼしてしまう。

「しゃーないッスよ、今年一年お疲れ様でした、来年もよろしくお願いしますね！たぶん3時間ぐらいしか寝られませんけど！」

そんなやりとりの後、お互いの顔を見合わせて笑う。不規則な長時間労働と、理不尽にまみれた命令系統。同じ苦労を分かち合う仲間がいなければ、長くは続けれらない仕事だなと改めて実感しながら、長く、重かった2004年は静かに、しかしながら確実に幕を下ろした。

明けて2005年。元日営業の目玉は、店頭での餅つき大会。良く言えば、お客様とスタッフの交流を目的とした正月の恒例行事だが、悪く言ってしまうと、ボッタクリ営業の目くらましである。もはや数えるほどしかいなくなったとはいえ、年の始めから自店に足を運んでくれるお客様に、少しでも笑顔になって欲しい。独善的だと嘲笑されても、欺瞞だと蔑まれても、それがパチ屋の店員としての本壊なのだ。

杵を握っている私に声をかけて、自分にもやらせろと意気込むお父さん。その隣で、アンタもう若くないんだから腰に気をつけてと声をかける奥さん。モチなんか要らないから玉を出せと、お決まりのヤジを飛ばして来るお爺ちゃん。おモチ食べて気合い入れて、ジャンジャン出して下さいと答えるハシダ班長。そんなやりとりを見て、目を細めて笑うお婆ちゃん。

うむ。　

良き正月のひとコマだね。そして、正月といえばお神酒。お神酒といえば、日本酒である。一升ビンを両手に抱えて、はんぎょどんみたいな顔をしたオバちゃんが接近してくる。

「ほらっ、せっかく店長も飲みなよっ！」（STEP１・青文字）

いやいや、私は仕事中ですからダメです、あとから会社の偉い人たちも店に来るんですから！

「いいじゃないの、正月なんだから。　さあ一杯！」（STEP2・緑文字）

だからダメですって、役員が後から店に……

「理屈じゃないからっ！　さあ早く飲んで飲んで！！」（STEP3・赤文字）

ちょ、まだ仕事も……

「ハイッ、ハイッ、アラ店長さん、イイ飲みっぷり！！」（金文字・大当り確定）

常連さん達の声に誘われて、グラスに注がれた冷酒をグイッと一杯。

「おっ、イケるね店長！　さあどんどん行こう！」（ST連チャン確定セリフ）

仕事中に飲む酒は、どうしてこんなに美味しいのでしょう？

「さすが店長！　まだまだもう一杯！」（保留連チャン確定セリフ）

よおおおしっ！！　アタクシもお餅をツイちゃうゾッ！！　　

いつの間にか、餅つきの輪の中に加わっていた泥酔店長は常連さんの、そしてスタッフ達の歓喜の声に包まれながら、一心不乱にモチに連打を浴びせる。

ペッタン、ペッタン、ペッタン、もういっちょ、ペッタン、ペッタン……　

やがて目の前の世界がグニャリと捻れ、記憶の糸がプツリと途切れてしまう。

……薄暗い部屋での目覚めは最悪だった。頭が、いや、それ以上に身体が重くて仕方が無い。氷のように冷たいフローリングの床を這い、かろうじて伸ばした左腕には、短針が『2』の位置を指し示す腕時計。途切れた記憶の糸を手繰り寄せると、大きな背中に揺られる自分の姿が見えた。

「ええっと、餅つきが始まったのが12時だから、今が14時で……　たぶん酔っぱらった私を誰かがこの部屋に運んできて2時間寝てたけど、それにしては窓の外の景色は真っ暗な訳で…… ……てか、何だよ、死ぬほど寒いんだけど！？　……って、ええ？　ええ？　あれっ！？」

記憶が混濁している。ひとまず、何とか立ちあがろうとするが、冷えきった身体の重さがそれを許さない。誰かが気を効かせて青いビニールシートを被せてくれたのはいいけど、これじゃあ完全に河川敷で見つかった遺体みたいじゃないか、もしくは、売れ残った冷凍マグロだろ。あと、せめて部屋のエアコンのスイッチぐらいは入れてくれないと死んじゃうよ、そんなことをあれこれと考えながら、壁にもたれかかる。ヨタヨタとした足取りで何とか事務所に戻ると、一人で事務所に残っていたハシダ班長が呆れたような口調で説明してくれた。

「やっと起きたんスか？　店長、半日以上も寝てましたよ……？　昼過ぎに常務が店に顔を出してくれたんスけど、店長が酔っぱらってブッ倒れたって聞いたら最後まで店に残ってくれて結局、明日の調整も全部、常務がやってくれてましたよ……」

午前2時を過ぎて、慌てて役員に謝罪の連絡を入れた私の顔が青ざめていた理由は、つい先ほどまで冷凍庫みたいな空き部屋に放置されていたからだけでは無いはずだ。

「オメーはホントにしょうがねぇヤツだなぁ！　俺がハンマー握ったのなんて、20年ぶりぐらいだぞ！それよりお前、あんなとこで寝てて大丈夫だったか！？」

まあ心配すんなよ、お前もいろいろ疲れていたんだろ。深夜にも関わらず弾んだ声で話してくれた常務は、たぶんそんなことを思ってくれていたのだろう。その優しさに、申し訳ないが甘えてしまおう。スミマセン、私がやるべき仕事を全てやって頂いて……　ついでにもうひとつスミマセン、私、これ完璧に体調を崩しますわ……

正月早々、営業中にベロンベロンに酔っぱらってダウン。そこからタチの悪い風邪を引いて、翌日以降の仕事もヘロヘロ。2005年も、スタートダッシュに大失敗である。

「カタギリ店長も、酒が入ってないときはマトモなんですけどねぇ」

翌日、真顔でそう話しかけてきた巨漢のアルバイトスタッフのオオシマ君。運んできてくれたのは君だったんだね、どうもありがとう。でも、一言だけいいかな？餅つきの時に、私を一番煽っていたのは君だったよっ！！

カタギリ・今週の1枚

2016年のベスト・ショットは間違いなくこの1枚。

万枚を突破した瞬間に「タッチ」も流れて、最高の1日でしたね。この時はまだ、年間収支はプラスだったんだよなぁ…（遠い目）

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この記事へのコメント（10 件）

元・店長カタギリ: 投稿日：2016/12/30; 長門龍希さま。

ハンマーは牙ナントカのガラスを割るのに使うんですよ！　←おい

個人的にはこの頃だと、パチスロだと銭形やボンバーパワフルを打つことが多かったかなぁ。
パチは相変わらず初代エヴァ一択でしたね～。

元・店長カタギリ: 投稿日：2016/12/30; あっきさま。

おお、たんこさん！
お元気でしたか！？
お店の調子はどうですか？？

この時はヤラかしましたね～。
さすがに反省しましたよ……

こちらこそよろしくです～

元・店長カタギリ: 投稿日：2016/12/30; すろさま。

昔は元日の開店前に一杯だけ、というパチ屋も多かったんですよ。
さすがに最近はあまり聞かなくなりましたが、まだやってるところもあるんじゃないかなぁ～？

ま、飲まないに越したことはないですけどね（笑）。

元・店長カタギリ: 投稿日：2016/12/30; 元職長さま。

昨年、従兄弟の披露宴でバカ飲みした私。

帰りに新幹線の駅で真横にブッ倒れて（目撃者・談）、そのまま気絶したそうです。
それでも酒はヤメられませんが、セーブするようにはしています……

元・店長カタギリ: 投稿日：2016/12/30; ままどおるさま。

正月といえば餅つき！！

実はウチの店でも今年は餅つきでも……　という話が持ち上がりかけたのですが、ノロウィルス問題が怖いのでパックの切り餅を配ることになりました。

夢が無いっ（笑）！

長門龍希: 投稿日：2016/12/30; ああ...杵からハンマーという高度な情報戦......なんでハンマー握るんですかね（すっとぼけ）

２００５年じゃちょうど吉宗をゲーセンでうってた頃かなあ

あっき: 投稿日：2016/12/28; ぎもちゃん、メリクリクリ。
あの時はたんこでいましたね。覚えてますか？笑

でも、酒の力はすごいですな。
私は酒の力を借りて、上司の頭をひっぱたきたいです笑

来年もよろすくね

すろ: 投稿日：2016/12/28; 酒は飲まないから大丈夫

元職長: 投稿日：2016/12/28; 酒の失敗は誰にでも（飲む人ね）必ずある
あたしの場合は友人の結婚式で飲み過ぎて
2次会に行った記憶が無いが
2次会に出発した記憶はある
気づいた時は病院でしたよ
種類は違えどイベントでの酒は
ヤバい
今は酒1敵も飲みません

トリオレの三男: 投稿日：2016/12/28; カタギリさんとぺったんぺったんしたいです！
楽しそう！

ちゃんと美味しい日本酒用意しますので…

元・店長カタギリ: 代表作：しくじり店長

シルバ〇アファミリーみたいに小さなパチンコ店の責任者から一転、雑巾がけがメインの業務となってしまった事務員へとグレードダウン。そんな設定①のスランプグラフのような半生を、隔週水曜日に連載させて頂いております。タイトルは「しくじり店長」。パチ屋の店長が平社員へと降格していく逆サクセスストーリーを、海物語シリーズの泡リーチを見つめるような気分でお読みください。